和食STYLE

⾼橋綾⼦のNO SUSHI, NO LIFE – 第二一回 鮨なんば

第二一回 鮨なんば

酢飯とタネの温度を1℃単位で徹底する魂を込めた握り

阿佐ヶ谷にはかなりの頻度で通っていたのですが、日比谷に移転した時に大将の難波英史さんから「オペレーションが落ち着いてからの方がいい」と言われたことと、金額がどど〜んと跳ね上がったと聞いて何となく行く機会を失っていたところ、お友達からお誘いを受けて「よし、行ってみよう!」と訪れたのは移転してから5年も経っていました。こんな不義理しておいて大丈夫かとドキドキしていたけど、変わらず大仏さまのようなお顔とwhisper voiceで迎えてくれました。始まれば5年のブランクはどこへやら。和気あいあいな雰囲気で食欲増進です。

日比谷のお店は阿佐ヶ谷より席数も少ないし設えもランクアップ、高級鮨店の風格です。でてくる日本酒も最初っから「黒龍」で早くもお会計の心配をするべきか。つまみから始まるのは阿佐ヶ谷と同じ。本日は「佐島の煮蛸」からスタート。相変わらずのやわらかく豊かなうまみに安心する。「キンキの煮付け」「増毛のボタン海老」「ホタルイカ焼き」と続くがどれも食材の持ち味を十分に生かした仕上がり。「姫ニシンの海苔巻き」は思わず「うまっ!」と言ってしまいました。この海苔巻きって鯵とか〆鯖とかであちこちで出してもらいますが、難波さんの海苔巻きは食材と味のバランスが素晴らしい。甘味と酸味、大葉の量、香り方、完璧なんです。海苔も歯切れいいし、松の実をのせるところがまたニクイんだな。この後は「あん肝」ひとくち酢飯の上にのせた「焼とらふぐの白子」ときて、いよいよ握りに入ります。

はじめは「呼子の白烏賊」から。酢飯は36℃、タネは17℃って書いてあるけど、正直よくわからん。難波さんも温度計を酢飯に入れてるわけじゃないし、人肌ってことなのかな。手元のお品書きにタネ別に温度も書いてあるので、気になるからいちいち確認するけどやっぱりよくわからない。わからないけど「春子」は持った瞬間に崩れるほどで、ふんわりしたタネと一緒に喉を通るように握ったんだなとか、「鳥貝」はやわらかくてツルっとして死ぬほどおいしいとか、もう温度とかど〜でもいいやっ、だっておいしいものはおいしいんだもんという気になります。それでも一応お品書きは見ちゃいますが。

でもそのうち、なんか米粒がハッキリしてるとか、ちょっとあったかいとか、ぼんやりですが違いがわかるようになって、これはこれで楽しくなる。楽しいけど酢飯とタネの温度の関係性がおいしさにどう関わってくるのかは最後までわかりませんでした。たぶんタネの温度を1℃ずつ変えて食べ比べないとわからないので、難波さんが究めたこの温度が最高だってことで納得することにしましょう。だって「鮪の漬け」はふっくらで「中トロ」は酢飯とのマリアージュにとろけちゃうし、「コハダ」は黄身おぼろがたまらんし、「鯖」の昆布の甘さが酢飯にピッタリだし、「蛤」も「穴子」も食感が素晴らしいんだもん。もう温度はおまかせします。本日はつまみ8品、握り16貫、なんかスペシャルで毛蟹が最後に出て玉でフィニッシュ。日本酒はたぶんグラスで6杯か7杯。すみませんちょっと記憶が……。
お会計は……、はい、5万は余裕で超えてしまいました。
でもこれからは間を空けずにお伺いしたいと思います。難波さん、やっぱり素晴らしかった。

綾⼦の⾃分勝⼿評価基準
おひとりさま度:ひとりではもちろんのこと、たとえ初めてでも楽しめるかどうか。また何か素敵なことが起こるか、客層はどうかも含む。
⼝福度=価格の満⾜度:鮨⾼騰の折、基準は⾷べて飲んで 4万円以下。おいしいは当然、⽀払いをした時にどう感じたか。
ロケーション&設え:「google map」で迷わずたどり着けるか。内観のセンス、器や酒器、トイレの清潔感など店内の印象。
サービス:スタッフの接客の満⾜度
のどの渇き度:完璧に個⼈的主観だが、塩分過多などでのどが乾くような味が苦⼿。評価は星が多いほど、のどは渇かないということ。

【評価】
おひとりさま度 ★★
⼝福度=価格の満⾜度 ★★★★
ロケーション&設え ★★★
サービス ★★★★
のどの渇き度 ★

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⾼橋綾⼦
(たかはしあやこ)

フードパブリシスト。国内外ファッションブランドのプレスとして従事した中で肥えた“食”へのこだわりは、その後の素晴らしい人々との出会いと相まっていつしか人⽣そのものに。
その間に培った食のデータと人脈を武器に、年間 1000 軒ほどの外食で“喜ばれるレストラン”の発掘に勤しむ⽇々。「綾⼦のギョーカイ総受けグルメ手帖」「BRUTUS」「GQ」「食べログマガジン」「集英社オンライン」などに寄稿。BS フジ「リモート☆シェフ」では審査員として定期的に出演。
東京都主催の食の祭典、「Tokyo Tokyo Delicious Museum 2023」のプロデューサーに就任。また企業のメニュー開発やアドアイザーにも携わる。おいしいものしか喉を通らない不思議体質。