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とんかつ3名士 河田部長の とんかつひとり旅⑳空蝉亭(京都・二条城前)

空蝉亭(からせみてい)は2018年創業の比較的新しい店ですが、ミシュランに掲載されたこともあり、予約が取りにくくなっています。二条城の北にあり、地下鉄の二条城前の駅から15〜20分ほど歩くと下立売通に面した店が見えて来ます。坪庭のある町家を利用した店で、京都以外ではなかなか見られない造作です。

この店は熟成豚専門とんかつ店を標榜しており、冬眠熟成×低温調理という独自のコンセプトを打ち出しています。冬眠熟成は空蝉亭独自の手法で、50度の水で豚肉の汚れを落としカット、それを独自の発酵エキスに漬け込み、真空パックに詰め−1.0〜1.5度で21〜45日間熟成させるというものです。低温調理は、揚げ油としてはやや低めの150℃で、厚生労働省が定める衛生基準をクリアし、かつ肉の旨みを逃さない63℃に中心温度を保ちながらじっくり揚げるという方法です。

鹿児島の南州豚のロースにヒレを追加して注文しました。最初にとんかつ店で一般的なキャベツではなく、バーニャカウダが運ばれて来ます。京都の地元産野菜、大根やローストした玉ねぎなどを使っており、野菜本来の地力が感じられます。とんかつは熟成をかけているだけあって、熟成香りと濃厚な旨みが押し寄せて来ます。豚肉を数日熟成させたり、もう少し長く熟成した豚肉を扱うとんかつ店はあるのですが、ここまでの熟成感は他では経験できないのではないでしょうか。一方、揚げ油はラードやヘルシー志向の店でしばしば使われる米油ではなく、地元の老舗、山中油店の菜種油を使用して入り、衣は軽く仕上がっています。また、この店ではドリンクとして自家製ジンジャーエールを勧めています。ジンジャーエールととんかつは合いそうもないのですが、京都の名水、御所染井の水と生姜、レモンを合わせて作ったもので、予想以上にマッチします。

京都らしい雰囲気の中で、他には無い個性的なとんかつを味わえる店です。

お勧めポイント
●独自の熟成感があるとんかつ
●京都らしい町家の風情

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河田 剛

大手証券会社の調査業務に携わる傍らでグルメアナリストとしても活躍。さまざまな料理を食べ歩き、著書『ラーメンの経済学』(KADOKAWA)で話題に。料理の背景や素材、流通に至るまで、幅広い視点での鋭い洞察が特徴。