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とんかつ3名士 河田部長の とんかつひとり旅⑮とんかつ いわい(東京・大門)

10年ほど前、ご主人の岩井三博さんは浅草の「豚珍館」という店で働いていました。たまたま入ったその店で食べたとんかつが美味しかったため、何度が訪問しましたが、ある日出かけたところ、閉店していました。大変落胆したことを覚えています。

その後、芝大門で「のもと家」の名前で再開した際にはすぐに駆けつけてました。現在は岩井さんがオーナーとなり、「とんかつ いわい」として営業しています。

この店の特徴は六白黒豚をはじめとして、鹿児島の産品を主に使用している点です。六白黒豚は東京では「けい太」などでも使用している豚で、サツマイモなどを餌として食べ、脂の甘みと赤身のしっかりした肉質を持っています。今回は六白黒豚のロースとヒレ、海老フライを組み合わせたコンビ定食に珍しいナマズのフライを追加しました。

岩井さんはかつてTV番組で「豚さんの声が聞こえる」という名言を残しています。長年の経験から、揚げ具合を鍋の中の豚肉が教えてくれるというのです。物事も極めればそのような境地に至ることがあるのかもしれません。

その通り、岩井さんのとんかつの揚げ技術は的確で、きつね色、中粗の衣を纏ったとんかつは口に入れると思わず笑みがこぼれます。面白いのは茎わさびと鹿児島産の甘口醤油をとんかつにつけて食べることを勧めていることです。醤油は鹿児島の老舗、サクラカネヨのこいくち甘露で、辛さ控えめの茎わさびと醤油が鹿児島の豚肉によく合います。これは他の店には無い魅力です。

ナマズのフライは比較的最近導入されたメニューですが、ヒラメなどにも通じる品の良い味で、とんかつに変化がつきます。豚汁もサクラカネヨ製で甘みがあり、大変美味しいです。ここで長年働いた女性が熱海で豚汁を売りする店を最近開店したほどです。

岩井さんは新しい展開も考えているようなので、今後も大いに期待されます。

お勧めポイント
●鹿児島の魅力を活かした豚肉や調味料
●店主の緻密な揚げ技術

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河田 剛

大手証券会社の調査業務に携わる傍らでグルメアナリストとしても活躍。さまざまな料理を食べ歩き、著書『ラーメンの経済学』(KADOKAWA)で話題に。料理の背景や素材、流通に至るまで、幅広い視点での鋭い洞察が特徴。