和食STYLE

⾼橋綾⼦のNO SUSHI, NO LIFE – 第三五回 波濤

第三五回 波濤

フォルムが美しく上品で芸術的な「握り」にうっとり

ツウの間で評判の「波濤」。神楽坂の裏道でひっそりと佇むこのお店はあのミシュラン三つ星の「石かわ」グループの一員です。だから外観も内観も何となく「石かわ」や「虎白」を彷彿とさせ、お鮨屋さんというより和食屋さんって感じ。大将の熊切大地さんはまだ32歳。「石川」「虎白」「 蓮三四七」で9年間修業し、1年間だけ東麻布の「天本」にいたそうです。 なのでつまみが高級日本料理レベル! 鱧出汁のお椀なんて本当にヤバうまでした。 本日は「鮑」「甘鯛と蓮根餅」「鱧のお造り」というラインナップの つまみが3品、次にお椀が出るともう握りが始まります。 握りは蓮の葉にのせた「白芋茎」から。緑が鮮やかで白い芋茎とのコントラストが見事。美しくてため息が出ちゃいます。

酢飯は白酢。ほんのり温かくてやわらかめでねっとり気味。途中、烏賊のあたりで米粒が少し締まったかなと思ったけど、続く車海老にはやわさが戻っていたので、基本はそんな感じなのかも。そして1貫がかなり小振りです。酢飯、10gくらいなんじゃないかな。ぱっと見、「細っ」って思ったほど。握り方ですが、熊切さん、結構返します。多い時は8手くらい握ってました。

本日のタネのせいかもしれませんが、切りつけも締め方も酢飯も全体的に“まったり”って印象です。鰹は炙った皮の表面だけがうっすらゴリゴリだけどやわらかく、身はまったり。同じくまったりした酢飯と相まっておいしかったな。コハダもそうだけど、どれも酢はきっちり利いているのこのまったり感が食べ疲れしないんです。車海老は茹でたて熱々状態でお弟子さん2人が殻を剥き、隣で熊切さんが切り付ける。坊主頭が3つ並んでなんか可愛い。中トロも赤身かと思うくらいスッキリでとろりんとした舌触り。どちらかというと鮪は赤酢派なのですが、なんか白酢もいいなと思ってしまいます。

唐津の雲丹もまったり。もちろんこの酢飯とピッタリ! そして〆は「すっぽんの煮麺(にゅうめん)」。卵とじで出汁が優しくて、これはたまらん! 「石かわ」修業の賜物ですな。いやいや若手ながら完成度は高く、今後も期待できます。トークも楽しいし(本人は話し下手と言っていますが)、言葉遣いも丁寧で心地いい。言うならばもう少しつまみが欲しいかな。本日の握りは12貫、梅紫蘇巻きを追加して、いい気分でお会計したら麦焼酎ソーダ割1杯と日本酒4合で49,600円。石かわグループ価格、恐るべし。

綾⼦の⾃分勝⼿評価基準
おひとりさま度:ひとりではもちろんのこと、たとえ初めてでも楽しめるかどうか。また何か素敵なことが起こるか、客層はどうかも含む。
⼝福度=価格の満⾜度:鮨⾼騰の折、基準は⾷べて飲んで 4万円以下。おいしいは当然、⽀払いをした時にどう感じたか。
ロケーション&設え:「google map」で迷わずたどり着けるか。内観のセンス、器や酒器、トイレの清潔感など店内の印象。
サービス:スタッフの接客の満⾜度
のどの渇き度:完璧に個⼈的主観だが、塩分過多などでのどが乾くような味が苦⼿。評価は星が多いほど、のどは渇かないということ。

【評価】
おひとりさま度 ★★
⼝福度=価格の満⾜度 ★★★
ロケーション&設え ★★★★
サービス ★★★★
のどの渇き度 ★★★★

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⾼橋綾⼦
(たかはしあやこ)

フードパブリシスト。国内外ファッションブランドのプレスとして従事した中で肥えた“食”へのこだわりは、その後の素晴らしい人々との出会いと相まっていつしか人⽣そのものに。
その間に培った食のデータと人脈を武器に、年間 1000 軒ほどの外食で“喜ばれるレストラン”の発掘に勤しむ⽇々。「綾⼦のギョーカイ総受けグルメ手帖」「BRUTUS」「GQ」「食べログマガジン」「集英社オンライン」などに寄稿。BS フジ「リモート☆シェフ」では審査員として定期的に出演。
東京都主催の食の祭典、「Tokyo Tokyo Delicious Museum 2023」のプロデューサーに就任。また企業のメニュー開発やアドアイザーにも携わる。おいしいものしか喉を通らない不思議体質。