今回取材したのは佐賀県の中南部に位置する白石町須古地区に室町時代から伝わる色鮮やかな寿司。
有明海の干潟を住処とするムツゴロウを具に使う地域色溢れる料理を秋本祐希さんが習いました。
- 白石町だけで栽培されている「七夕こしひかり」は8/7前後までに収穫され、県内で最も早く出荷される新米。
黄金色に輝く稲穂が美しい収穫間近の圃場。
有明海の広い干拓地と干潟で知られる佐賀県白石町は、米やれんこん、玉ねぎなど豊富な農産物を生産している県内有数の農業地帯。その白石町の須古地区に古くから伝わる料理が「須古ずし」です。かつてこの地域を治めていたお殿様が農民を労り、米の品種改良に努めたことから農民が感謝の意を込めてお寿司を献上したのが始まりといわれています。
起源については諸説あり、地元では水堂(みっと)さんの名で親しまれている安福寺の参拝者に須古ずしを振る舞い、もてなしていたという話も。「水堂さんでは旧暦の4月15日から100日間、病いに効くといわれる霊水が湧き出て、大勢の人が水を汲みに訪れます。
その方々のためにも須古ずしを作っていたようです」と教えてくれたのは、地元の農産物を使って総菜やお菓子を作っている女性グループ「みどり会」の代表・猪ノ口操さん。
地域の小・中・高校で長年須古ずし作りを教えている伝承者のひとりです。“もろぶた”と呼ばれる木箱に酢飯を薄く敷きつめて正方形に区切り、それぞれの区画に8種類の具材を盛り付けていくのが伝統的なスタイルで、正方形の区画は田んぼを、切り目は畦道を表しているのだとか。
もち米を1割加えたモチモチした酢飯と、具材には素焼きして甘辛く煮たムツゴロウを入れるのが特徴で、今でも祭事や祝い事には欠かせない米どころ自慢の郷土料理です。
- 須古ずし正方形に区切りを入れて
田んぼと畦道をイメージ
須古地区の各家庭に常備されている〝もろぶた〟に酢飯を敷きつめて、正方形に区分し具材を盛り付けていく。田畑を表した米どころらしいデザイン。
- 有明海に面した白石町では干潟に住む珍しい姿形の魚を「前海もん」と呼ぶそう。ムツゴロウは須古ずしに欠かせない食材のひとつ。
盛り付ける具材は左から、素焼きして甘辛く煮たムツゴロウ、かまぼこ、きゅうり、椎茸、ごぼうとにんじんと椎茸の甘辛煮、
奈良漬け、紅生姜、錦糸卵。季節や家庭ごとに少しずつ変わり、春は木の芽やたけのこなどが入ります。
- ボーダーカットソー¥17,000
ガウチョパンツ¥15,000(ともにアン レクレ)
昔ながらの須古ずしの味を守り伝えている「みどり会」の猪ノ口さんに、作り方を伝授していただきました。
秋本「この木箱や木べらは、どこの家庭にも常備してあるのですか?」
――“もろぶた”と言いますが、代々使っているのでどこの家にもあります。“すし切り”は、手作りしたもので、これで酢飯を10㎝角に切っていきます。
秋本「具の盛り付け方にも決まりがあるのですか?
――ひとつずつ重ねて錦糸卵で覆うようにします。中に何が入っているのか楽しみながら食べてもらうように盛り付け方にも工夫しているんですよ。さあ、召し上がれ
秋本「わぁーキレイ! では、いただきます。ムツゴロウは鰻のような味で、見た目よりおいしいですね。奈良漬けがまたいい食感。ご飯も薄いからぺろりといただけちゃう。もう満腹~!」
- お米は特Aランクの「さがびより」を使用。もち米を1割入れて炊き、もろぶたに移した酢飯を5~10㎜の厚さに敷き詰め、すし切りで18等分にする。
- 素焼きして甘辛煮にしたムツゴロウは、内臓を取り、身をきれいにほぐして2等分に。ひとつの区画にひとつずつ、ムツゴロウを盛り付けていく。
- お米は特Aランクの「さがびより」を使用。もち米を1割入れて炊き、もろぶたに移した酢飯を5~10㎜の厚さに敷き詰め、すし切りで18等分にする。
- 素焼きして甘辛煮にしたムツゴロウは、内臓を取り、身をきれいにほぐして2等分に。ひとつの区画にひとつずつ、ムツゴロウを盛り付けていく。
須古ずしレシピ
- 材料(1箱分)
- うるち米5合、もち米0.5合、塩小さじ⅔、昆布10cm、ムツゴロウ5尾(海老でもよい)、ごぼう30g、にんじん30g、干し椎茸5枚
- A
- [椎茸戻し汁1カップ、砂糖大さじ2、 酒大さじ1、醬油大さじ2]卵3個、かまぼこ1本、きゅうり 適量、奈良漬け⅓枚、紅生姜 適量
- 合わせ酢
- [砂糖100~120g、酢1/2カップ、塩 小さじ1]
作り方
- 米は研いで塩、昆布を入れて通常の水加減で炊く。
- 合わせ酢を作る。
- ムツゴロウは素焼きして甘辛く煮て、身をきれいにはずし半分に切る。
- 椎茸は水で戻して千切り、ごぼう、にんじんは短めの薄いささがきにする。
- 椎茸をAの調味料で甘辛く煮て取り出し、同じ煮汁でごぼう、にんじんを煮る。
- 卵は薄焼きにして錦糸卵を作る。かまぼこは蒸して18枚のいちょう切りに。
きゅうりは輪切り、奈良漬け、紅生姜は粗いみじん切りにする。 - 炊きあがったご飯をもろぶたに移し、合わせ酢をかけ、切るように混ぜたらていねいに広げ、
軽く平均に押さえる。 - 縦6、横3等分に切り、上に具をのせ飾る。
- (左)1人分2枚パック¥420。もろぶた入りの須古ずしは予約制で1枚¥3,500。※要問合わせ(右)直売所には特産品のれんこんや玉ねぎ、米、大豆製品などが並ぶ。
ここで買えます!
須古地区の女性6名で結成する「みどり会」が地元の素材を使って手作りしている総菜やお弁当、てんぺ製品、味噌、よもぎだんごなどを扱っている「しろいし特産物直売所」で、須古ずしも購入できます。(事前に問合わせを)。
しろいし特産物直売所
佐賀県杵島郡白石町大字東郷1218-7
電話:0952-84-7050
営業:9:00~17:30 / 休日:12/31~1/3
撮影/谷口 京 モデル/秋本祐希 スタイリスト/鈴木仁美 ヘア・メーク/高梨 舞 取材・構成/秋山美英
STORY 2015年10月号より