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食の国日本〝食〟プロデューサー 松田龍太郎ブログ

Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第55回

僕らが気づかない、第一印象。

「新潟清酒(にいがたせいしゅ)」と呼ばれる地域団体商標にて、新潟の日本酒を、海外に販路展開していくプロジェクトを、日本貿易振興機構(以下JETRO)のお仕事として、昨年度より取り組ませていただいております。

2018年11月、対象国となる「中国・香港」をメインに、香港人に対して、新潟の日本酒の売り込みをかけている。今年も昨年度に続き、「生牡蠣」とペアリングさせ、「牡蠣と相性がよい新潟清酒」というプロモーションを仕掛けている。(昨年の取り組みは第38回をご覧ください)

今年のプロモーションの内容は、昨年度とは若干異なり、大きなホテルホールを扱わず、香港で実施されている「Wine & Spirits」という、主にワインやリキュールをバイヤーやディストリビューターを対象とした紹介、販売する催事に、「新潟清酒」が独自にブースをこしらえて出店。

また、昨年「ミニ酒の陣」という毎年3月に新潟県で行われている「酒の陣」の香港バージョンを開催。300人ほどのお客様がお越しになる大規模なイベントのなかのタイムスケジュールを一部、セミナー化して、白ワインの「シャブリ」、新潟の日本酒2種ほどを、生牡蠣とともに試食、そして試しながら試飲してもらうイベントが行われていたが、今年はそのセミナー部分を別の場所に切り出し、対象を「ソムリエ」といった、よりお客様に近い人たちに新潟清酒と生牡蠣の相性をわかってもらおうと、切り口を変えながら実践することにした。

特に新潟の日本酒は、日本の他の地域と比べて「辛口、いわゆるドライ」であり、かつ水の性質より口当たりが「柔らかい」のが特徴だ。最近、日本の日本酒の特徴として「香り高く」「口当たりがはっきり」「後味すっきり」ものが増えているが、「香りがほどよく」「後味がはっきり」「ずしっとする飲み口」という、明確な違いがあるとともに、濃厚でクリーミーな生牡蠣との相性も良く、またワインと比べて鉄分が1/100ということから、後味が「生臭くなくさっぱり」とした印象が、お客様にも好評のペアリングでもある。

それと今回の試みのもう一つのポイントとして、香港にある日本食レストラン「ZUMA」とタッグを組み、おおよそ1ヶ月ほど、実際に店舗で特別メニューを設け、新潟の日本酒6種と、生牡蠣をペアリングさせるプロモーションを実践した。

実は、今年8月にZUMAのドリンクディレクター、スーシェフ(いわゆる厨房のNo.2)が新潟に来訪し、実際に蔵元を訪ねて試飲、さらに食材を見て、新潟の情報をあらかじめインプット、さらに10月には、新潟の蔵元のスタッフが、実際にZUMAのホールスタッフやソムリエに対して、新潟清酒の説明と試飲を現場で実践、レクチャーしたこともあり、非常に情報量もおおく、お客様に進めやすい体制を作ることができたのである。限定した期間内で、新潟の日本酒をお客様に、生牡蠣とともにお奨めできていることが、非常に我々にとってもわかりやすい取り組みだと思っている。

****

ただ、僕らが気づかない「日本酒」について、ヒアリングやアンケートの中で聞くことができた。大事な部分は割愛させていただきますが(笑)、意外だったのは「NIIGATA SAKE」を理解できない(?)ということだった。僕らは「はて?ニイガタノサケに間違い無いのだが・・」と思っていたが、中国人にとって「NIIGATA」の発音、読み方がわからず「どこのSAKE(かろうじて、日本酒は「SAKE」というイメージが定着していたのでよかったが)か?」となり、「日本酒のメーカー」「日本酒のブランド名」だと思った人も多くいたとのことだった。なるほど、新潟の〆張鶴も久保田も、どこかのメーカーやブランドが事業者とあって、1ブランドに見えていたのは意外というか、日本酒を初めて体験する人たちにとっては、確かにわからないかもしれない。

例えば僕らも逆に、フランス産のワインで「シャルドネ」や、それこそ「シャブリ」という形でカナをふって読ませているが、それはあくまでも「日本人がわかるように日本語を添えた」のであって、「新潟清酒」を「中国語」や「韓国語」として読ませやすいように情報を編集することまでは(特に地域団体商標のようなブランド名までは)気が回らない。ましてや、その「地域団体商標を登録すること」からスタートして成り立つプロジェクトやプロモーションなので、それはそれで今後の対策なんだろうなと、改めて実感したのである。まさに「第一印象」で、どんな風に見えているのか、海外においてはとても大切なことだ。

しかし、こうした新潟清酒の取り組みは、海外において非常に好感を持てると僕は思っている。特に地域における特産品や嗜好品を海外展開する際には、それこそ単発イベントや1−2年の短期間でのプロモーションは、正直難しい。特に催事などは、接点が極めて細いので、情報の伝達が狭い。また街角イベントも大々的に実施しているところもあるが、これもかなりの「レア」なプロモーションだと思う。そんな中、新潟清酒は、こうした取り組みを10年前から現地に入り込み、6年連続で「ミニ酒の陣」や各蔵元が出張って30社近く、地元の消費者やディストリビューターを相手に「戦っている様」は、僕自身も勉強になる。

来年も引き続き「生牡蠣」をポイントに持ってくるが、3年目のステップとして、より食や提供場所なども議論に入れつつ、新潟清酒の展開幅を作っていきたいと思う。本当に、新潟の日本酒が好きになってくる自分が、これもまた楽しい。

松田龍太郎

松田龍太郎

1977年生まれ。青森県弘前市出身。慶応義塾大学環境情報学部卒業後、日本放送協会に入局。
報道カメラマンとして、全国各地の事件事故、災害など日々のニュースの現場をはじめ、紀行番組の撮影に従事。その後、2007年企画・プロデュース業に転職。2010年より株式会社オアゾ代表を務める。
積極的に女性クリエイターを活用し、特に食にまつわる事業・店舗開発、PRコンテンツ制作を得意とする。現在神楽坂6丁目に「八百屋瑞花」という青果販売する八百屋 を展開中。
http://www.oiseau.co.jp

Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第54回

本気と挑むには、30年が必要だ。

線路の段差に微かに揺さぶられながら、空を流れる雲をうっすらと見つつ、帰りの寝台列車の中で、今日のことを思い出している。

僕が乗り込んだ列車は、島根県出雲市駅を出発し、12時間かけて、東京に向かう寝台列車「サンライズ出雲」だ。今回は島根県からご依頼を受け、農業をはじめ、島根県で新たな産業に取り組む若手や担い手を育成する事業の一環で、島根県大田市にある「石見銀山生活文化研究所」という会場に足を運び、講演会を実施、その帰途だった。

通常地方出張は、場所によっては往復飛行機なのだが、さすが出雲、「神在月(かみありつき)」ということで、出雲大社をはじめ観光のまっさかり。まったく飛行機の予約が取れず(苦笑)、さすがに困っていたら、島根県庁の方からのご紹介で、「サンライズ出雲はいかがでしょうか?」と。おもわず予約し、乗車した。さすがに寝台列車自体は、僕の高校生時代、青森から京都にかけて修学旅行の旅程で使って以来なので、25年ぶりとなる。日本の寝台列車も、高級旅行寝台車以外の、ビジネス・観光向けの寝台列車はだいぶ少なくなり、ちょっと目新しい。ふと車窓から外を覗くと、まるで地方のビジネスホテルが移動しているかのような感覚で、夜中から夜明けまでの時間を、時折目覚めながら、一路、東京に向かっていた。

実は行きの列車もサンライズ出雲だった。昨日東京から出雲市に着いたのが、翌朝11時過ぎ。そこから大田市に小1時間、車で移動して着いたのが石見銀山だった。石見銀山は、島根県大田市にある、戦国時代後期から江戸時代前期にかけて最盛期を迎えた日本最大の銀山(現在は閉山)だ。最盛期に日本は世界の銀の約3分の1を産出したとも推定されるが、当銀山産出の銀がそのかなりの部分を占めたとされている、2007年に登録された世界遺産でもある。

今回、講演会をした場所は「石見銀山生活文化研究所」だ。この研究所を興し、運営しているのが、松場大吉さんとその奥様、登美さんだ。ちょうど20年前、1988年のこの場所に「群言堂(ぐんげんどう)」というショップをこしらえたそうだ。「群言堂」の名の意味は、「みんなでワイワイ発言しながら、よい流れをつくっていくこと」。彼らは、アパレル商品を軸に事業を展開しながら、銀座の真ん中の通り周辺の古民家を宿やお店にコンバージョンし、食のお店などをつくったりしつつ、現在では、東京を含め、数十店舗へ自社商品を卸すまでに成長。全国各地からスタッフも集まり、みなこの石見銀山がある大森町に住みながら、盛り上げている。

少しばかり、今回講演会に参加したみなさんと、彼らが運営している店やオフィスを見学させていただいたが、彼が丁寧に自分たちの暮らしを綴る印象をうけ、そこで使うもの、置いてあるものすべてに「意図」を感じた。こうした意図を丁寧に表現し、世界遺産である石見銀山に集客し、自分たちのビジネスにつなげ展開しているさまは、地域おこしのひとつの「成果」だと思う。実は僕自身こうした成果は「企画」ではできない、と感じている。

僕が考える「企画」は、言葉を変えると「サービス」だ。そのサービスは「消費者」と「商品」をつなぎ合わせる「糸」であり「場所」であり「商品」であり、そのサービスを成し遂げるためには、ベストマッチングな「市場(以下マーケット)」を必ず存在させるのが必須だ。そしてそのマーケットは、その企画者に対して「どんな商い」をもたらすのか。もう少し言うと、「どんな暮らし、生き方をもたらすのか」というところにつながっている。最近、その企画の「道筋の長さ」を課題に、取り組み始めている。

今回の講演会のテーマは「多業化」。現在、島根では、お米農家も多く、新規就農の多くは、お米農家がほとんどだ。その中でお米を縁故米(親戚や知り合いの農家の方から直接送ってもらう無償のお米)だけで扱うわけにいかず、JA や小売店に卸したりなどして、生計を立てているのが現状だ。そうした中「お米」という農業を鑑みた場合、お米を作ることだけではなく、お米の加工をして、別の商品を作り上げるなどの六次化産業の仕組みを作ったり、マーケットイン(商品の企画開発や生産において消費者のニーズを重視する方法)を用いて、単に既存米を作るのではなく、その商品のために必要なお米(例えば、低アミロース米ではなく、商品によって、高アミロース米を生産することに変更するなどして販売)を作り上げるような試みが行われている。もちろんお米に限らず、「デザイン」「IT」などの別事業を持ちつつ生計を図っている事業者や地域も増えつつある。現代の人口減少、高齢化がすすむ地方農家においては「お米だけでは成り立たない(もしくは成り立たなくなる)社会」を意識して、今後5年、10年の自分の農業や生業を作り始めていかなければ、「担い手」が育たないのでは?というフォーカスを持ちはじめているタイミングになってきている。だから「多くの業を持ちうること」が、生きていくための必須スキルだと思う。これは、今の都会に住む、もしくは暮らす人たちが持ちうる技であり、そうした都会の人間が地域再生に取り組む様子が増えているのも納得がいく。

そうした中、弊社や石見銀山生活文化研究所のような時間(とき)をかけながらも新たな試みを生み出し、成り立たせる企業が、地域でヒントが得られないかと、盛り上がり始めているのも実情だ。人と食の接点を、より良くするというコンセプトで弊社は経営しているが、どんな「食の接点を作るか」だけではなく、食の接点との「出会い方」「導き方」といった流れ(ストーリー)を意識していかなければならないと感じ始めている。

特に、地方が都会との接点が多くなると、作り手の生産者と、消費者の距離感が大切で、新たな事業のスタートは、そうしたところに生まれると感じている。この消費者と商品(作り手含め)の間を取り持つ企画はなんだろうかと、日々考えているなかで、石見銀山生活文化研究所の成り立ちは参考になると感じた。

一つの事業が生まれ、そこにスタッフが集まり、事業を成り立たせるビジネスをつくれば、一つの「集落」を生み出し、それがモデルとなって、世界各地に発信されるさまは、「30年(=One Generation/一世代)」というのが、最適なスピードだと感じている。そしてそれは、一つの個人の力ではなく、組織のあり方、お金の使い方にポイントがあるのではないかと思う。石見銀山生活文化研究所の活動を真似するのは非常に大変だし、同じものは生まれないと思うが、彼らの「姿勢」を見習うべきだと、僕は思う。

松田龍太郎

松田龍太郎

1977年生まれ。青森県弘前市出身。慶応義塾大学環境情報学部卒業後、日本放送協会に入局。
報道カメラマンとして、全国各地の事件事故、災害など日々のニュースの現場をはじめ、紀行番組の撮影に従事。その後、2007年企画・プロデュース業に転職。2010年より株式会社オアゾ代表を務める。
積極的に女性クリエイターを活用し、特に食にまつわる事業・店舗開発、PRコンテンツ制作を得意とする。現在神楽坂6丁目に「八百屋瑞花」という青果販売する八百屋 を展開中。
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Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第53回

100年後の、食卓のセッティング。

ご存知の方もいると思うが、現在、地域活性化のプロジェクトとして「農泊(のうはく)」が盛んである。この農泊は、簡単にいうと、農業を営んでいる事業者のご自宅(あるいは宿泊場所)に泊まり、短期で、その事業者の農作業を体験する旅のことである。主に、お米や野菜の収穫、また牛の世話や魚の漁をするための準備作業などの日々のこと、さらにせっかく宿泊いただいたお客様にとって、有意義な時間を過ごしてもらいたいと、事業者たちはわざわざ普段ではできないような体験や作業を経験できるようになっている。最近では、国の施策として、村や町、果ては市や県も「農泊体験プログラム」を実施するようになり、その体験の裏には「移住・定住」「事業継承」「外国人対応のインバウンド」といった目的も生まれているようだ。実際に、農泊体験プログラムに参加した人たちは、「まずはそうした農業を見てみたい、知ってみたい、体験してみたい」から始まり、そこで収穫したものを一緒に食べ、その地域の食文化や歴史に触れる、今までの観光旅行とは違うタイプの旅行を経験することに、主を持っている印象だ。

特に、農泊については「食」の接点をどこに作るかということが大切で、私たちもいくつかの地域の「農泊体験プログラム」における事業作り、そのプログラムに参加していただけるように、その事業を知ってもらうツール作りや、メディアへの発信を実施している。

その農泊体験プログラムについて、私たちがお手伝いをしている「大人の酪農 体験プログラム(仮)」を事前体験すべく、北海道・十勝平野は、帯広に向かった。

そのプログラム構築者はDさん。Dさんは現在都内でお米屋を営んでいるが、実は帯広畜産大学を卒業した、根っからの畜産系の人物。今回は、酪農家に宿泊体験していただき、「牛の世話を通じて、命の大切さを感じて欲しい」ということから、この農泊体験プログラムを企画したのだ。なかなか壮大なテーマで、当初僕もどんな風なら、わざわざ帯広まで人を集め、酪農体験をさせるられるかを悩んでいた。

そのDさんの紹介の元、今回、お邪魔させていただいた酪農家は、「i(あい)ふぁーむ」さんだ。この牧場を営んでいるのは岩谷史人さん。岩谷さんは、もともと出身は関西の方で、帯広に住み着いたのはかれこれ30年前。きっかけは、滋賀県のJAが経営している帯広の牧場に興味を抱き、大学卒業後、その牧場で働きたいと入社。そこから「北海道」「帯広」「牛」を通じて、自らが営む牧場へと昇華、現在、通常業務の傍ら、ご自身独自で農泊体験プログラムを実施、中高生の子どもたちに酪農作業を体験させるなどの研修旅行を受け入れるなど、積極的に酪農のいまを伝えようとしている。

僕も、到着したその場でまずは「つなぎ」に着替え、手を洗い、岩谷さんご挨拶、10分ほどの牛についての説明を受けた後、「では早速一緒に作業に入ってもらいます」といって、連れられていったのは、牛舎(ここまで20分くらいか)。あっという間に、酪農のど真ん中に。その牛舎では、すでに機械化された乳搾り器具が6台運転されていて、60頭ばかりいる乳牛の乳搾りが、1頭あたり平均20リットルほどの、その牛から本日搾ることができる量を目安に、1日に2回行われている現場であり、実は僕自身、手を使った乳搾りはあるけれども(人生で1〜2回、1分もかからない程度の経験…)、こうした「実践現場」に入ること自体初めてだった。初めての作業だったが、60頭いる牛たちの性格、現在の状況、対応の仕方などを非常に丁寧に、そして細かく岩谷さんに指導を受けたのが、大変貴重な経験だったと思う。最初は牛の身体がでかすぎで、少しビビっていたが、だんだん可愛く見えてくるのはなぜだろうか(苦笑)

この搾らせていただいた岩谷さんの牛乳(正確にはまだ商品化されていないので「生乳」と言える)は、地域で農協に一箇所に回収され、それが一つの牛乳として製品化され、最終的に僕たちの食卓の上に商品として、販売・流通されていくものになる。しかし、この過程は一般的に考えて、衛生的観点からも、僕らのような素人が「農泊体験」という体験を通じて参加できるものでは、通常ありえないと思う。そのために僕らの衛生面やそれに対するフォローは厳しく教えてくださり、その一つ一つの作業の意味と意図がわかりやすく伝わってくる。また牛60頭を全頭乳搾りしきるのに早くて1時間半、それを1日2回、朝の5時と午後4時を毎日実施。それ以外は餌をやり、掃除をし、運営している30年という時間の流れが、非常に貴重だということが、じわっと作業を通じて感じられる。

また、「ごはん」の時間と言える、朝・昼・夜の3度の飯は、「ホルスタインと和牛の食べ比べ」「牛乳(無調整、低脂肪などの加工違いによる)の飲み比べ」「牛乳を使った食材作り(バター、アイスなどなど)」も散りばめられていて、これまた非常に中身が濃いプログラムになっている。僕も部位の食べ比べは仕事上あったが、特に牛乳の飲み比べ(脂肪の度合いなど)は、意図して飲み比べると、かなり貴重だ。

しかし、この作業含め、どれも一つ一つが、その酪農家の「1日」であり、その場所・環境においては、いたって「普段の生活」と言って良いと思う。そしてこの普段の生活が、日本の自給率を上げ、スーパーの棚に牛乳がなくならないように納品し、喉が渇いた子どもたちに、冷たいミルクアイスを提供している様であり、礎を担っていることを垣間見ることができ、単なる「農泊体験」ではなく、僕が岩谷さんご夫妻から、示唆に富んだ体験やそれに通じる話を聞くことで、感じることが多々あった。ここでは書ききれないので、ぜひツアーを体験してもらいたいと思うが、僕自身、非常に思うことがあった宿泊だった。

作るものは変われど、接する問題は変わらない。

もちろん酪農家だからというわけではない。お米農家も、酒蔵も、漁師も、こうした「日々の生活」の延長線上に、都市部に住む僕らの食卓を支え、「食べていくこと」に接点を作り上げるための努力と「セッティング」をしているのだ。このセッティングが成り立たないと、スーパーも八百屋も、酒屋も都市部では成り立たない。

いま、地域では「作り手」を失い始めている。岩谷さんらの活動は、あと何年続いていくのか、それこそ、お金に変えられない「資産」であり「宝」だ。そのための「農泊」という一つのプログラムが走り、その「問題」に都市部の人たちに「気づきを与えるきっかけ」を作ろうとしている。すぐに移住定住ができるわけでもないし、外国人の全てが、「素晴らしい」と気づきつつも、その次の日からリピーターになってもらうことは困難だ。では何からその宿泊に参加するひとが変わるきっかけになるだろうか。それは商品の買い方、料理の作り方、保存の仕方、そして食の捨て方だ。物量の供給は、需要がなければ始まらない。都市部の需要は、地域に人がいなくなればなるほど反比例的に増えていき、美味しい食事を提供する料理人も増えていくだろうが、それは問題解決になっていない。生産者は増えないということを考えれば、減少していくなかでの「需要の作り方」が重要になってくるのではないだろうか。2018年は特に自然災害が多かった日本。北海道も地震があり、停電があったが、1、2日停電するだけで自給率が1%下がる結果も判明している。40%以下の自給率の、この日本がどんな「食の国」にならざるを得ないのか、非常に大事な課題だと思う。

「食卓のセッティング」。

僕らはこれから100年、どんな食卓にしていきたいのだろうか。

どんな食事をしていくべきか。

松田龍太郎

松田龍太郎

1977年生まれ。青森県弘前市出身。慶応義塾大学環境情報学部卒業後、日本放送協会に入局。
報道カメラマンとして、全国各地の事件事故、災害など日々のニュースの現場をはじめ、紀行番組の撮影に従事。その後、2007年企画・プロデュース業に転職。2010年より株式会社オアゾ代表を務める。
積極的に女性クリエイターを活用し、特に食にまつわる事業・店舗開発、PRコンテンツ制作を得意とする。現在神楽坂6丁目に「八百屋瑞花」という青果販売する八百屋 を展開中。
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Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第52回

6つの粉の違い。パイの奥深さ。

今日は僕が共同代表をしております、「日本パイ倶楽部」の話をします。

2015年5月に立ち上がった一般社団法人日本パイ倶楽部。組織も4年目を迎え、百貨店催事やイベントの他に、もっとファンの皆さんに、パイのことを深く知ってもらおうと、法人様、個人様向けに特別イベントを開くようになりました。そのイベントは「パイミーティング」と言います。2018年4月に大阪で、この9月に東京で開催されました。

そのミーティングでは、理事を含めて、様々なプレゼンテーション、試食会をさせていただいておりますが、今回東京で行われたミーティングで、法人会員としてサポートいただいている日本製粉さんのプレゼンテーションが興味深かったので、ぜひご紹介させてください。

さてパイを作るには、当たり前に「小麦粉」が必要です。そこに水とバター、塩を用いて練りこみ、それを焼き上げて、いろんなパイが仕上がります。その小麦粉ですが、日本製粉さんが作っている商品の一つです。

もともと原材料の小麦は、90%弱が海外からの輸入。それらは「パン」や「麺」に使う硬質小麦と、「お菓子」や「天ぷら」に使う軟質小麦に二分されます。また、硬質小麦はタンパク質が多いので「強力粉」、タンパク質が少ない軟質小麦は「薄力粉」というように、小麦粉に含まれるタンパク質の量の違いが、強力・中力・薄力粉の違いを生み出し、用途の違いを生み出すことが特徴的です。

そこで今回、日本製粉さんが、小麦粉の違いを参加者にわかってもらうために、特別に、6つのパイ生地を食べ比べてもらう試食会を開催されました。さっそく①〜⑥まで順番にいただきます。

まず、①は「イーグル」と「ハート」をそれぞれ50:50の比率で、イーグルは「強力粉」、ハートは「薄力粉」を混ぜ合わせたもの。かなりベーシックです。

②は「クラシック」というもので、これは日本・北海道産100%の小麦。味わいも非常に日本受けするもので、参加者にも人気でした!

③は「メルベイユ」。クラシックとは逆に、フランス産100%。北海道産とは違い、香りがたち、フランスのお菓子屋さんから料理屋まで「なんでも使える万能パイ生地」と言われる素材です。これは美味しい!

④は、一番パイの膨らみが薄いのですが、薄力粉100%、「ハート」です。

⑤は、その逆、ふっくらと膨らんでいるのが強力粉100%「イーグル」です。

この④⑤は、まさに太陽と月。正反対の生地です。特にイーグルは「水に負けない」パイ生地であるので、料理に強いパイ生地だそうです。実は僕は⑤のイーグルが一番好きでした!まさにサクサクフワフワが特徴です。

最後に⑥は、そのイーグルに「マルコポーロ」と呼ばれるパスタなどに使う小麦が入っており、他の5つとは、食感が違い、少しモチモチ感がありました。

こうして食べると「小麦粉の違い」でパイの味わいが全く異なる。そして、その小麦の調合の仕方で各社さんがしのぎを削って、お客様に提供しているという話を聞くにつれて、僕たちが「見過ごしてしまいそうな部分」で、実は「美味しさにたどり着くコツ」を届けてくれるのだなと、感じます。

もちろんパイには役割があります。「器」として、「料理の一部」として、「温度や香りを閉じ込める」ものとして、私たちの食環境に大きく関わってきています。そして一つのテーマを彫り始めると、その一つ一つの素材から情報が入り、一つの商材が生まれていきます。この旨さにたどり着くコツを知り始めていくと、私たちの食の接点が増えて、環境が広がっていくのです。

新しいパイの可能性は、新しい風景を見せてくれます。

やっぱり、パイは面白い、いや美味しい、楽しいんだ。

6つの小麦の違いでパイの奥深さを知る。

松田龍太郎

松田龍太郎

1977年生まれ。青森県弘前市出身。慶応義塾大学環境情報学部卒業後、日本放送協会に入局。
報道カメラマンとして、全国各地の事件事故、災害など日々のニュースの現場をはじめ、紀行番組の撮影に従事。その後、2007年企画・プロデュース業に転職。2010年より株式会社オアゾ代表を務める。
積極的に女性クリエイターを活用し、特に食にまつわる事業・店舗開発、PRコンテンツ制作を得意とする。現在神楽坂6丁目に「八百屋瑞花」という青果販売する八百屋 を展開中。
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Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第51回

知って食べる、食。

私たちの暮らしの中で、「食」との接点はどのくらいあるだろうか。生きていくために、深く息を吸い、水を飲み、暖かい太陽の光を浴びる。その日々の中で、野菜や果物、肉といった食材を手に入れ、それぞれの土地の個人のスキルで調理し、口の中で頬張ることになる。朝、昼、晩。絶食しなければ、本当に毎日、毎時間、僕らは「食を通じた時間」を「接点」として持ち続けている。「衣食住」とはよく言ったもので、着るもの、すまう場所もまた、似たような境遇を作り出す。その環境が、僕らに生活力(生きていく活力)を与えて、誰のものでもない個人の時間を作り出しているのだと思う。そのため、僕らは生きていくために「知ること」から始める。火の興し方、水の汲み方、ものの保存の仕方。そして「文化」もまた、一つの「知ってほしいこと」の保存、アーカイブと感じている。

※写真は先日青森で開催されたセミナーの様子です。

いま、食に関するブランディングを仕事として向き合う時に大切にしている部分は「知る」ということだ。生産者はもとより、それを流通させる人、その届いた商品を販売する人、さらにその商品を使って調理する人、すべての人が“知ってほしい”を通じてビジネスをしているのだと思う。

「知ってほしいこと」のスタートは、「どのように知ってもらうのか?」だ。わかりやすいのは、「デザインを見直すこと」。キャッチコピー、色使い、パッケージ、ロゴデザイン、シンプルに伝わるリーフレットやウェブ。様々な「指標」を用いて、その商品にたどり着く人たちを導く役割を「Design」は担っていると思う。デザインは時にその商品を「王子」や「姫」のように、全く別物に見せるマジックを見せるときもあれば、それまで出会わなかったポイントで、元々持っている良さを輝かせるときもある。この所作に僕もいくつか出会ったことがある。

そして知ってもらうからには、多くの人に出会う必要がある。その土地に生まれた食材が、だれかに育てられ、出荷され、人の手を辿って、誰かの口に運ばれる流れだけではなく、もっと広く知ってもらうために僕らは「PR」「広告」といった手法で、ありとあらゆる「ストーリー」を生み出し、それを「価値」と呼び、単に口の中にはいるだけではない、道筋を作り出す仕事をしている。「知る」ということに、僕らの生活はうまれ、社会の中で「食」という接点がビジネスを生み、新たな価値観と生活力を生み出す原因になっているのだから、人間にとって「食の接点」というのは、限りなく深く、そして絶えず変化していく商材だなと、5年、10年と絶えず付き合っていくと、とりとめなく悩ましい。それだけ食に関する仕事では「知る」ということがメインになってきているだと思う。だから「ブランディング」という言葉が、食のプロジェクトに生まれたと認識したら「これは知ることを問われている」と考えると、物事がシンプルになるのだと実感している。

※先日弊社が企画サポートした、JAベジカレッジ・ベジスムージー

だから、食に関する地方や商材のプロジェクトにおいて「ブランディング」は非常に大切だ。その知るを構築していくためには、僕は「認知力」「連想力」「所持力」「愛着力」の4つの要素を外せないと考えている。知って食べてもらうためには、その努力はかけがえのないものだと認識している。

「認知力」。その商材のフィールドにおいて、「知らない人はいない」という力強さだ。サッカー界でメッシや中田英寿を知らない人はいない。「連想力」。その商材といえば、「この商材しか浮かばない」という発信力だ。困っていたら、味の素だ、というくらい、どこに行っても存在する商品だ。「所持力」。その商材を「誰ものが持っている」という許容であり、独占力だ。これがないと生活そのものが成り立たない。「愛着力」そうした力を持ったものでも、「自分はこれが大好きだ」という愛、エモーションだ。

この4つの力には、すべて「知る」ということから全てが始まっている。

今日は、美味しいものを食べに行きたいと思い、通いたくなるお店の場所、連絡先。あの美味しいミニトマトが食べたいと思い、どんな生産者で、かつ販売しているお店の存在。

僕らはいま、その大半をネット、特にSNSから情報を得ている。Amazon、楽天もさることながら、知ってもらうことが、ビジネスに繋がっていると申し上げたが、面白いことに、ネット企業はリアルな場所として小売店をやりたくなるし、根っからのリアルな小売店はSNS発信や通販事業に力を入れたくなるという「隣の芝生は青い」現象が見られる。それは大企業だけではなく、小さな生産者、物流会社も動向は変わらない。

けれど、「絶えず与えられる情報」ではなく、ふと出会う、偶然のような「情報」に出会いたくなるのではないか。僕は、そうした小さな、ちょっとした事故のような情報が好きである。その小さな情報が、時に目玉のようなTOPニュースを与えてくれる。また小さな情報の集積で、僕らの活動の中にみっちり入ってくるものからも似たような感覚を与えられる時がある。

これは「旅」に似たような感覚だ。新しい場所すべてが、人生において、ささやかな気づきを与えてくれるものは、大切にすべきだ。それが「食の接点作り」の醍醐味でもある。僕らにとって、どこで食に出会うか。あなたにとって、大好きな場所に食はありますか?もしかしたら、新しい出会いは、食から生まれるのではと、僕は思います。

 

松田龍太郎

松田龍太郎

1977年生まれ。青森県弘前市出身。慶応義塾大学環境情報学部卒業後、日本放送協会に入局。
報道カメラマンとして、全国各地の事件事故、災害など日々のニュースの現場をはじめ、紀行番組の撮影に従事。その後、2007年企画・プロデュース業に転職。2010年より株式会社オアゾ代表を務める。
積極的に女性クリエイターを活用し、特に食にまつわる事業・店舗開発、PRコンテンツ制作を得意とする。現在神楽坂6丁目に「八百屋瑞花」という青果販売する八百屋 を展開中。
http://www.oiseau.co.jp

Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第50回

「もったいない」がビジネスの主軸に。

8月も終わりに近づき、「酷暑」と呼ばれる今年の夏も、少しは和らぐのではと期待しつつも、9月以降の気温予想も、例年以上に暑いという予想が出ている。

この暑さが、前倒しで暑さが続いていくと、温暖気候ではなく、すでに「亜熱帯気候」の土地になりつつあり、特に弊社の八百屋においては、野菜や果物の仕入れに打撃を与えられた。6月から7月にかけて、梅雨の時期と重なった大雨洪水などの水害は西日本、とくに中国・四国地方を襲い、特に柑橘をはじめとした果物の収穫にダメージを与えた。また7−8月は、酷暑から日照りも長く続き、野菜の成長が、例年以上にはやく、「欠品」が続くようになった。特に7月後半から8月初旬については、果物が「端境期(はざかいき)」でもあったように、野菜が主体の時期だったので、仕入れられる商品も少なく、農家さんとのやりとりも、大変だったことを覚えている。

一方で、農家も知らないわけではなく、毎年、こうした日々を過ごしている中で、気温気候に振り回されず、産地ならではのビジネスデザインを検討している。

例えば、僕の実家がある青森県のリンゴ農家では、リンゴを育てる時に、実の収穫量をあげていくため、余分なリンゴを選定してしまう「摘果(てきか)」という作業を実施している。実はこの摘果の物量は、リンゴの木一本から収穫されるリンゴと「ほぼ同等数」の、未成熟なリンゴを、捥いで選定しまうのだという。そんな摘果リンゴを、「もったいない!」と思ったのが、青森県弘前市のリンゴ農家「もりやま園」は、そのリンゴを原材料にした「シードル」をこしらえた。その名も「TEKIKAKA CIDRE(テキカカシードル)」である。

もりやま園が、このプロジェクトで目指すものは、りんごの栽培工程から生まれるロスを、商品の付加価値につなげること。もりやま園さんは、実際に、リンゴ栽培を1年というタームで作業を時間分割して分析し、例えば「摘果」であれば「津軽というリンゴには●●時間、ふじというリンゴには●●時間」というようにデータ化した。その結果、収穫は、全体の1/4、そのほか、収穫に必要というよりは「色付けがいい」「形がいい」といった、いわゆる市場向け商品にしていくための「手間」が、全体の3/4占めていることに気づいたのだ。

これまでは市場経由で、たくさんのリンゴが盛んにでていたが、現在のようにマーケットが変わり、市場価格も大幅に変化、リンゴが豊作の時期は、1箱10キロのリンゴも数百円という取引価格に成り下がってしまうのである。そうした価格変動は、人口減少、高齢化がすすむ地方生産現場においては、大打撃で、リンゴ生産自体を見直したり、手放してしまう農家さんも、最近では多くなっている。

またリンゴも、誰でも彼でも作れるわけではないので、作れないと、そのままの状態で農地が残されていることもある。そこでもりやま園は、シードルを作り始めた。また、リンゴづくりについても「付加価値を作れる品種」に限定し、いわゆる「津軽」「ふじ」といった市場流通品は作らず、新品種やビジネスとして適正価格で流通する品目を中心に作り始めている。さらに、「剪定」といって、2月3月の冬寒い時期に実施する、手間がかかる枝切りも、その枝を再活用し、「きのこ」も作り始めている。まさに「もったいない」から、「リンゴ農家の最前線」を新たに切り開いている。非常に面白い試みだと思う。

そして、もう一つこの摘果について「みかん」も面白いと思っている。実は、千葉県南房総地区は温州ミカンの産地でもあるのですが、温州ミカンは、ちょうど今の時期に「摘果」を行っている。この摘果作業によって、大量の摘果ミカンが採取されます。この未熟な摘果ミカンを商品化できないかと、ぼくらは今検討中だ。

未熟で酸味が強いので、そのまま食べるといよりも、スダチやカボスのように料理の香り付けやポン酢、シロップ等の材料に使える。今のところ加工に関する生産体制が貧弱なため、大量に採取される摘果ミカンのペースに追いつかないというところ。

時に南房総は、かんきつ類の産地の最北地ともいわれ、温州みかんやレモン等の農家が多いのですが、この摘果はほとんど畑に捨てられています。高齢化が進み、それらを商品として加工はもちろん、販路を開拓する気力のある若い世代もほとんどいないとも言われている。

こうして考えていくと、日本における「豊かさ」では、当たり前に「もったいない」という言葉に非常に価値があると思っている。完成品のリンゴ、ミカンが美味しいのは当たり前だが、「美味しさのもっと手前」で光り輝く期待を持った果実たちが、別の付加価値をつけて生まれ変わることが、ビジネスの本流だと思うし、6次化産業とは異なり、既存農家には無い発想で、IoTを活用した農作業最適化事業、ほか食品事業等が盛んになっていくことが、国内だけではなく、海外に向けた戦略としても十分にあると思う。

普段の日常で、何気なく実施している作業に、新価値があるのでは。誰かが言った、「お米は、生涯中、そんなにたくさん作れない。せいぜい年に1回だ。10回だろうが20回だろうが、同じものはできない。それを価値にできるワインをもっと見習いたい」。

ものの価値を変えることは、「見方を変えること」だと思う。

 

松田龍太郎

松田龍太郎

1977年生まれ。青森県弘前市出身。慶応義塾大学環境情報学部卒業後、日本放送協会に入局。
報道カメラマンとして、全国各地の事件事故、災害など日々のニュースの現場をはじめ、紀行番組の撮影に従事。その後、2007年企画・プロデュース業に転職。2010年より株式会社オアゾ代表を務める。
積極的に女性クリエイターを活用し、特に食にまつわる事業・店舗開発、PRコンテンツ制作を得意とする。現在神楽坂6丁目に「八百屋瑞花」という青果販売する八百屋 を展開中。
http://www.oiseau.co.jp

Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第49回

食を通じて、変わり始めている、コミュニケーション。

旅に出ると、「レストランを紹介する」もしくは「紹介される」ことはありませんか? 僕も、食を通じた仕事をさせていただくと、そういう機会に出会うことは多いです。

そうした機会の中で、僕が紹介するのは、予約がいっぱいで、なかなか座ることができないお店というよりは、「飲食サービスが気にならない雰囲気を持ったお店」を紹介するようにしています。例えば、たまたま僕が紹介したお店に、はじめて彼女を誘って行くかもしれないし、グループで5−6名で楽しく飲みたいのかもしれない。または、親子連れで、初めて海外に行くなかでのワンシーンかもしれない。人それぞれに、あらゆる食の接点があり、「誰と行くのか」「どんな場面か」といった状況によって、レストランは、大きな経験と「思い出」となって行く存在でもあります。その時に、ネガティブなポイントやサービスが発生すると、なぜか気になり、心に残る状況を作りだしてしまうことがあります。食べ終わった時、「心から喜べる状況にある」状態になることは、人間の心情的にもとても裕福で、食を提供する人間にとっては、それこそがありがたく、また明日も食を通じて、人を幸せにしたいという気持ちにさせてくれるものだと思っています。

ここでちょっと別の話になりますが、以前、僕が参加したレストランイベントについて話をさせてください。

それは、海外で活躍する日本人のフレンチシェフのポップアップイベントで、彼のお店はフランスでも予約を取ることが難しく、その日も新店舗のオープン準備の合間をぬけて、わざわざ日本に来られ開催されたものでした。

展開する料理メニューは、その時期に合わせた食材と、そのシェフの引き出しとも言える料理の手法、さらにソムリエが合わせたペアリングワインの組み合わせが、それは見事で、僕も久しぶりに舌鼓を打ちました。しかし、最後の料理を食べ終わった時に「ああ、もうこの料理人の料理は食べることはないかもしれない」とふと思いました。そのときハッと、以前襲われた同じ感覚を思い出しました。実はこの感覚は、以前フランスに行った時に、当時、新進気鋭の日本人フレンチシェフの料理を食べた時の印象と同じでした。あんなに美味しい料理を食べ、あっという間に数時間が経過、ワインもこれまでになく心地よく感じたのに、「また食べたい・・!」という欲求よりも「もういいかな」という寂寥感に襲われたのです。

なかなかこういう想いになることはありません。むしろ次の予約も取りたい、もっというとシェフに近づき、友達になりたいという想いが出てくるのが普通ですが(笑)、シェフが纏う雰囲気と、そのイベントの雰囲気、提供されるサービス、そして会計までの流れのなかで、シェフの提供したい内容が不明確になってしまい、期待感や欲求ではなく、おなかいっぱいという満足感とも異なる感覚にならざるを得ず、少し残念な気持ちになりました。

ふと、食が提供するコミュニケーションってなんだろうか、とレストランに行くたびに思います。美味しいものを提供するだけではなく、その料理を提供する際の言葉、メニューの内容、作り方の説明、それに合わせるワインのラインナップ、そのどこかがほころび始めると、シェフの仕事が「崩れていく」感覚に襲われます。それは料理とサービスのバランスが悪い時に感じる感覚です。僕が襲われた感覚もまた、それに近いです。シェフがすごすぎると、それに追いつけないサービススタッフ。1日、2日限りのポップアップでは、彼の良さに全く触れることもなく、時間に消えて行く・・。

料亭なのに、大声で「いらっしゃいませ!」と居酒屋のような雰囲気を味わいたいわけではなく、また小難しい料理人が黙々と調理し、何十分も待たせられて、「待てないなら帰ってくれ!」といわれるようなサービスにも、実は、できるだけ会いたくない。レストランで時間(とき)を過ごす、もしくは、そこに行かざるを得ないタイミングで行く場合は、できれば、そういうポイントで「伺わざるを得ないレストラン」を友人や親友、親、お世話になった人たちに、行って欲しくないと思っています。

いま、商品開発や店舗開発においても、「情報伝達のデザイン」が非常に大切だと思っています。僕らが提供できる料理の味も、すごさも、正直なところ「一杯一杯」のところまでやってきていると僕は思います。付加価値をレストランはどこに見出すか。働く人が減り、食材も限定され、お店が少なくなってきている今、この先10年、20年後のレストランの形はどんな形態になるのか。特に日本の、このスピード感は、企画立案・実行スピードよりも劇的に速度が上がっています。「業態開発」という言葉も必要ないかもしれません。このスピード感を構築している「コミュニケーション・デザイン」をレストラン市場はどう作り上げるのか。2018年の新たな食の議題だと思っています。

松田龍太郎

松田龍太郎

1977年生まれ。青森県弘前市出身。慶応義塾大学環境情報学部卒業後、日本放送協会に入局。
報道カメラマンとして、全国各地の事件事故、災害など日々のニュースの現場をはじめ、紀行番組の撮影に従事。その後、2007年企画・プロデュース業に転職。2010年より株式会社オアゾ代表を務める。
積極的に女性クリエイターを活用し、特に食にまつわる事業・店舗開発、PRコンテンツ制作を得意とする。現在神楽坂6丁目に「八百屋瑞花」という青果販売する八百屋 を展開中。
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Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第48回

「健康」と「甘味」のせめぎ合い。

今年から、青森県地域産業課地域資源活用チーム、そして地域活性化を主とする東京のコンサルティング会社とともに、「あおもり健康志向スイーツ」というプロジェクトを立ち上げることになりました。

青森県は「短命県」として名高い?ブランドになっておりますが、短命県を掲げる地域こそ「実は健康にはうるさい」「高齢化がすすんでいる」地域、ということが知られており、特に「健康志向スイーツ」というテーマは、僕自身もなかなかハードルが高いと思っています。

まず、今回のスイーツプロジェクトに参加するのは、和菓子から洋菓子、大企業から小さなお菓子さんまで、ありとあらゆる規模とジャンルの青森県内のお菓子業者の皆さんです。彼らの普段の営業活動において、明快なことは「菓子販売していくこと」です。そこに、「県内菓子製造業の振興と魅力あふれるしごとづくりにつなげること」「地域産業の活性化」を県が目的として掲げているからには、「新開発するお菓子を、健康志向というキーワードで作る」という課題に対応して、どのように挑んでいくのかが、このプロジェクトのカギになると思います。

  • PHOTO:Will Conscious Marunouchiにて実施「まるのうち保健室」

少しだけ、参考になるプロジェクトをご紹介します。このプロジェクトは、2014年より、東京・丸の内にて三菱地所や食関係事業者が中心となり、現在も活動している「Will Conscious Marunouchi(ウィル・コンシャス・マルノウチ)」のプロジェクト企画に、弊社が参画させていただいたものです。

東京丸の内で働く女性たちの健康状態を数値化し、その中で「睡眠不足、栄養不足、運動不足」の課題に対し、コンビニなどの小売店、そこで商品を販売する食品メーカー、そして丸の内にお店を構える飲食店が一斉に、商品開発、メニュー作りを工面し、どういう「ものづくり」が可能か、かなりの時間をかけました。また、「低糖質」「低カロリー」といった身体に紐づく「健康志向」は、医者や専門家含めて、緻密でかつ正確な情報をどうやって消費者に与えていくかがポイントであることも再認識しました。

ただ、「商品開発」においては、半年〜1年では難しく、3〜4年経った今、ようやくオリジナル商品を制作するまでに発展したという経緯があります。そこまでたどり着くには商品開発のスキルではなく、商品開発の意図、つまり「ストーリー作り」や「マーケティング戦略」をきちんと整え、それを商品開発者にお伝えする、ということが重要でした。単に既存商品を「健康食品」という名前の棚に置くことではなく、成分表示からパッケージデザインも含めたところにお客さんは響いていきます。

  • ナチュラルローソンと共同で開発した「バジルチキンのブロッコリー弁当」

さて、今回のプロジェクトの成果物は「スイーツ」です。スイーツは、人間にとって「欲」の一つであり、極論「取らなくても良い食物」でもあります。砂糖、小麦粉、卵からアレルギー性の高いもの、健康度が高いと言われる植物性のもの、さらにスーパーフードと呼ばれる栄養素が高いものなど、「食べ手」にとって、どんなニーズが潜んでいるのかを探る必要もあります。「健康」と「スイーツ」は相反するものであり、このプロジェクトにおいても、「健康志向の評価軸」をチームとして、決めないといけないと思っています。参加するお菓子業者も、そこに賛否をつけないと参加しづらいし、「ああ、これが健康志向か!」といった気づきを与えるプロジェクトではいけない。「これを売っていかないと意味がない!」「青森の健康とは、こうすべき!」というメッセージ性が高いものを見出したいと僕は思います。

  • 弊社が2016年に青森県で実施したスイーツプロジェクトの様子

実は、スイーツ作りの難しさは、この「商品開発におけるテーマ設定」だと思っています。どのメーカーも製造業者も常に考えているものであり、成功する難しさもあります。また、その商品の「MD(マーチャンダイジング)」も必要です。どこに置くのか、どのように運ばれるのか、どんな値段で販売するのか。それは生モノなのか、焼菓子なのか。冷蔵か冷凍か、日持ちはするのかしないのか、世界初なのか県内初なのか。自分たちの製造機器で作れるのかどうか。一つのスイーツを作りあげるためには、かなりの作業が各業者に発生します。だから、どんな小さな商品にも「ストーリー」がないと意味がありません。そして、テーマは感情的であろうとも、売り場としては、実践的で実用性があるものでなくてはなりません。

さて、今回のスイーツプロジェクトの状況は、このFoodnia Japan でもお伝えしていきます。

どんな形でアウトプットされるのか。ぜひお楽しみに!

松田龍太郎

松田龍太郎

1977年生まれ。青森県弘前市出身。慶応義塾大学環境情報学部卒業後、日本放送協会に入局。
報道カメラマンとして、全国各地の事件事故、災害など日々のニュースの現場をはじめ、紀行番組の撮影に従事。その後、2007年企画・プロデュース業に転職。2010年より株式会社オアゾ代表を務める。
積極的に女性クリエイターを活用し、特に食にまつわる事業・店舗開発、PRコンテンツ制作を得意とする。現在神楽坂6丁目に「八百屋瑞花」という青果販売する八百屋 を展開中。
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Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第47回

Fruit with coffee, Please! コーヒーの新提案。

この赤々とした「完熟マンゴー」が、「沖縄」「宮崎」といった産地から届くとき、季節の移り変わりとともに、一気に外気温も急上昇して、夏が訪れる。今年は6月末で、関東地方も梅雨明けとなり、また西日本を中心に、大雨が続いている状況からも、まさに、温暖というよりは、熱帯という気候になりつつあるのではと感じる。弊社の八百屋にも、今年はじめて宮崎は「やました農園」さんより、立派なマンゴーが届いた。沖縄の「あいあいファーム」さんからもアップルマンゴーなども届き始めており、早春の愛媛の柑橘から、いよいよ夏場の完熟果実が店頭でも目立ち始めてきた。

一方で、弊社が出店している商業施設「FOOD & TIME ISETAN YOKOHAMA」では、夏場を境に、各店舗さんとのコラボレーションが生まれ始めている。

そのうちの一つ、今までにない新しいコーヒースタイルを提案するUCC上島珈琲さんの「COFFEE STYLE UCC(コーヒースタイルUCC)」とともに、「私にぴったりのコーヒーに出会うことができる」、「私らしいコーヒースタイルを見つけることができる」をコンセプトに、新しいコーヒーのライフスタイルを提案する「Fruit with coffee」を提供することになりました。

つまり、私たちが提供する果実に、UCCさんの世界選りすぐりのコーヒーをくっつけようという企画だ。いま「マンゴー」「西瓜(すいか)」「白桃(もも)」と言った水分多めで甘みも豊富、果実味があるものと、少し時期的には早いが柑橘系の、旬が速いもの、2つを提供しようと検討している。それに、UCCさんで、ブラジル産のコーヒーをメインに、エチオピアや中南米の豆をブレンドし、スイーツ系に合うまろやかなもの、サワー系の酸味の強さを引き立たせながら、コーヒーの味わいがしっかりしたものを出すのである。

先日、試しに、果実を食べながら、UCCさんのコーヒーを試飲させていただいたのだが、驚くことに、水出しコーヒーのような、夏の暑さを吹き飛ばすような冷たさのものではなく、手差しでしっかり入れた暖かいコーヒーが、果実の味わいを、より別の世界に送り込んでいるような感覚を提供しているのだ。八百屋として、「野菜に合う」「果物に合う」といった「コーヒーへの見方」をしてこなかったので、その味わいの新鮮さにスタッフ共々、感銘を受けたのを覚えている。

7月28日(土)、29日(日)とUCCさんのお店で、果実とコーヒーの組み合わせを紹介するワークショップ、そして果実の販売を始める。ぜひこの機会に、横浜店まで「Fruit with coffee」を味わいにきて欲しい。

 

●COFFEE STYLE UCC(コーヒースタイルUCC)

(関連記事)https://www.ryutsuu.biz/store/k032042.html

 

●ヤオヤスイカ横浜西口店

http://www.suika.me/yokohama

松田龍太郎

松田龍太郎

1977年生まれ。青森県弘前市出身。慶応義塾大学環境情報学部卒業後、日本放送協会に入局。
報道カメラマンとして、全国各地の事件事故、災害など日々のニュースの現場をはじめ、紀行番組の撮影に従事。その後、2007年企画・プロデュース業に転職。2010年より株式会社オアゾ代表を務める。
積極的に女性クリエイターを活用し、特に食にまつわる事業・店舗開発、PRコンテンツ制作を得意とする。現在神楽坂6丁目に「八百屋瑞花」という青果販売する八百屋 を展開中。
http://www.oiseau.co.jp

Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第46回

「キチマ」ご存知ですか?

さてこの3文字、聞き覚えありますでしょうか。流行り言葉でもなく、合言葉でもないです。れっきとした業態名です。その名も「キッチン&マーケット(台所&市場)」です。(https://www.lucua.jp/foodhall/

最近では、「スーパーマーケット」が変わりつつあります。弊社が運営出店している八百屋についても、商業施設内スーパーマーケットにおける青果部門として入っておりますが、欧州などで人気、食業界で話題になっているグロッサリーとレストランが融合、イートインの進化系と呼ばれている「グローサラント」がこの「キッチン&マーケット」に近い形です。

2018年4月1日にオープンした阪急オアシスが手掛けた梅田ルクア1100に出店した「キッチン&マーケット」はこれまでとは違い革新的な売り場となっています。まず、野菜売り場に、500円均一のサラダバーが存在。そこに置いてある野菜がふんだんにカットされて、そこに群がるようにお客さんが一生懸命サラダを透明パックに詰め込む様子が見られます。また野菜に限らず、お肉屋さんでは、買ったお肉を「自宅用」「レストランですぐに食べられる用」に分けて販売、飲食が可能です。

この阪急オアシスが手掛けた売り場574坪は売り場毎にマルシェの色合いを上手に醸し出し、レストラン機能もオペレーションも緻密に考慮し、自社の商品97%の品ぞろえで、300ほどある飲食席で、買ったものをその場で食べられるようになっています。だから「飲食値段」ではなく、あくまでもスーパーの「小売価格」で販売されたものお客さんが食べられるようになっています。

価格設定については若干、高め設定が気になるところであるが、地代も高いので致し方無い。

出店先はJR大阪駅北側と直結している「ルクア側地下2階」。売り場ごとにそれぞれ特徴があり、イタリア食材、料理を提供する「メルカ」、惣菜、飲食もある生鮮マルシェ「フレッシュガーデン」スイーツを集めた「スイーツアットホーム」、精肉を集める「ミートフェスタ」などといった7つのエリアで形成されており、特に気になったのが、共用部(各店舗をつなげる廊下や照明など)のデザイントーンが統一されており、阪急オアシスとして、業態に3年ほどの時間をかけたというほどの気合が入った結果だと思う。また出店場所が「大阪のど真ん中」というのもうなずける。梅田という大阪の中心地で180万人という圧倒的な通行量でその立地にものの見事にあてはめた売り場作りであり、これまでの阪急オアシスは出店するたびに売り場が着実に良くなっていき、その集大成がこの「キッチン&マーケット」と言える。海外でも十分に通用する売り場だと思う。

このグローサラントの特徴は果たしてどこか。

大きく言うと、「人々の日常食の変化」だ。単に野菜が店頭で販売されることだけでは、「使い切る(食べきるという前提の前に、どうやって切って、どうやって食べるかがわからない)」ことができないお客さんが増えている。だから、野菜よりも「サラダ」を選び、さらに「サラダ」を出す飲食店が儲かる。つまり、より「お手軽」「時短」というキーワードがこのグローサラントを作り上げている要因とも言えるだろう。

一方で、これは飲食関係者が作る売り場ではなく、あくまでも「小売関係者が作る飲食の場」というのが面白い。あくまでもスーパーとして「見込み消費」を目算して作ることを前提に仕入れ、仕込みができる。飲食店は、そもそも「予約」「集客」があって、「席を埋めていかなくては」ならない。けれどグローサラントは、席を埋める必要がない。「食べる席がある」という感覚だ。「新たな食に対する便利さの提供」が食に関する「コト」「モノ」の展開になるだろう。

さて、「キチマ」。大阪の人たちはぜひ行ってみてください。そしてまだキチマに出会っていない方、あの賑わいは、一つのヒントして見てください。

松田龍太郎

松田龍太郎

1977年生まれ。青森県弘前市出身。慶応義塾大学環境情報学部卒業後、日本放送協会に入局。
報道カメラマンとして、全国各地の事件事故、災害など日々のニュースの現場をはじめ、紀行番組の撮影に従事。その後、2007年企画・プロデュース業に転職。2010年より株式会社オアゾ代表を務める。
積極的に女性クリエイターを活用し、特に食にまつわる事業・店舗開発、PRコンテンツ制作を得意とする。現在神楽坂6丁目に「八百屋瑞花」という青果販売する八百屋 を展開中。
http://www.oiseau.co.jp