和食STYLE

食の国日本〝食〟プロデューサー 松田龍太郎ブログ

Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第15回

何もないけど、何でもある。不便こそ、価値がある。

新年早々、向かった先は西伊豆だ。

西伊豆の漁港から、一隻の船に乗り込み、向かった先は、リアス式海岸でえぐられてできた、ちょっとした入江だ。仮設の船着場を伝って、そこにつくと、無人島のような、大自然に囲まれた、秘密基地。

そこには、大きなテントのほか、カヤックのボート、ちょっとしたキッチン、トイレが設置されているほかは、「何もない」。けれど、断崖を背に海を見渡すと、穏やかな海沿いの風景が、ふと、日本ではない、どこか国外のような気持ちにさせてくれる。

1日1組限定のグランピングを基本に、百人規模のイベント、ウェディング、社員研修といったオファーが絶えず、「グランピング」という全国規模の広がりを見せている中で急成長を遂げているのが、VILLEGE INC(ヴィレッジインク)だ。今回、担当者にアテンドいただき、彼らが本拠地としている伊豆を中心に、いくつかの施設を見させてもらった。

正直アクセスも不便で、車で直接現地に行けるようなところは少なく、チャーターされた漁船や、運搬用のトロッコ(乗せていただいたが、怖くて肝を潰す。)しかない。けれども彼らは「不便上等、それでないと本当の自然は手に入らない」と言っている。もともと代表の橋村和徳氏は、自ら何もない場所に踏み込み、草刈りを1年半(!)かけてやり、予約殺到の場を作り上げた。

本気度が高いゆえ、ここに来るだけの価値はある。もちろん、グラマラスな体験を求める「グランピング」だからといって、星野リゾート富士のような、全てが整っているわけではないので、利用者の度量やアイディアも求められる。しかし、そこはVILLEGE INCも、フォロー、サポートする仕組みを作っている。だからこそ、気兼ねなく遊べ、大自然の秘密基地となり、利用者を魅了しているのだ。

視察を終え、夜も更け、下田須崎にある割烹民宿「小はじ」に泊まらせていただいた。漁村に面したその場所は、早朝から漁港の営みを風景として見ることができる絶好のロケーション。大将の小川浩史さんは、神楽坂の割烹「割烹 千代田」出身。東京三田の「ふぐ料理 山田屋」にもいた敏腕である。地元の下田に戻り、実家の民宿を継いでいて、VILLEGE INCの活動もサポートしている。

さて民宿は一泊8000円弱なのだが、さすがの腕前、提供される魚料理のうまさに、舌鼓を打った。特に朝ごはんは、久しぶりに会心の出会い。ここの名物、金目鯛の煮付けには、残念ながらありつけなかったが、この民宿は、これもまた「来るべきところ」。ぜひ泊まってみてもらいたい。

伊豆は、東京から車や電車で2−3時間かかる。しかし、東京からその距離でマリンスポーツや大自然、温泉を楽しむ場として、ファンも多い。最近熱海も復活しているが、南伊豆、西伊豆も、十分楽しめる範囲である。相模湾、駿河湾に面したこの地域は、食材も豊富だ。とはいえ、地域を丹念にみていくと、この食材を生かしたレストランはあるものの、値段やメニューについては、まだまだ改善すべき点が多いと感じた。

僕としても、VILLEGE INCの活動もさることながら、この地域一帯の食のスタンダートを高めることによる実験を試みたいと思っている。日本のコート・ダジュールに。遠くの海外より、近くの伊豆。何にもないけど、何でもある、彼らの精神をもとに。

●VILLEGE INC :http://villageinc.jp/

●割烹民宿小はじ:http://kohaji.jp/

松田龍太郎

松田龍太郎

2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
http://www.oiseau.co.jp