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とんかつ3名士 河田部長の とんかつひとり旅⑲ぽん多本家(東京・御徒町)

明治38年(1905年)創業とされるとんかつを提供する店としては屈指の老舗です。現在は四代目主人の島田良彦さんが中心となり、店を経営しています。とんかつの専門店ではなく、魚のフライやタンシチューなども揃える洋食店です。

現在は立派な構えの店ですが、かつてはしもた屋風の建物で営業していました。40年ほど前、祖母と一緒に出かけたところ、とんかつの柔らかさに大変喜んでいたことを覚えています。 洋食店なのでとんかつはカツレツという名前になっています。ロース、ヒレといった区別はなく、一種類のみです。特に銘柄豚などは謳っておらず、近県から質の良い豚をその都度仕入れているようです。カツレツの特徴はロース肉を丁寧に掃除して、脂身を切り落としてしまうことです。ロースかつで脂身が無いと物足りないのではないかと思ってしまいますが、そんなことはありません。というのもカットした脂身を刻み、そこに牛脂を少し加えて自家製ラードを作り、それでカツレツを揚げているからです。すなわち脂身が赤身に戻っていく形になっているのです。口に含むとほんのりと脂の甘さが広がります。戦前は牛脂でとんかつを揚げており、大変美味しかったと言われていて、ごく少量の牛脂も効果的なのかもしれません。

衣は糖度の低いパン粉を使い、低温から温度を調節しながら揚げていくため、白っぽく仕上がります。白いとんかつの先駆け的な存在と言えるかもしれません。塩と自家製ウスターソースが用意されていますが、下味がしっかりしているのでそのまま食べられます。ソースは大変美味しいのでキャベツにかけるといいでしょう。そのキャベツはこまめに刻んでおり、ほのかな苦みで箸が進みます。盛り付けも大変丁寧です。別途注文 するご飯、赤だし、お新香も手抜かりはなく、老舗の矜持を感じます。キスや小柱のフライも天ぷらとは違う魅力があり、お腹に余裕があるならお勧めです。

お勧めポイント
●自家製ラードで揚げた甘みのあるカツレツ
●高水準なご飯、赤だし、お新香

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河田 剛

大手証券会社の調査業務に携わる傍らでグルメアナリストとしても活躍。さまざまな料理を食べ歩き、著書『ラーメンの経済学』(KADOKAWA)で話題に。料理の背景や素材、流通に至るまで、幅広い視点での鋭い洞察が特徴。