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さかな歳時記「二十四節気・立春」 春告魚

二十四節気●立春●2月4日

寒の入り(小寒)から大寒を経て、立春を迎える寒明けまでが一年中で寒さが最も厳しい時季とされてきましたが、この冬の日本列島はまさにこの時期、記録的な寒波にすっぽりと覆われてしまいました。
近年になく、「立春」の文字が温かみにあふれ、恋しく感じられます。
水温が緩みはじめるとともに、多くの魚にとっては産卵の季節を迎えます。魚は産卵にむけて体力をつけようと餌を食べこみ、また産卵のために岸辺近くの藻場(もば)に寄ってきます。そんな魚たちが、立春の声に誘われるように日本各地で「春告魚」の名で登場してきます。
いまだ寒さ厳しい北海道や東北にも、まさしく春告魚と表わす魚が群をなして沿岸にやってきています。この魚を選びなさい。


①さわら   ②さより   ③にしん   ④めばる

【解説】

にしんは伝説の魚だ。ニシンには3つの漢字が当てられる。そのひとつが北国を代表する「春告魚」。東日本でとれるから「鰊」。そして、鯡。魚に非ず―。江戸から明治にかけての春、北海道に押し寄せたニシン。食用にしても有り余るそれは、脂を搾(しぼ)られると、北前船で西に運ばれ、畑の肥料になった。

江差の五月は江戸にもないと誇る鰊の春の海――江差追分の前唄にこう謡われたように松前藩の江差は、かつては春にしんの豊漁にわいた。
その栄華は、本州からやってきた季節労働者「やん衆」の漁労歌、ソーラン節にも唄われる。そして網元にも巨万の富をもたらし、海沿いには鯡御殿が立ち並んだ。
明治時代に最高潮を迎えたニシン漁は、明治30(1897)年に最高の97万5千㌧の漁獲が記録された。しかしそこを頂点に年々減り続け、昭和13(1938)年には1万3千㌧となり、戦後さらに減少を続け、昭和35(1960)年以降、近年までほとんどその姿を消してしまった。

海猫(ごめ)が鳴くから ニシンが来ると 赤い筒袖(つっぽ)のやん衆がさわぐ―――希代のヒットメーカー、なかにし礼が石狩挽歌に描いたのは、戦後まもない頃のニシン漁に一攫千金を求め、夢破れた人たちの心象だった。
あれからニシンはどこにいったやら・・・♪



小樽沿岸に2月初旬から3月にかけて近年みられるようになった群来(くき)。群来はニシンが群をなして産卵のために岸辺に押し寄せる現象で、海を乳白色に染めるのは雄の精液だ。長年にわたる地道な種苗の放流などの成果が出て、平成15(2008)年以降に国産の生鮮ニシンが入荷するようになっている。

北海道では生ニシンを塩焼きにして食べるほか、塩ニシンやニシンずしなどにし、またニシンを開いて日に干し身欠きにしんとして保存食にする。
昔は、身を二つに割って片方を肥料に、もう一方を身欠きニシンに加工していた。身を二つに割くことから二身、にしんという名がついたといわれる。
この身欠きにしんを調理してかけそばの中にいれたにしんそばは京都名物。惣菜の昆布巻きの芯も身欠きにしんが用いられるのが常で、取り合わせのよいことのたとえにも。身欠きにしんと蕗(ふき)の煮しめやうど(独活)、秋なすの炊き合わせなどもおいしく、格好の出合いもの。



地元の北海道では、新鮮なものが手に入ると、一尾丸ごと塩焼きにする。ふっくらしたお腹をさわってみて、硬いと数の子、柔らかいと白子が入っているという。味が深く、脂がのった身と、メスは卵のトロトロ感、オスは白子のネットリ感がたまらない。


にしんの昆布巻き


身欠きニシンとなすの炊き合わせ「にしんなす」は京のおばんざい

冷凍・冷蔵技術や輸送の発達していなかった時代、身欠きニシンは山間地のたんぱく源として重要な食材で、今や会津若松の名物になっている「さんしょう漬け」もそのひとつ。下処理した身欠きニシンと山椒の若葉を何段も重ね、砂糖、醤油、酒、みりん、酢などでつくったつけ汁に漬け込んだ保存食だ。そのままでも充分おいしいが、軽くあぶると香ばしい風味が味わえる。
身欠きニシンにとどまらず、かつて搾った脂は灯火の燃料に、また卵である数の子など、ニシンは北国の生きる糧であった。鯡のことを秋田、東北ではカド(イワシ)と呼ぶが、これはもともとアイヌ語で「糧(かて)」の意である。
正月料理の縁起もの。塩蔵したニシンの卵巣、数の子を珍重するのは、子孫が数の子のように産みひろがって、一族が繁栄するようにと祝う意味があるが、同時にあのしゃきしゃきとした歯ごたえの良さは、正月の気分と印象深く結びついているようだ。



カドの子がなまって「数の子」に。昭和40年代から50年代にかけて、塩数の子は品薄感から高騰し「黄色いダイヤ」と呼ばれた。

正月料理の印象が強い数の子は普段はあまりお目にかからないが、子持ちコンブは年中販売され、すしネタとしても常備されている。子持ちコンブが採れるのはニシンが来遊する北海道の沿岸。海岸近くでニシンが産卵するとその卵が昆布に付着する。これを塩漬けにして製品化したものが子持ちコンブだ。
ただし生産は少なく、流通しているのはごくわずか。入荷の大半はカナダなどからの輸入品。



昆布の上に数えられないほどの多くの卵が載った「子持ちコンブ」。昆布の旨みと数の子のコリコリ感が絡み合って絶妙なおいしさに。


鮮度のいいものだと、小骨を抜いて刺身でも。しょうがでもわさびでも、脂がとろっと感じるほどだ。


ワインビネガーなどでマリネ、また酢じめにするのも意外なほどうまい。

いわしの仲間だけあって、にしんはビタミンやDHA(ドコサヘキサエン酸)、たんぱく質をたっぷり含む。数の子もDHAが豊富だ。

冬の寒さが和らぐと、日本各地から春の訪れの報せが届く。日本は春の訪れを魚で感じることのできる情緒豊かな国だ。
北国にはにしんのほかにさくらます(桜鱒)が、北陸からは早春に花見魚の名で呼ばれる②さよりが、④めばるは関東・東海から関西にかけて、瀬戸内には①さわら(鰆)やいかなご、福岡に春を告げるのはしろうお(素魚)、渓流釣りのファンにとってはあまご(雨子)ややまめ(山女)だろうか。
魚が告げる列島の春がいよいよ到来だ。

 

日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一

【解答】③にしん  
 

日本さかな検定(愛称:ととけん)とは

近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組みです。
この四半世紀に街の魚屋さんが7割近くも姿を消し、またいまや地方にも及ぶ核家族化により、魚の種類・産地・季節・調理の情報や、祖父母に教えられた季節の節目に登場する魚の由来や郷土の味が伝わらなくなっています。
魚ほどそれをとりまく情報や薀蓄が価値を生む食材は他にないのに、語るべき、伝えるべき魅力が消費者に届かなくなっているところに、「魚離れ」や特定魚種への好みの偏りの一因があると捉え、愉しくおいしい情報を発信する手段として日本さかな検定が誕生しました。
2010年の第1回を東京・大阪で開催、2015年の第6回では八戸から福岡の12会場、昨年の第7回では函館から福岡にいたる11会場へと広がり、小学生から80歳代まで累計2万名を超える受検者を47都道府県から輩出しています。
平成29年は、6月25日(日)に札幌(初)・石巻・東京・静岡・名古屋・大阪・兵庫香美(かみ・初)・宇和島・福岡の全国9会場で、6歳から88歳まで2800余名を集めて開催しました。
また今年行われる第9回の日本さかな検定は「2018年6月24日(日) 札幌 酒田(初)石巻 東京 静岡 名古屋 大阪 兵庫香美 下関(初)――2月2日よりWEB先行申し込み開始」となっております。
詳しくは、「ととけん」で検索、日本さかな検定協会の公式サイトをご覧ください。

日本さかな検定協会 http://www.totoken.com/