檀崎真由美のボルドー通信『フランス必食N E W S』⑧
今回のボルドー通信は2018年8月に全世界で惜しまれながら永眠された料理界の偉大な巨匠
ジュエル・ロブション(Joël Robuchon)氏との我が家の大切な思い出とそれに纏わる食の話。
私の主人(檀崎友紀)はロブションレストランが日本に初上陸した1994年カフェ・フランセのシェフとして勤務。後にタイユヴァン・ロブションレストランの二代目エグゼクティブ・シェフに就任。10年勤務後ロブションレストラン初の海外進出に伴い、Robuchon氏より現地スタッフを育て、三つ星を獲得するという重要な任務を受けアメリカ、シンガポール、フランスと新店舗を立ち上げました。子供達が赤ちゃんの頃から3カ国の海外移住をしてきたので、Robuchon氏には心を掛けて頂きました。
1番の思い出はスペイン・アリカンテの別荘に招待を受けた時の事。Robuchon ご夫妻と共に小さなお子さん達も一緒にお出迎え。夜はご友人と共にレストランのテラスで食事。その時にひとりの画家が絵の売り込み来ていて、Robuchon氏の奥様が『この絵は好き?せっかくだからこの絵を新婚さんにプレゼントしたい』とサプライズな贈り物に感激!!
翌日はRobuchon 氏と娘さんと私達の4人で一緒にビーチに。主人は勧められたお酒ですっかり気持ち良くなりまさかの昼寝。通訳を失い偉大な巨匠と可愛らしい7歳のお嬢さんの3人で私のカタコトのフランス語を駆使して海で泳いだり、砂遊びした光景を今も鮮明に覚えています。
夜は3人でRobuchon氏御用達のBAR(バル)へ。『ここのハモン・セラーノ(スペイン産生ハム)がとても美味しいからBébé (赤ちゃん)が早く来るようにどんどん食べなさい!』とのお言葉。カウンター越しにその店のシェフがその都度丁寧にスライスしてくれます。
しかし!私が口に運ぶ傍からRobuchon 氏が、わんこそば状態で次から次へと私の皿に生ハムをのせてくる!!最初は笑っていたけれど、途中から流石に厳しくなり『Non Merci!』とお断りしても『Bébé の為に』と笑顔でエンドレス状態。あの場面を思い出すと今も苦笑。
Robuchon氏曰く『生ハムは必ず手で食べること!フォークの鉄成分が口に運んでいる間に変化をもたらし味に影響を与えてしまう』とその場で教授され、実践すると『なるほど!確かに味わいが違って美味しい!』世界の巨匠はこんな細部にも拘りがあるからこそ世界で最もミシュランの星を持っているのだ!と納得。この金言は皆さまもお伝えし、是非一度試してみて頂きたいと思いました。
数日過ごした後にRobuchon氏が『スペインに来たのだから、このレストランには行きなさい!』と2001年当時、世界で最も予約が取れなかったかの有名な『エル・ブジ』レストランのフェラン・アドリアシェフに巨匠自ら直接予約を入れて下さいました。
バルセロナから車を数時間走らせて聖地へ。エル・ブジではまるでテーマパークに居る様なワクワクする目から鱗の33品の料理を堪能。主人の誕生日にフェラン・アドリアシェフに調理場を案内頂きながら、夢の様な時間を過ごす事が出来ました。
Robuchon氏からの大切な使命を受け、主人はラスベガスとシンガポールのロブションレストランを三ツ星に導きます。ボルドーのLa Grande Maison Joël Robchon (ラ・グランメゾン・ジョエル・ロブション)レストランではエグゼクティブシェフとディレクターを兼任し、開店後8か月の最速で二つ星を獲得。しかし残念ながらRobuchon氏と共同オーナーのBernard Magrez(ベルナール・マグレ)氏の折りが合わなくなり、2年目の三つ星確実!と言われながらもその時を待たずに突如閉店。
その後Robuchon氏はパリでガストロノミックのレストランの開店準備を主人としていましたが、2018年8月6日にスイスで帰らぬ人となりました。
La Grande Maison Joël Robchon ボルドーのレストラン開店直後に主人はスキャンダルに巻き込まれます。フランスのお膝元でロブションレストランのトップのエグゼクティブシェフが日本人という事が面白く思わない人々も多く、スキャンダルを捏造されフランス全土のニュースでも一面で取り上げられましたが、それでもRobuchon氏は主人を全力で守って下さいました。
Robuchon氏から『次のレストランのオープン迄預かって』と頼まれたトリコロールのシェフコートは、我が家に今も大切に保管されています。
主人は海外新店舗オープンで超多忙の為、私は見知らぬ国でいつも完全ワンオペ子育て。もし私が寝込んだら、この子達は何も食べる事が出来ない!と思い、小さい頃から遊びを通して料理を作る様にしていました。子供達のお気に入りはロブションレストランごっごで、可愛いイラスト入りメニューには本日のメニューとWelcome to Joël Robuchon Restauranの文字。役割分担もシェフとサービスで大忙し。
子供メニューに度々登場していたのが野菜たっぷりのビーフスープ。このスープに使用しているのは『ARIAKE』のスープストックです。現在は商業契約期間が終了してますが、このスープはJoëlRobuchon氏と有明(株)の共同開発商品でした。有明の社長さんが自らRobuchon氏を訪ね、『自然で最高に美味しいレシピのスープストックを作りたい』との思いから商品化。
試作品や完成品を主人も巨匠と確認していたとの事。その後ARIAKEグループはRobuchon氏の勧めにより、ARIAKEヨーロッパ製品が誕生。現在は販売当初の様にパッケージにRobuchon 氏の顔や名前は在りませんが、味はそのまま美味しく残っています。
私は以前パリのアラン・ドゥカスの料理教室に参加していて、そこでも講師が『自宅でブイヨン等を一から準備するのは大変だからRobuchon氏が手掛けたARIAKEのスープベースを使うと気軽で、料理がクオリティー高くなるよ!』と推奨していて勝手に嬉しく思っていました。
特ビーフストックは一度沸かした湯にスライス生姜を少し入れて、そのままシンプルに味わうのがお勧め!
Joël Robuchon | ARIAKE (ariake-europe.com)
風邪で食欲がない時はこれで乗り切ります。
私のレッスンではビーフブイヨンをジュレにしてとうもろこしのスープと二層仕立てに。
Joël Robuchon | ARIAKE (ariake-europe.com)
私達にとって偉大な巨匠を身近に感じていた事は、今思うと身に余まる光栄でした。世界で最もミシュランの星を持つ世紀のジョエル・ロブションシェフのご葬儀は生誕の地ポワチエで執り行われ、参列された世界各国から偉大なシェフやロブショングループの方々の悲喜こもごもの表情を8月6日になると思い出し、寂しさと感謝を胸に毎年過ごしてます。
2018年9月マクロン大統領主催、日仏友好160周年記念の皇太子殿下(現天皇陛下)主賓のベルサイユ宮殿での晩餐会。ロブションレストランチームを率いてRobuchonのシグネチャー料理を準備した時の写真。
フランスボルドー在住料理家。ダンラキュイジーヌ(Dans La Cuisine)主宰。
La société MT GESTION CULINAIRE共同代表(フランス)。
Alchemist.Pte.Ltdコーポレートシェフ(シンガポール)。
和洋中の料理を専門的に学び、著名な一流シェフのアシスタントを経験後、仏料理店『シェ松尾』で5年修行し独立。
クッキングスタジオでの料理教室開催、大手企業や海外一流ブランドのパーティーフードをシェフとして手掛け、人気を集める。アメリカ、シンガポール生活後、現在ボルドーを中心にフランス政府正規就労許可の元、料理教室、オンラインレッスンを開催。英語と仏語でも和食レッスンを行い、全国放送『F R A N C E3』にてお節料理を作り、自身の料理活動と共に紹介される。フランス料理だけでなく、和食、本格中華点心迄ワンランク上のクオリティーに仕上げるテクニックで国内外問わず活躍中。