和食STYLE

日々是和食

さかな歳時記「二十四節気・処暑」 紫式部の大好物は、万能選手

古来、日本人が何を大切にしてきたか、自然からどれほど恩恵を受けて生活を営んできたか、何に暮らしのよろこびを覚えてきたのか、旧暦にまつわる古きよき暮らしの知恵をさかなをめぐる歳時記とともにひもといてみます。 このコラムでは、日本人の心身を育んできた魚介を通してめぐりくる季節や自然を楽しむ暮らしを、日本さかな検定の設問形式で二十四節気ごとに綴っていきます。まずは「和食スタイル」リニューアルの幕開け、処暑(8月23日)からです。 あなたにとって、旬の魚介に恵まれた国に生まれた歓びを存分に味わう暮らしとなりますように願いをこめて。

日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一

二十四節気●処暑

さかな歳時記

ご覧の大群は、私たちの食生活に欠かせない魚であると同時に、「海の米」とも「海の牧草」ともいわれ、世界中の海の生態系を支えるタンパク資源でもあります。初夏から秋にかけて脂がのっておいしくなるこの魚を選びなさい。

①マアジ ②マイワシ ③マサバ ④マダイ

【解説】

胴に輝く黒い斑点。頭でっかちの肥満体。私たちにとってもっとも身近な魚、いわしがこの時季鮮魚売り場を賑わしている。ふつう、いわしといえば、このマイワシ。料理はもちろん、しらす、飼料、油・・・なんでもござれの万能選手。斑点にちなんで「七ツ星」とも呼ばれている。
ほかに、私たちにとってなじみ深いのは、めざしやごまめに向くカタクチイワシに、丸干しに向くウルメイワシ。きびなごやにしんも実はいわしの仲間だ。種類によって獲れる時期が異なるが、マイワシは脂がのる初夏から秋にかけて美味となる。
このいわし、漢字にすると「鰯」。水揚げするとすぐ死んでしまうから、あるいは他の魚の餌食になるから、この名がついたといわれている。 太古の昔から食料にされてきたが、大量に獲れるため、古代から下賤な魚とみられ、上流人は「いやし」なんて呼びながら、こっそり食べたとか。あの紫式部が、夫・藤原宣孝の留守中に焼いて食べていたところを見つかり、なじられると、 「日の本に はやらせ給ふ 岩清水 まいらぬ人は あらじとぞ思ふ」(日本人であれば岩清水八幡に詣でない人はいないように、いわしを食べない人もいない)とやり返したのは有名な話。
近年の健康食ブームで、動脈硬化を防ぐエイコサペンタエン酸(EPA)や頭脳の働きをよくするドコサヘキサエン酸(DHA)を豊富に含むこの万能選手の株も上がったかと思うと、漁獲量は1988年をピークにして激減。年間400万トンから、96年には22万トン、2005年には3万トンを切ってしまった。「幻の高級魚になるのでは」とささやかれたが、近年、復活の兆しをみせている。ことに今年は豊漁で、お値段でも万能選手ぶりを発揮している。

【解答】②マイワシ
さかな歳時記

日本さかな検定(愛称:ととけん)とは

近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組みです。 この四半世紀に街の魚屋さんが7割近くも姿を消し、またいまや地方にも及ぶ核家族化により、魚の種類・産地・季節・調理の情報や、祖父母に教えられた季節の節目に登場する魚の由来や郷土の味が伝わらなくなっています。

魚ほどそれをとりまく情報や薀蓄が価値を生む食材は他にないのに、語るべき、伝えるべき魅力が消費者に届かなくなっているところに、「魚離れ」や特定魚種への好みの偏りの一因があると捉え、愉しくおいしい情報を発信する手段として日本さかな検定が誕生しました。
2010年の第1回を東京・大阪でスタート、今年の第7回(6月26日(日))では函館・八戸・石巻・東京・静岡・富山射水・若狭小浜・大阪・宇和島・福岡の全国11会場で開催、小学生から80歳代まで世代性別を超え、累計2万名を越える受検者を47都道府県から輩出しています。