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食の国日本〝食〟プロデューサー 松田龍太郎ブログ

Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第19回

青森の魅力、「醞醸亭(UNJOTTEI)」を味わう。1日だけのレストラン。

年頭に一通の手紙が届いた。内容は青森で常日頃お世話になっている飲み仲間(?)で、今地方で一番行きたいレストランとしても名高いイタリアンレストラン「OSTTERIA ENOTECA DA SASINO(青森県弘前市)」の笹森通彰シェフと、つい先日、銀座三越のパイの催事で、味わったことがないアップルパイを提供してくださった、「EsqUISSE(以下エスキス)」のシェフパティシエ成田一世さんのコラボイベントの案内だった。

テーマは「発酵」と「熟成」。その1日だけのレストランの名前が「醞醸亭(UNJOTEI)」というのだ。主催が青森県ということもあり、心憎い組み合わせになっている、これは行かざるを得ない!

笹森シェフ、成田シェフとも挨拶を交わし、まず味わったのが、笹森さんが作り上げた、りんごのワインである。地元青森のリンゴ「シナノゴールド」と「ジョナゴール」をベースにして、火入れ、濾過を一切していないダイレクトな味わいのワインだ。今年から販売用にスタートするということで、気になっている商品だ。出来自体はリンゴの風味もしっかり出ている。これも「発酵」と「熟成」だ。

またワインも笹森シェフが10年以上前から栽培してきたワイン用のブドウを使い、現在11種類、少量多種のブドウを栽培しながら、青森の風土に合う品種を探して来た。今回いただいた、2015年のネッビオーロ、バルベーラはともに素晴らしい出来である。これはリンゴのワインとは異なり、ワイン特区の制限から、笹森シェフの弘前のお店でしか味わうことができない代物だ。特に赤ワインに関しては、日本全国みても、この品種を扱ったワイナリーもないくらい、本当に特別なものだと思う。これを飲むだけでも弘前に行くことはあるとおもう。

料理も、笹森シェフが自家製でこしらえたチーズやハム、燻製のマグロ、シャモロック(地鶏)のレバーのパスティッチョなど、いずれも、笹森シェフのお店のスペシャリテが登場し、ファンとしては、贅沢な構成だ。僕としては、ここ数年、笹森シェフの料理を味わう機会があるのだか、それこそ経験とノウハウが「熟成」され、料理に反映されている。その都度発見と、味わい深さを感じ、溜飲が下がるのだ。

特に、「黒にんにくの冷製アーリオ・オーリオ・スパゲッティ」は新鮮だった。青森県は「田子のニンニク」というブランドが代表するほど、ニンニクの世界的な産地だ。そのにんにくを高温多湿の環境で、じっくり熟成させるとできあがるのが「黒にんにく」。黒にんにくは、特有の匂いが消え、甘く、そして適度な酸味が加わり、「プルーン」のようなフルーティな味わいになるのが特徴だ。

その黒にんにくを冷製パスタに仕上げたのだ。以前僕自身も、笹森シェフと黒にんにくを使ったショコラティエを検討したことがある(結局様々な理由で頓挫したが)。その想いもあってか、この料理が出て来たときは「ああ、ここまで来たか・・」と一人、感慨深くなったのである。笹森シェフ曰く「結構冒険的に恐る恐る出したんです」といっておられたが、これはこれでスペシャリテになると思う。

かたや成田シェフは、パティシエではあるが、特筆すべきは「パン作り」である。2007年にはNYタイムズ紙が選ぶ、パンとデザート部門の「Best of NewYork」を受賞。それから「ラトリエ・デュエル・ロブション」などで腕を振るい、現在の「エスキス」では、「エスキスサンク」という独自パティスリーを展開するなど、いま注目のパティシエでもある。「今回のテーマにおいて、パンの中に、日本の根本的な発酵要素を、デザートの中に、よく言われる熟成とはという疑問に対して答えを感じさせようと考えた」と言っている。

その成田さんが一つ一つのテーブルを回ってだすパンの素晴らしさ、そしてデザートの二品目「栗の薄焼き熱地のタリアテッレ」は、栗のスープと洋梨のコンフィに浮かべた栗の粉で作ったネッチ(フィレンツェより北西に位置するピストーイア周辺で食べられる栗ののクレープのこと)のトルテリーニは、食べ進めると、徐々に味が変化し、このデザートに昇華されるまで、発酵と熟成させて準備した食材であることが「感覚的に」インプットされていくのが面白い。「感じたことがない味」は、自分の中で消化されるまでタイムラグがある。そのタイムラグ自体で、どんどん味が変化するものだから、面白いのだ。

こうして青森でも、そして東京でも味わうことができない「青森食材のアプトプット」を味わうことができ、至福の時だったという一方で、この取り組みをFoodnia Japanとして、地方と都会の橋渡しができる「表現の場」の必要性を感じるのである。これは美術家と一緒で、「アーティストレジデンス」で、アーティストがその地域場所に短期的に住まい、暮らすことで感じるものを、自分の作品に投影し発表するスタイルがあると思うだが、そのシェフ版、パティシエ版があるのだとおもう。それは地方だけではなく、まさに「巡回展」「ミュージアム」のように、地方と都会を巡る「食の地域間交流」はますます面白い動きをつくることになるだろう。

そんな可能性を感じる、一日だけのレストラン。

松田龍太郎

松田龍太郎

1977年生まれ。青森県弘前市出身。慶応義塾大学環境情報学部卒業後、日本放送協会に入局。
報道カメラマンとして、全国各地の事件事故、災害など日々のニュースの現場をはじめ、紀行番組の撮影に従事。その後、2007年企画・プロデュース業に転職。2010年より株式会社オアゾ代表を務める。
積極的に女性クリエイターを活用し、特に食にまつわる事業・店舗開発、PRコンテンツ制作を得意とする。現在神楽坂6丁目に「八百屋瑞花」という青果販売する八百屋 を展開中。
http://www.oiseau.co.jp