和食STYLE

豆腐百珍のすべて 42 佳品 浅茅田楽

時代小説家/江戸料理・文化研究家 ⾞ 浮代(くるま うきよ)



【⾖腐百珍とは】
天明2(1782)年5月に刊行され、大ベストセラーになった江戸時代のレシピ本。豆腐料理だけを100品、6段階に分けて紹介するという斬新さで話題に。大根、卵、鯛、蒟蒻といった百珍ブームのきかっけとなり、『豆腐百珍続篇』『豆腐百珍餘録』も刊行された。

「浅茅(あさじ)」というのは、イネ科の雑草の「茅(チガヤ)」の浅い(背が低い)もの、または疎らに生えている状態を指します。チガヤは稲に似て、細長くピンとした葉と、茎に沿ってたくさんの実をつけ、初夏になるとススキのように、白い穂をふわふわとたなびかせます。

私が子供の頃は、チガヤが空き地にたくさん生えていたため、実をほぐしてままごとに使っていたものですが(ついでに葉っぱごと抜こうとして、よく手を切っていた)、昔は本当に花穂が食べられていて、葉はちまきを巻くのに使われていたのだそうです(チガヤで巻くから「ちまき」)。

また「浅茅」は古くから歌にも詠まれました。枯れた色合いから荒涼感を表したり、緑、赤、茶色と色を変えることから、心変わりを表現したり。

さて今回の『浅茅田楽』、豆腐に赤茶色をした梅びしお(梅肉を裏ごしし、砂糖と合わせて弱火で練りあげたもの)を塗った上に、大量の芥子の実をまぶした状態は、まさに「浅茅」のイメージ。素晴らしいセンスだと感じ入りました。

■浅茅田楽レシピ
【材料】
木綿豆腐…1/2丁
醤油…大さじ1
梅醤…大さじ2
芥子の実…大さじ2

【作り⽅】
1. 豆腐はよく水切りして長方形に切り、串を刺して焼いて醤油を塗る。
2. 梅醤、もしくは梅肉を練ったものを田楽の片面に塗り、炙った芥子の実をたっぷりまぶす。

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⾞ 浮代
(くるま うきよ)

時代小説家/江戸料理・文化研究家。
江戸時代の料理の研究、再現(1200種類以上)と、江戸文化に関する講演、NHK『チコちゃんに叱られる!』『美の壷』『知恵泉』『歴史探偵』等のTV出演や、TBSラジオのレギュラーも。
著書に『江戸っ子の食養生』(ワニブックスPLUS新書)、『免疫力を高める最強の浅漬け』(マキノ出版)など多数。小説『蔦重の教え』はベストセラーに。
最新刊は『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』(東京書籍)。
http://kurumaukiyo.com

『江戸っ子の食養生』
『免疫力を高める最強の浅漬け』
『蔦重の教え』
『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』