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とんかつ3名士 河田部長のとんかつひとり旅㊴ とんかつ燕楽(東京・池上)

東急池上線の池上駅から歩いてすぐの場所にあります。ご主人の田中邦博さんは御成門燕楽で18年間修業し、2005年にこの店を開業しました。成蔵の三谷成蔵さんとは同じ時期に御成門燕楽で修業しました。御成門燕楽の先代主人は名人として知られていました。三谷さんが師匠とは違う独自の世界を切り開いているのに対し、田中さんは師匠の方向性を突き詰め、発展させているように見えます。

昼は行列していることもありますが、夜は比較的入りやすいようです。間口が狭く、奥行きがある鰻の寝床で入口近くにカウンター、突き当たりには小上がりがあります。メニューは 1150円のカツランチに始まり、最も高額なメニュはロースカツ(定食)の 2500円とリーズナブルな値付けです。大抵の店ではロースカツよりヒレカツが高いのですが、こちらではロースカツの方が値付けが高くなっているのが興味深いです。ちなみにカツランチとロースカツの差は90グラムと200グラムという大きさの差が主であって、質を落としているわけではありません。カツライスも食べたことはありますが、大変お値打ちのメニューでした。今回はロースカツを選択しました。

最初に提供されるポテトサラダは、自家製マヨネーズの酸味が心地よいです。肉は山形県平田牧場の平牧三元豚です。広く流通している豚だけに技術の差が出ます。揚げ油は一般的な背脂のラードではなく、成蔵でも使用している希少な腸間膜ラードです。
融点が高く温度が下がりにくいため、低温で長い時間揚げるのに適しているとされています。この油はコストが高く、ここに力を入れている点にご主人の志の高さが窺えます。とんかつが揚がる少し前、厨房からザクザクという音が聞こえてきます。とんかつを供する都度、キャベツを刻んでいるのです。このキャベツは大変歯応えが良いです。
そして余熱の入ったカツにミルを回して岩塩をかけ、頬張ると自家製パン粉を使った衣の軽やかな衣が解け、穏やかな赤身の風味と脂身の甘さが広がります。駒ヶ根産コシヒカリのご飯はふっくらとした炊き上がりです。職人技の理想型がここにあると言えるでしょう。

お勧めポイント
● とんかつ職人の技の理想型
● キャベツやポテトサラダも高水準

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河田 剛

大手証券会社の調査業務に携わる傍らでグルメアナリストとしても活躍。さまざまな料理を食べ歩き、著書『ラーメンの経済学』(KADOKAWA)で話題に。料理の背景や素材、流通に至るまで、幅広い視点での鋭い洞察が特徴。