檀崎真由美のボルドー通信『フランス必食N E W S』⑨
今回のボルドー通信は今年の6月末に惜しまれつつ永眠されたChâteau LYNCH BEGES(シャトー・ランシュ・バージュ)の先代当主ジャン・ミッシェル・カーズ氏、通称カーズおじさんとの思い出とワインについて。
ボルドーの中心地から40km程離れたオーメドック地区ポイヤック村まで車を走らせると、LYNCHBEGESの象徴的なワイン畑が見えてきます。この景色を雑誌等で見かけた方も多いのでは無いでしょうか?
人気漫画『神の雫』24巻にLYNCH BAGES とカーズおじさんの物語が描かれてます。
現在は長男のジャン・シャルル・カーズ氏統括により数年前に近代的なシャトーに改装。
斬新なワイン醸造所内に歴史を感じる荘厳な装飾のブランコがさり気なく設置されています。
仕事の合間に時に童心に帰って、疲れを癒すのでしょうか?
数年前に大学時代の友人から突如『今パリの空港でボルドーに向かってる』と連絡が入り、長い年月を経て嬉しい再会を果たしました。娘さんはすっかり美しい大人の女性に。
母娘共にかなりのワイン愛好家で、娘さんの仕事の休暇中に二人でボルドーに訪問。
二人は『神の雫』の愛読者で、ワインの聖地ボルドーの滞在を漫画のシーンと共に楽しみながらグランクリュのシャトー巡り。
私もシャトー・ムートン・ロスチャイルドとシャトー・ル・ピュイへ一緒に訪問しました。
その後、彼女達はChâteau Cordeillan-Bages(シャトー・コルデイヤン・バージュ)に宿泊の為に列車でポイヤックへ。
滞在を満喫し翌日にチェックアウトして、2人でスーツケースを引きながら列車の駅まで向かっていると、突如一台の車が彼女達の所で止まり、中から白髪のおじいさんが駅まで送るから車に乗る様に指示して来たとの事。彼女達は見ず知らずの人の車に乗るが心配で、断ったそうなのですが、何度も乗るように促され迷った挙句、友人は『真由美ちゃんと同じこの車に乗っている人に悪い人はいないよ』という愉快なロジックに基づき、駅まで長距離であるのと、あまりに親切に何度も言われたので、結局躊躇しながらも車に乗せてもらう事に。するとそのおじいさんは何故か駅とは違う方向に戻るので、二人は『どうする?最悪スーツケースは諦める?』と焦りながら短い道中に色々な思いが駆け巡ったそうです。
そしておじさんが車を停め、一緒に来るように言われて案内されたのが、何と新しく改装されたばかりの未公開のChâteau LYNCH BAGESの醸造所!
丁度数日前に我が家に招待した際、彼女達がお土産に持って来てくれた程好きな銘柄です。
『え?もしかしてこの人はカーズおじさんなの⁉︎』と二人は大興奮となったそう。
大の日本贔屓のカーズおじさんは彼女達に自慢の最新鋭のシャトーを見せたかったのと同時に、このとても美しい母娘の喜ぶ顔を見たかったのかもしれません。
予期せずに憧れのシャトー訪問が叶い、大切に持ち歩いてる漫画の世界から飛び出した本人自ら案内されたのですから、この2人はどんな幸運に恵まれた事か。(友人から写真を拝借)
勿論、この漫画にサインも忘れません。この後カーズおじさんはキチンと駅まで送ってくれて、切符まで親切に買ってくれたそうです。
私もその直後にシャトー訪問した際、カーズおじさんをお見かけしたので『先日は私の友人親子が送ってもらいお世話になりました!二人共あなたに案内してもらい感激してました』とお礼を言いました。
【神の雫】はフランス語にも翻訳されてボルドーの本屋や図書館でも大人気。以前に息子のスポーツトーナメントの最中に、ワイン商のママ友から『Mayumi この漫画知ってる?こんなにも丁寧にワインの詳細に関して細かく記されている本はないわ。聖書みたいなものよ!絶対にあなたも読みなさい!』と手渡され、日本人として誇らしい気持ちになりながら一緒に芝生の上で読んだ大切な思い出の漫画でもあります。
神の雫はボルドーの新名所【ワイン博物館】でも紹介されている位、ワインの聖地でも讃えられています!
ワイン博物館内の【神の雫】プロジェクションマッピング
幸運な友人親子を我が家に招いた時のお土産ワイン【Chateau LYNCH BEGES2016】このワインがカーズおじさんとの出逢いを引き寄せたのかも?
私の中華料理とも良いマリアージュに。大変美味しく頂きました。
こちらは一般公開前のChâteau LYNCH BAGEに誘ってくれたワインコンサルタントの友人を招き、カーズおじさんを偲んで思い出を語りながらアペロした時の一枚。
ECHOのワインに合わせて作ったのは冷製コーンスープ、キャラメルオニオンのフムス、スモークサーモンと生ハムとポテトサラダのカナッペでおもてなし。
こんなにも愛情深いカーズおじさんが心を込めて大切に造り守ったChâteau LYNCH BAGESのワインはセカンドラインも併せてエレガントで美味しいのでお勧めです。
【神の雫】を片手にカーズおじさんを偲びながら飲んでみては如何でしょうか?
ジャン・ミッシェル・カーズさん、素敵な思い出を有難うございました。
<Chateau LYNCH BEGES>
18世紀にアイルランドからこの地に移住して来たトーマス・リンチ氏の名前のLYNCHを、フランス語読みのランシュに、集落の意味のBEGESバージュから由来しシャトーの名に。
その後1939年から現代のカーズファミリーの所有となり、格付け5級ながらもそれ以上の格付けワインとして世界中から愛され、スーパーセカンドの一つと評されている。
Château LYNCH BERGES 収穫の様子2023
フランスボルドー在住料理家。ダンラキュイジーヌ(Dans La Cuisine)主宰。
La société MT GESTION CULINAIRE共同代表(フランス)。
Alchemist.Pte.Ltdコーポレートシェフ(シンガポール)。
和洋中の料理を専門的に学び、著名な一流シェフのアシスタントを経験後、仏料理店『シェ松尾』で5年修行し独立。
クッキングスタジオでの料理教室開催、大手企業や海外一流ブランドのパーティーフードをシェフとして手掛け、人気を集める。アメリカ、シンガポール生活後、現在ボルドーを中心にフランス政府正規就労許可の元、料理教室、オンラインレッスンを開催。英語と仏語でも和食レッスンを行い、全国放送『F R A N C E3』にてお節料理を作り、自身の料理活動と共に紹介される。フランス料理だけでなく、和食、本格中華点心迄ワンランク上のクオリティーに仕上げるテクニックで国内外問わず活躍中。