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とんかつ3名士 河田部長の とんかつひとり旅⑰すぎ田(東京・蔵前)

蔵前で1977年に創業し、現在は創業者の息子さんで二代目の佐藤光朗さんが厨房に立っています。まず店に入って目につくのは店内の清潔さです。赤銅色の鍋はピカピカに磨き上げられています。ダクトや天井も掃除が行き届いており、油物を扱う店とは全く思えません。

メニューは絞り込まれています。ロースとヒレのとんかつ、同じくロースとヒレのソテー(店内の木札にはフランス語風にソーテと買いてあります)、エビフライ、オムレツ、サラダ、ごはん、豚汁のみです。とんかつは低温と高温のラードが入った2つの鍋を使って揚げられます。まず高温で軽く揚げ、次に低温でじっくり揚げ、最後にもう一度高温で仕上げます。最後の工程には油で油を切る役割があるそうです。頻繁に揚げカスを掬い取って、油は常に綺麗な状態が保たれています。豚は特に銘柄豚にはこだわらず、長年取引のある業者から厳選したものを仕入れています。

揚がったロースのとんかつは綺麗なきつね色の衣を纏っています。使われているパン粉は近くのパンの名店「ペリカン」製です。面白いのはとんかつが薄めにカットされていることです。最近は厚切りのとんかつが人気ですが、すぎ田の薄切りのとんかつは食べやすく、負けず劣らず魅力があります。肉はしっかり目に火が通されており、じわりと旨みが滲み出してきます。卓上には塩、オリジナルのとんかつソース、リーぺリンのウスターソースが置かれています。とんかつソースとウスターソースの違いが明確で、どちらでも楽しめます。

野沢温泉のコシヒカリを使用したご飯もどの時間帯に訪問しても美味しいです。豚肉はほぼ出汁だけに使い、根菜が多めの豚汁はさっぱりしてこちらのとんかつとよく合います。

先代の時代にも何度か訪問していますが、二代目は基本を踏襲しながら工夫を重ね、美味しさが増しています。まさに下町の良心、東京の粋というべき店だと思います。

お勧めポイント
●細部にわたる丁寧な仕事
●古くからの東京らしさを感じさせる洗練

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河田 剛

大手証券会社の調査業務に携わる傍らでグルメアナリストとしても活躍。さまざまな料理を食べ歩き、著書『ラーメンの経済学』(KADOKAWA)で話題に。料理の背景や素材、流通に至るまで、幅広い視点での鋭い洞察が特徴。