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とんかつ3名士 河田部長の とんかつひとり旅⑬車力門ちゃわんぶ(東京・荒木町)

2019年の初夏、私は四谷荒木町の車力門通りへと急いでいました。日本料理の大看板である「京味」の出身者がとんかつ店を開いたという噂を耳にしたからです。店主の武澤剛志さんは「京味」で修業した後、同じ場所で同じ名称の「車力門ちゃわんぶ」として高級板前割烹を営んでいました。一旦閉店した後、とんかつ店として再オープンしたというのです。

初訪問の際、それこそ高級日本料理店さながらに、一人ずつご飯を炊き、味噌汁を作っているのには驚愕しました。とんかつ業界に黒船が来襲したかと思えたものです。このご飯や味噌汁は、後続の店にも影響を与えたようです。現在は流石にそこまではやっていないようですが、相変わらず高水準のとんかつを提供しています。現在は1時間ごとの予約が基本になっています。

店内はカウンター主体で奥にはテーブル席もあります。基本的に用意されている銘柄は、山形三元豚、米沢三元豚、梅山豚の三種ですが、今回に訪問時は最も高額である梅山豚にしてみました。200グラムのロースを定食にすると8000円を超えてきます。梅山豚は日中国交回復時にパンダとは別に日本に贈られた豚で、現在は民間では茨城県の塚原牧場でのみ飼育されています。ある程度高価なのも仕方ないかもしれません。

元々板前割烹だっただけあって、美濃の俎板皿など、凝った器が使われています。とんかつは衣がきつね色に揚げられており、肉は適度に火が通っています。さすが梅山豚というべきか、重厚な味わいです。とはいえ米油で揚げているためか、200 グラムの量は軽く食べられます。自家製のソースは温かい状態で供されますが非常に香り高いです。ご飯、味噌汁はまとめて作っているものの、日本料理の名店の出自を十分に感じさせるものです。お新香はもちろん美味しいです。とんかつの歴史に一石を投じた店だと言えます。

お勧めポイント
高級日本料理店の技術を導入
ご飯、味噌汁を含めたトータルバランス

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河田 剛

大手証券会社の調査業務に携わる傍らでグルメアナリストとしても活躍。さまざまな料理を食べ歩き、著書『ラーメンの経済学』(KADOKAWA)で話題に。料理の背景や素材、流通に至るまで、幅広い視点での鋭い洞察が特徴。