和食STYLE

檀崎真由美のボルドー通信『フランス必食N E W S』⑦

今回のボルドー通信はサンテミリオンのマカロンン(Macaron de Saint-Émilion)について。
サンテミリオンはボルドーから40kmほど離れた世界的に有名なワインの聖地。

美しく広がるブドウ畑に聖エミリオンに捧げた一枚岩のモノリット教会(Église Monolithe deSaint-Émilion)や、カレッジ教会(Église Collégiale)の回廊等の宗教的なモニュメントの遺跡に、石畳の中世の古い町並みは1999年に世界初のワインの産地として、ユネスコ文化遺産に登録され、世界中から多くの観光客が日々訪れています。

そしてこの街でワインと同様に400年以上に渡り、古来のレシピを忠実に守り続けている伝統菓子がサンテミリオンのマカロン。

『マカロン』と聞くと誰もが真っ先にイメージするのは、パリの有名店の色彩もフレーバーも豊かで洗練されたマカロン・パリジャン(Macaron de parisien)ではないでしょうか。

この他にもバスク、ロワール、ブルターニュロレーヌ地方等でも特産品として、味や形、包装も異なる素朴なマカロンが代々受け継がれています。

マカロンはカトリーヌ・ド・メディシスがアンリ2世に嫁いだ事でイタリアのアマレッティを模倣して作り、フランスの修道院に広がったと言われています。

肉を口にしない修道女にアーモンドや卵白が原料の栄養価が高いと考えられているマカロンを推奨した事で、各地に広がりながら創意工夫されたマカロンが誕生。

サンテミリオンでは1960 年にウルスリーヌ修道院創立者のラクロワ夫人が最初にマカロンを創りましたが、フランス革命の影響で修道院の破壊と修道女の分散により一度その殆どが失われます。しかし地元の伝説によると1789年にウルスリーヌ姉妹の一人、マドモワゼル・ブーダンが厳しい貧困から生き延びる為に、避難所の食事と引き換えにこの伝統的なマカロンのレシピを慈善団体に伝授する事を申し出ます。

そして革命後の19世紀にはこの伝統的なレシピはグディショー家(Goudichaud)に寄贈。

1867年のパリ万国博覧会でワインと共に、マカロンが審査員のメンバーや多くの訪問者に提供され、高い評価を得てパリデビューします。そこから義理息子であるジョセフ・グランデに渡り、この伝統的なマカロンを独占的に作る権利を得て、大切なレシピの尊厳を守りながらこのマカロン販売の為のブランドを確立。

パッケージも当時のブルーギメ(Blue Guimet)というウルトラマリンの顔料の鮮やかな青色で描かれた絵画がとても美しく『ジロンド・フランスの古代修道女の本当のレシピ、ブランシェ夫人の後継者ナディア・フェルミジェ作』と標章登録の記載がパッケージに明記。
Fabriqués par Nadia FERMIGIERのマカロンは着色料や防腐剤等は一切使用せず、伝統的な手法でアーモンドを砕き、卵白と砂糖で丁寧に作られています。レシピは起業秘密ですが一説には土地柄、甘口白ワインを加えているとも言われていますが、原材料に記載は無いので定かではありません。

実は私はこの歴史に触れるまでは、主に別の店でマカロンを購入していました。実際焼きたてのマカロンはどちらも美味しく、観光で友人を案内する際に見せてあげたい景色の一角にその店が在り、こちらの『24MACARONS de Saint-Enilion』のパッケージにもマカロンの歴史について記載されているのでそのまま素直に受け取っていました。(Artisan Patissier Patrice FERIGNAC)

私のサンテミリオンのマカロンレッスンの写真にも迷いなく自家製マカロンと並べていた位です。

でも先日サンテミリオンの一等地で生まれ育ち、現在はグランクリュのシャトーのマダムとのランチ後に、日本からの大切な来客にNadia FERMIGIERのマカロンをお土産に用意されていたので、素朴な疑問を投げかけると、彼女曰く『断然こっちのマカロンよ!もう比べ物にならない程こっちが美味しいの!』と力説されたのをきっかけに、その日のうちに両社のマカロンを購入。 

今まで同時に食べる事が無く、どちらもお土産用で2~3週間の保存が可能なので、其々を毎日1個ずつ食べ比べる事に挑戦!すると時間の経過と共に味わいや風味、食感の差が出てきました。確かに400年の歴史のマカロンの方は2週間近く経っても食感も味わいもさほど衰えず、引き続き美味しく味わえています。

もう片方はビニールに入っていながらも風味も食感も数日で少しづつ落ちてきています。 やはり先人の思いを尊重し、400年前から変わらずに地元の人に愛され続けている元祖のオリジナルレシピは、特別な秘訣や伝統的な職人技が在るに違い無い!と敬意を払わずにはいられません!私も更にオリジナルに近づけてレッスンを行いたいと思いました!

パリのマカロンとは違い、素朴なサンテミリオンのマカロンは、どこか懐かしい味わいで、アペロでもワインと共に楽しめるので、お土産としてお勧めです!

カレッジ教会(Église Collégiale)の横でも販売。こちらのカフェスペースで休憩しながら、味わうのも良い思い出に。

本店は郵便局の直ぐ側で赤白ストライプのテントで昔ながらの店構え。

平日なら2・5ユーロで制作工程を少しだけ見学させてもらえる事も出来るとの事で、ネット購入も可能です。
https://macarons-saint-emilion.net/boutique-2/

過去記事はこちらから

過去記事はこちらから

檀崎真由美(だんざきまゆみ)

フランスボルドー在住料理家。ダンラキュイジーヌ(Dans La Cuisine)主宰。
La société MT GESTION CULINAIRE共同代表(フランス)。
Alchemist.Pte.Ltdコーポレートシェフ(シンガポール)。

和洋中の料理を専門的に学び、著名な一流シェフのアシスタントを経験後、仏料理店『シェ松尾』で5年修行し独立。
クッキングスタジオでの料理教室開催、大手企業や海外一流ブランドのパーティーフードをシェフとして手掛け、人気を集める。アメリカ、シンガポール生活後、現在ボルドーを中心にフランス政府正規就労許可の元、料理教室、オンラインレッスンを開催。英語と仏語でも和食レッスンを行い、全国放送『F R A N C E3』にてお節料理を作り、自身の料理活動と共に紹介される。フランス料理だけでなく、和食、本格中華点心迄ワンランク上のクオリティーに仕上げるテクニックで国内外問わず活躍中。

https://instagram.com/mayumi_bdx