和食STYLE

食の国日本〝食〟プロデューサー 松田龍太郎ブログ

Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第10回

今年の新物は「新あずき」で決まり!

師走とともに、秋の収穫を祝う事柄も多くなります。

その最もたるものが「ボジョレー・ヌーボー」。フランスで始まったこの新酒を飲む習慣は、瞬く間に世界に広がり、11月の第3木曜日の解禁日になると、今年も美味しいワインを飲もうと、マーケットは華やぐ。一時期の賑わいよりも熱は下がったが、新物といえばこの話です。その他、「新米」「新(日本)酒」など、日本も穀物や果物に由来する、こうした催しや歳時記を目にする機会が増えました。

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そんな師走の中、福島・郡山で始まったのが、「新あずきをつかったお饅頭」の販売だ。嘉永3年創業、今年165周年、郡山の銘菓「柏屋」の「薄皮饅頭」がそれにあたる。

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柏屋の薄皮饅頭が、「新あずき」を銘打ったのが2015年の昨年12月。それまでも、もちろん北海道十勝産の新物あずきを使っていたが、「新あずきを使った新物まんじゅう」をお客さんに明確にアピールすることはなかった。いつもこの時期になれば、小豆が変わり、胴鉢で煮込まれる小豆が、アンコとなり、代々伝わる「薄皮饅頭」としてお客さんの口に届けていた。

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しかし、お饅頭は、ケーキと違って、歳時記があるわけではないし、旬ものとはまた異なる。あくまでもお土産として考えられていたが、ふと「新あずき」をアピールしようと考えた、5代目本名善兵衛社長は、パッケージから何から、12月の新あずきが出た時からガラッと変更して販売を開始。それまで同じ時期に販売していた「薄皮饅頭」の売り上げが前年比を大きく超える成果をだしたのだ。

広い和菓子業界でも、なかなか「新あずき」と銘打ってアピールすることはほとんどない。むしろ「当たり前」ということで見過ごすところを、原点回帰し、価値につなげた好例といえるだろう。

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柏屋はさらに、「日本三大まんじゅう」の一つであり、東京の塩瀬総本家の「志ほせ饅頭」、岡山の大手饅頭伊部屋の「大手まんぢゅう」と並び称され、最近注目のお饅頭屋さんである。先日も日本橋三越本店で行われた催事では、3社が勢揃いし、お客様を楽しませたのは他でもない。

足下を掘れ、そこには泉がある。

その昔、ニーチェが言ったその言葉にまさにあたることではあるが、お饅頭の価値を見出そうという企業の志もさることながら、「当たり前の中に気づく本当の価値」が、これからの地方の食における究極のヒントである。

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僕はもともと、こし餡のファンだが、この「新あずき」の時だけは、「つぶ餡」ファンになろうと心に決めた。

●柏屋 薄皮饅頭

http://www.usukawa.co.jp/

松田龍太郎

松田龍太郎

2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
http://www.oiseau.co.jp