和食STYLE

豆腐百珍のすべて 8 尋常品 草のケンチェン

時代小説家/江戸料理・文化研究家 ⾞ 浮代(くるま うきよ)



【⾖腐百珍とは】
天明2(1782)年5月に刊行され、大ベストセラーになった江戸時代のレシピ本。豆腐料理だけを100品、6段階に分けて紹介するという斬新さで話題に。大根、卵、鯛、蒟蒻といった百珍ブームのきかっけとなり、『豆腐百珍続篇』『豆腐百珍餘録』も刊行された。

『ケンチェン』と字面で見るとなんのことやらわかりませんが、これは『けんちん』のこと。元々は、卓袱(しっぽく)料理のひとつとして伝来した、中国の普茶料理である『巻繊(ケンチェン:豆腐と野菜を細く切ったものと、乾物を油で炒め、湯葉で巻いて揚げた料理)』が、酒と醤油の味付けで和風にアレンジされたものと考えられます。

『けんちん』とつく料理でまず思い出すのが『けんちん汁』ですが、これには別の由来があります。鎌倉にある建長寺(けんちょうじ)が、崩した豆腐と数種の野菜を入れた精進汁を出して評判になり、『建長寺汁』が縮まって『けんちん汁』になったというもの。

他にも、『けんちん焼き』『けんちん蒸し』『けんちん揚げ』『けんちん煮』『けんちん蕎麦』などがありますが、調理法を見てみると、どちらが正しいというより、ふたつのルーツが、たまたま同じ呼び名に変化したもののように思います。

どれも共通しているのは、豆腐と数種の野菜を使っていることですが、『けんちん汁』と『けんちん蕎麦』に関しては、精進料理の枠を外れ、豆腐が鶏肉に変化した料理です。

いずれにせよ、今回ご紹介する8番『草のケンチェン』が中国由来であることは間違いありません。「草」と付くのは前回の『草の八杯豆腐』と同じく、略式料理という意味。原本のレシピを見ると「[七十七]真のケンチェンの下に出たり」とあります。前出ならともかく、「後ろに書いてある」とは少々乱暴に思えます。

■草のケンチェンレシピ
【材料】
木綿豆腐…1/2丁
むき栗…3個
牛蒡…1/4本
木耳…3片
生麩…1/2本
芹(青菜でも可)…2株
銀杏…6個
乾燥湯葉…2枚
干瓢…適量
胡麻油…適量
酒…50ml
醤油…50ml

【作り⽅】
1. 木綿豆腐半丁は縦に6等分に切り、胡麻油で素揚げした後、さらに縦半分に切る。
2. 水で戻した木耳、牛蒡、生麩、むき栗は千切りにし、芹(青菜)は粗いみじん切りに、銀杏は半分に割る。
3. 鍋に多めの胡麻油を熱し、先に銀杏、むし栗、牛蒡を炒め、次に木耳、生麩、素揚げした豆腐を入れてしんなりするまで炒め、芹を足して醤油をひと回しして下味をつけて冷ます。
4. 水で戻した湯葉を広げ、3の具材をまんべんなく敷き、湯葉を巻いて、水で戻しておいた干瓢で結ぶ。
5. 酒と醤油で4をコトコトと弱火で煮る。

⾞ 浮代
(くるま うきよ)

時代小説家/江戸料理・文化研究家。
企業内グラフィックデザイナーを経て、故・新藤兼人監督に師事し、シナリオを学ぶ。現在は、江戸時代の料理の研究、再現(1000種類以上)と、江戸文化に関する講演、NHK『美の壷』他のTV出演や、TBSラジオのレギュラーも。
著書に『免疫力を高める最強の浅漬け』(マキノ出版)『1日1杯の味噌汁が体を守る』(日経プレミアシリーズ)など多数。小説『蔦重の教え』はベストセラーに。西武鉄道「52席の至福 江戸料理トレイン」料理監修。新刊『江戸っ子の食養生』(ワニブックスPLUS新書)発売中。。
http://kurumaukiyo.com