檀崎真由美のボルドー通信『フランス必食N E W S』⑪
新年の幕明けから早くも1月が過ぎ、2月へとページをめくっています。
ボルドー国立大劇場はノエルから新年を迎えた1月迄の期間限定で、夜はライトアップされ美しく華やかになります。
フランスの新年最初のイベントはキリスト教徒のエピファニー(Épiphanie)という公現祭。
1月になるとこの伝統行事には欠かせないガレット・デ・ロア(Galette des rois)が、パティスリー(ケーキ屋)やブーランジェリー(パン屋)に並び、1月末迄楽しめます。
公現祭とは1月6日にイエス・キリストの誕生を祝う為、東方から三人の王(東方三賢人)がベツレヘムまで訪問し、礼拝をした事を祝うお祭り。
キリストが降臨した事を世に知らしめた大切な日となり、王様のケーキと呼ばれるガレット・デ・ロワを食べるのが、古くからのしきたりとなりました。
現代では1月6日前後の日曜日に家族が集まり、一番年下の子がテーブルの下に入り、人数分に切り分けたガレット・デ・ロアを誰に配布するかを決めて配ります。
ガレットの中に入っている小さな陶器のフェーブ(fève)が当たった人は、王冠を被り皆から祝福を受けて、その日は王様や王女になれるのです。そして新年が幸運となるという言い伝えがあります。
子供の学校や、スポーツクラブ、私が通った語学スクールでもこの時期はガレット・デ・ロアが提供され、大人も子供も新年の運試しに大いに盛り上がります。
昔は家族の人数+1切れ多く切り分け、神や聖母に捧げてから後貧しい人に配ったとの事です
<ルルドの聖母マリア>
太陽王ルイ14世が幼き頃、公現祭の日に母のアンヌ王妃がガレット・デ・ロワを切り分け、「最後の1切れは翌日のミサに行くに配る」と周囲に伝えながら、実は反逆者から逃れる為に、ルイ14世を連れて宮殿から抜け出す口実に使ったそうです。それほど歴史と密接で大切な行事です。
日本でもすっかりお馴染みのガレット・デ・ロアですが、フランスの地域によって異なるのをご存知ですか?
日本のガレット・デ・ロアはイル・ド・フランス(首都パリを中心とした地域)スタイル。パイ生地にフランジパーヌというカスタードクリームにアーモンドクリームを合わせたフィリングに、レイエと呼ばれる美しい飾り包丁でデザインを施しの黄金色に焼き上がったパイは、ロア(rois)=王の名ガレットにふさわしく、店頭にこの伝統菓子が並ぶと心踊ります。
南フランスのプロヴァンス地域はレモンピールやフルーツの砂糖漬け入りのブリオッシュタイプで、王冠を模したリング型のブリオッシュ・デ・ロワ(Brioche de rois)が主流。
私が住んでいる南西部のボルドーではガレットとブリオッシュの2タイプが店頭に並びます。
ブリオッシュは産地が近いコニャックや、オレンジの花水で香りづけするのが特徴。
お店によっては柑橘系の砂糖漬けにパールシュガーを塗して、ロワ・ボルドレーズ(Rois Bordelais)とかクロンヌ・ボルドレーズ(couronne bordelais)と呼ばれ、ボルドーの王冠 の名でパン屋で販売されています。
口当たりが軽く、朝食にもおやつにもなり、何度食べても飽きないのでフェーヴを集めたくて何個も買う場合にはこちらがお勧め!
そしてフェーブとはフランス語でそら豆の事。昔は栄養価が高く、保存期間も長い為、神聖で貴重な食材と重宝された事から、ガレット・デ・ロワにそら豆を入れたのが始まりだそうです。
また金貨を入れていた所もあったとの事。
それが時代と共に現在の多様なデザインの陶器に変わり、フォヴォフィルという本格的なフェーブコレクターが出現する程、職人の高い技術により芸術性が高まりました。
私もこの1ヶ月はフェーブと味の食べ比べの為に、ボルドーの人気店を巡ってしまいました。
実は16世紀のパリではケーキ屋とパン屋の間で200年にも渡り、公現祭用のガレット・デ・ロアの販売独占権を巡り、戦争が起きた事から、パン屋は現代のブリオッシュタイプの伝統菓子となり、呼び名も変えて、地方の特色が活かしたブリオッシュタイプに落ち着いたのかもしれません。職人同士のプライドの戦いですね
ウチの子供達が好きなのはガレットタイプ。
娘が留学する前は1月末が新体操の全国大会で、彼女は身体を絞り込む一番大切な時期だったので、流石に本人の前で次々と甘いものは食べるのを控え家族で規制していました。
現在は息子がひとりっ子状態なので、学校帰りに「今日はこのお店のを買ってきたよ〜」と各人気店のガレットを嬉しそうに持ち帰ってきます。
そして私もすっかりフェーブ(feve)コレクターに。
ボルドーに越して来た頃、近所のパン屋ポール(PAULE)でガレット・デ・ロワを購入し、『どんな人形が出てくるかな?』とワクワクして見たら、何とそこにはオバケのフェーブが。。正直可愛く感じ無いの。
『もしかしたら運が悪かったのかな?』と数日後にリベンジで再びポールでガレットを購入し『今度こそ!』と期待を膨らませてフェーブを見たら、再び同じオバケフェーブをゲット(涙ける)。
『何で天下のポールがこんなに喜べない謎のフェーブを?』と大人気無くしょんぼりした思い出があります。でも翌年以降は可愛いフェーブでしたよ!
そして毎年真っ先に購入するのは、ボルドーの人気店Patisserie S(パティスリー・エス)のガレット・デ・ロア。1番のお気に入りは抹茶テイスト。
予約しないと即完売になるので毎年オーダー。
今年初めてココナッツテイストを味わったら、こちらも新鮮で美味しかった!
こちらのお店はかつて主人がエグゼクティブシェフをしていたジョエル・ロブションレストランLa Grand Maison(ラ・グラン・メゾン)のパティスリーのシェフ(日本女性)とブーランジェリーのシェフ(台湾男性)ご夫妻が創業したパティスリー。
子供達が小さい頃から毎年誕生日ケーキを作って頂き、娘が全国大会で準優勝した時や留学前日には特製ケーキを「お祝いに!」と持参して、ご家族で訪ねて来て下さったので、子供達も大好きなシェフご夫妻との大切な思い出が詰まっています。
一流店のクオリティーのケーキやお菓子が気軽に味わえるティーサロンもあるのでお勧めです!
Pâtisserie S : http://satomiandstanley.com
フランスボルドー在住料理家。ダンラキュイジーヌ(Dans La Cuisine)主宰。
La société MT GESTION CULINAIRE共同代表(フランス)。
Alchemist.Pte.Ltdコーポレートシェフ(シンガポール)。
和洋中の料理を専門的に学び、著名な一流シェフのアシスタントを経験後、仏料理店『シェ松尾』で5年修行し独立。
クッキングスタジオでの料理教室開催、大手企業や海外一流ブランドのパーティーフードをシェフとして手掛け、人気を集める。アメリカ、シンガポール生活後、現在ボルドーを中心にフランス政府正規就労許可の元、料理教室、オンラインレッスンを開催。英語と仏語でも和食レッスンを行い、全国放送『F R A N C E3』にてお節料理を作り、自身の料理活動と共に紹介される。フランス料理だけでなく、和食、本格中華点心迄ワンランク上のクオリティーに仕上げるテクニックで国内外問わず活躍中。