和食STYLE

とんかつ3名士 河田部長の とんかつひとり旅 ⑦成蔵(東京・南阿佐ヶ谷)

近年のとんかつ革新の牽引者であることは衆目の一致するところだと思います。ご主人の三谷成蔵さんは高田馬場で開業した「成蔵」を大行列店にまで成長させました。その後、2019年に南阿佐ヶ谷に移転し、完全予約制の店として再スタートしました。

成蔵は高田馬場時代に既にトップクラスの評価を得ていましたが、移転しても品質向上の手は緩めていません。使用する豚もより選別しています。以前は数種類の銘柄から選ぶ形でしたが、現在はその日入荷した銘柄一種類の部位を2つまたは3つ選ぶ形になっています。直近で私が訪問した日は、雪室熟成黄金豚でした。部位は特ロースとシャ豚ブリアンを選びました。シャ豚ブリアンはシャトーブリアンから発想した成蔵独自のメニューです。

提供の仕方は、通常の1枚まるまる揚げて出すやり方から部位ごとに別々に2切れずつ出すやり方に変えています。部位ごとに最適な揚げ方があるという考え方からです。熟成をかけた肉は柔らかく旨みがたっぷりです。そして断面が肉汁で輝いています。これほど美しいとんかつは唯一無二だと思われます。

成蔵といえば「白いとんかつ」で知られています。糖度の低いパン粉を希少な腸間膜ラードでじっくり揚げることで、白い花が咲いたようなような衣になります。しかし、最近では少しきつね色にカリッと揚げている部分もみられます。この方が肉を美味しく食べられるからだそうです。美味しさのためには人気を博した要素も躊躇なく変える姿勢には驚かされます。

付け合わせも怠りなく、キャベツは切って一旦水に晒し、保存する店が多いところ、そのまま細かく刻んで提供し、野菜の風味を活かしています。ご飯は羽釜炊きに変え、一層美味しくなっています。ここ数年はレベルの高いとんかつ店が増えていますが、成蔵は依然として先頭を走っています。「成蔵を知らずしてとんかつを語るべからず」と言っても過言ではないと思います。

お勧めポイント
●常に改善を続けるとんかつ界のトップランナー
●肉汁が輝く美しい断面に注目

過去記事はこちらから

過去記事はこちらから

河田 剛

大手証券会社の調査業務に携わる傍らでグルメアナリストとしても活躍。さまざまな料理を食べ歩き、著書『ラーメンの経済学』(KADOKAWA)で話題に。料理の背景や素材、流通に至るまで、幅広い視点での鋭い洞察が特徴。