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食の国日本〝食〟プロデューサー 松田龍太郎ブログ

Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第24回

地方を盛り上げていく人づくり。食が作り出す新たな雇用。

皆さんは、「バーチ・ディ・ダーマ(以下バーチ)」というお菓子をご存知でしょうか? イタリア語で「バーチ=キス」「ダーマ=貴婦人」⇒『貴婦人のキッス』という意味で、素敵な女性がキスをする時の口元に似ていることからこの名前が付けられたと言われている可愛いスイーツのことです。

このバーチですが、昨年G7伊勢志摩サミットにおいて、安倍総理大臣からG7各国首脳に対するおもてなしの一環として、コーヒーブレイクの機会に提供・紹介されました。

この商品を販売しているのが、1817年にイタリアのミラノで創業。約200年の歴史のなかで、著名なアーティストや音楽家など様々な人々に愛されてきたお店「COVA」です。現在、東京と名古屋にお店を構えており、イタリア好きの日本人に愛されるお店として人気を博しております。特にこのバーチはおもたせ需要も多く、生産が追いつかないという状況でした。

そんな中、昨年10月より、弊社がお手伝いさせていただいている、青森県西目屋村(にしめやむら)という青森県唯一の村との取り組みで、「村内に新たな仕事を作り、雇用や稼ぎを得る仕組みを提供する」一環として、「西目屋スイーツラボ」を立ち上げました。そのスイーツラボにて、このCOVA JAPANのバーチを製造しようという試みがスタートしたのです。

スタートは、まずは村内の製造工場の再稼働。新しいオーブンを入れ、バーチを製造する体制から整えることになりました。もともと村内にあった「味な工房」という加工場には、そば打ち場所をはじめ、様々な加工機材がはいっている施設だったのですが、そのスペックを十分に活かせる担い手がいないことから「開店休業状態」でした。

そんな遊休施設を活用し、今回再稼働につなげたのです。もちろん、新しいオーブンを使いこなせないのは重々承知なので、弊社からパティシエを一人先生として派遣。まずは「お菓子教室」という形で、村民の皆さんにオーブンやお菓子加工に必要な最低限の技術や機材の取り扱いを実践していただくようにしました。

そうするとどうでしょう。村から、おばあちゃんや、子育てママたちが集まってきました。最初は「この施設はどんな風に使われるのか?」「お菓子って本当に作れるの?」とか疑問の声が上がりましたが、やはり実際に稼働して初めて見えてくるリアリティがまさり、今度は村の若手も参加するようになりました。

そうこうするうちに、バーチ製造のめどが立ち、この2月から本格的に製造開始、実際に商品として、店頭に並ぶまでのクオリティを出すところまできました。現在、村の若手が男女2名、他の仕事の合間を見ながら参加、4月からはいよいよ個人事業主として、若手の彼らが新たな取り組みとして昇華していくことになるでしょう。

どうしても「商品開発ありき」となると「作りっぱなしで販売につながらない」とか「販路が生まれず、結果販売中止」とか「こんな製造場所があったら、ぜひ作って欲しい」といったお声がけや相談が多いなかで、私たちが一つの回答として取り組んでいる、地方での成果の一つです。僕ら自身でお店を作るのではなく、あくまでも「夢を作ろうとする人」をサポートすることに徹しております。もちろんサポートが必要でなくなれば、必要ないですから引くこともありますし、引き続き必要な場合はサポートを手厚く行います。

いま地方では「人材不足」と呼ばれておりますが、「人手不足」ではありません。なにより働き場所がないのではなく、「選択できる働き場がない」という認識です。特に食に関して言えば、食の都として日本はもてはやされておりますが、それはきちんと食材のことを理解し、調理提供できる一部のレストランに限られております。

なかなかインバウンドふくめ農家を訪ね、直接食材に触れて食べて仕入れてということは皆無ですし、そうした活動を拒む農家も多くいます。やはり、作り手は作り手、食べ手は食べ手といった役割があるように、きちんとした形で提供できる(もしくは製造できる)場が必要になります。特に、六次化において、全ての産業を1事業主で実施するのは無理があることがわかりました。確実に「規模産業」「市場主義」に陥り、多額な投資と返済に追われ、無理をして生産したり、使われて欲しくない、置きたくない市場に対しても挑まなければならない「消費の渦」に巻き込まれている事業者さんも、ここ数年多く見てきました。その多くは、補助金などで賄われる「設備への投資」です。

ハードに対しては、補助率や項目自体も手厚くサポートされますが、減価償却を経て、儲けが出るのは10数年後というパターンがほとんど。「10数年後の市場」においては、その商品や機材が必ずしも役に立っているかというのは、僕らも予測は不可能です。逆に2017年ということで考えると、2000年頃に流行っていたものが、どれだけ現在の市場に残っているでしょうか。

一方で「人口減少」は顕著です。であれば「人材不足」は、能力やスキルがある人間を積極的に地方に関わらせつつ、地方の底上げを行い、まずは「食のスタンダードを落とさない」ということを僕らはやっていきたい。スタンダードを上げることも両軸だけれども、地方の食生活を下げることは、これだけ食材がある日本において、大変な損失だと考えます。それは郷土食もしかり。いま伝えるべき次世代への食のバトンは、きちんとした連鎖のもとで繋いでいくことが、重要である。

このFoodnia Japanの視点は、そうした「次世代への食のバトン」もさることながら、この食の風景をどうやって残していくか、ということに他ならない。様々な視点がある一方で、それをどうしていくかという答えを出す方法をともに作り上げていくということがこれからの課題である。

まもなく桜も満開である。この日本の風景もまた、10年、20年、そして100年先に残すためにも、いや「残しておくべき」という議論に上げるためにも、日本の食を守らないといけない。

松田龍太郎

松田龍太郎

1977年生まれ。青森県弘前市出身。慶応義塾大学環境情報学部卒業後、日本放送協会に入局。
報道カメラマンとして、全国各地の事件事故、災害など日々のニュースの現場をはじめ、紀行番組の撮影に従事。その後、2007年企画・プロデュース業に転職。2010年より株式会社オアゾ代表を務める。
積極的に女性クリエイターを活用し、特に食にまつわる事業・店舗開発、PRコンテンツ制作を得意とする。現在神楽坂6丁目に「八百屋瑞花」という青果販売する八百屋 を展開中。
http://www.oiseau.co.jp