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とんかつ3名士 河田部長の とんかつひとり旅㉕揚雫 ようだ(横浜・日本大通り)

山下公園の近く、神奈川県民ホールと神奈川芸術劇場の中間に店はあります。少し奥まったガラス張りの店で、見た目ではとんかつの店にはなかなか見えません。店主の保坂啓さんはフレンチ出身で、2021年4月に店をオープンさせました。独自に開発した方法で調理をしているとのことで、40〜50分時間がかかるため、事前に予約してメニューを決める必要があります。私はロース 120g、ヒレ45gの盛り合わせを注文しました。

店に入るとカウンターには仕切りがあり、調理プロセスが見えないようになっています。保坂さんによると、5段階温度を変えて揚げているそうです。豚肉はロースが TOKYO X、ヒレが石上極豚でした。石上極豚は食肉卸鈴商ミートサプライの独自ブランドで、指定生産者が長期肥育した豚の枝肉から選別して提供しています。

事前に準備しているせいかそれほど待たずにとんかつが登場しました。手前にある一切れは赤い色が強めに見えますが、全体的に適度に火が通っています。豊潤な肉汁が感じられます。

面白いのはカウンターにある食べ方の注意書きです。まず、とんかつは添えられている塩とワサビで食べ、ソ ースはキャベツにかけるようにとあります。これは最近は塩で食べるのが浸透しているので、当然かと思います。次に美味しさの「最高到達点」を考えて揚げているので、早く食べ切るようにとあります。これも納得です。ご飯、お新香、味噌汁は別のタイミングで出てくるのですが、とんかつに集中して欲しいためと思われます。そしてとんかつをどこから食べるかという問題です。私は真ん中から食べることが多いのですが、ここでは脂身が冷めると味が落ちるので脂身の多い右端から食べるのが良いとしています。確かにこれは一理あります。最後にヒレは乾燥しやすいのでカットしていない、丸ごと齧り付くようにとあります。口を大きく開ける必要がありますが、ワイルドな快感があります。こう書くと気難しい店主では思われるかもしれませんが、接客は柔らかいので、ぜひ予約して訪問してみて下さい。

お勧めポイント
●独自の調理法による緻密なとんかつ
●美味しい食べ方を知ることが出来る。

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河田 剛

大手証券会社の調査業務に携わる傍らでグルメアナリストとしても活躍。さまざまな料理を食べ歩き、著書『ラーメンの経済学』(KADOKAWA)で話題に。料理の背景や素材、流通に至るまで、幅広い視点での鋭い洞察が特徴。