和食STYLE

和食のいろは

  • 生
  • 煮
  • 焼
  • 蒸
  • 揚
  • 漬
  • 乾

日本で培われた独特の調理法で作られた料理を「和食」といいます。ただ、この調理法の定義は難しく、昨今の和食ブームでさらに調理範囲が広がっているものも事実です。そこで和食styleでは、和食の基本とされる調理法「和食の五法」、生(切る)、煮る、焼く、蒸す、揚げるに「漬ける」「乾かす」を加えた「新・和食の七法」を切り口に、和食のいろはをお伝えいたします。

生

生 平目の昆布締め

生

和食における生ものの代表は刺身(お造り)。生魚を切って盛り付けるベーシックな料理だが、魚によって切り方を変えたり、あるいは昆布締めや酢締めにするなど、日本料理ならではの細かい技によって繊細な味わいを演出する。季節によって魚が移り変わり、また、東は鮪(マグロ)、西は鯛(タイ)が最上とされるなど、地域によって用いられる魚が異なることもある。

代表的な料理

平目(ヒラメ)の昆布締め(こぶじめ)

「昆布締め」は、白身魚などを昆布で挟んで寝かせる調理法。昆布が素材の余分な水分を吸い取り、また昆布の旨味が素材に移ることで味わいにより深みを加えることができる。さらに水分が抜けることで、素材を長持ちさせる効果もある。特に平目(ヒラメ)や鯛(タイ)などの白身魚に向いており、寿司屋ではサクのまま半日から1日程度昆布締めにしてから切り付けることが多い。発祥は富山の郷土料理。富山では江戸時代より北前船で北海道から送られた昆布を大量に消費しており、その利用法の一つとして昆布締めが生まれた。

河豚(フグ)の薄造り(うすづくり)

「薄造り」は刺身包丁の「そり」を使って引くようにして刺身をそぎ切りにしたお造りのこと。白身魚、特に河豚(フグ)のように身がしっかりしたものは、厚切りだと歯ごたえが強すぎるため、薄造りで適度な食感で供することが多い。特に河豚は皿の模様が透けて見えるくらい薄く切ることが多く、一枚ずつ器に貼り付けるように盛り付ける。また、魚種にもよるが、河豚(フグ)などは水揚げされてから1日~数日寝かせてからの方が旨味が増す。

河豚(フグ)の薄造り(うすづくり)

「松皮造り」とは、皮付きの鯛(タイ)に熱を加え、表面の皮目を松の皮の様に仕上げる調理法。鯛(タイ)や鱸(スズキ)、鶏魚(イサキ)などは皮目に旨味があるが、皮が硬く生だと食べにくいため、皮だけに熱を加える。湯をかける「湯霜」、直火で焼く「焼霜」などの方法があるが、松皮造りの場合は、湯霜が一般的。サクの皮目にお湯をかけ、皮目が縮んで霜降りになったところで氷水に入れ、粗熱をとって仕上げる。

和食の用語

白身魚と赤身魚(しろみざかなとあかみざかな)

鯛(タイ)や平目(ヒラメ)など身が白い魚を「白身魚」、鮪(マグロ)など身が赤い魚を「赤身魚」と言う。また、鰯(イワシ)や鯖(サバ)など、表面が青色の魚は「青魚」と呼ばれる。

熟成と旨味(じゅくせいとうまみ)

魚によっては新鮮なうちに食べた方が美味しいものと、ある程度時間が経ったほうが美味しくなるものがある。鯛や平目、河豚などは適度に熟成させることで旨味が出てくる。

マルとサク

「マル」は魚一匹丸ごと、「サク」は魚をさばき、刺身などに使えるように細長い立方体状に切ったもの。サクを切ることで刺し身になるが魚や料理によって切り方は異なる。

そぎ造りと平造り(そぎづくりとひらづくり)

「そぎ造り」は魚を薄くそぐように切る方法で平目(ヒラメ)や河豚(フグ)などの白身魚に適している。「平造り」は厚めに切る方法で鮪(マグロ)などに適している。

たたき

「たたき」には、魚と薬味を一緒に庖丁でたたくもの(「鯵(アジ)のたたき」など)と、魚を炙ってから切り分け、薬味やタレをかけるもの(「鰹(カツオ)のたたき」など)がある。

あしらい

「あしらい」とは主たる食材に取り合わせて添えるもののこと。刺身の「つま」や「青掻敷」(あおかいしき。料理の下に敷く葉など)など料理に季節感を加えるほか、メインの食材に香りのアクセントを加える役目、あるいは食欲増進や毒消しの意味合いなどもある。

コラム 旬ばなし

地域によって異なるが、お造りに用いられる魚介は、春は鯛(タイ。桜鯛)や細魚(サヨリ)など、夏は鰈(カレイ)、鱸(スズキ)、槍烏賊(ヤリイカ)、車海老(クルマエビ)など、秋は鯛(紅葉鯛)、冬は鮪(マグロ)、平目(ヒラメ)や河豚(フグ)などが代表。

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煮

煮 季節の野菜の炊き合わせ

煮

和食における煮物の種類は幅広く、懐石料理の煮物椀から肉じゃがなどまで、多彩な味わいの料理がある。野菜、魚介、肉と用いられる食材も多岐にわたる。関東では煮付けやうま煮など濃い味付けで魚や野菜を煮るものが多く、関西では炊き合わせなどが主流。

代表的な料理

季節の野菜の炊き合わせ

「炊き合わせ」は複数の食材を、それぞれの持ち味を生かした方法で別々に煮て、ひとつの器に盛り合わせた料理。「煮合わせ」とも言う。和食の世界には「出会いもの」という言葉があり、旬の食材を、それぞれにあった調理をしたうえで組み合わせることにより、より一層奥深い味わいに仕上がる。

鮴(メバル)の煮付け

「煮付け」は、野菜や魚肉などを、出汁や調味汁が十分しみ込むまで良く煮る調理法。メバルは「春告魚」ともよばれ春の煮付けによく使われる。和食の煮物には多くの種類があり、煮付けは、煮汁がなくなるまで煮る煮物「煮しめ」の部類に入る。和食店などでは魚の種類によって、煮始めの状態を分けており、水分が少なく身質が固いので身崩れの心配があまりない白身魚は煮えばなに入れ、対して身が柔らかい青魚は最初から鍋に入れて煮る。

若鮎(ワカアユ)の甘露煮

「甘露煮」は魚を生のままか素焼きにした後、醤油やみりんに多めの砂糖や水飴を加えた汁で、照りが出るように煮る調理法。「飴煮」ともいう。鮎(アユ)や鮒(フナ)など、主に淡水魚の小魚で作る。 若鮎の甘露煮は明治時代に琵琶湖でとれた活鮎を京に運ぶ際、厳しい冬の間にもおいしく食べられるよう保存食として飴煮炊きをするようになり、生まれた料理。

和食の用語

旬(しゅん)

「旬」とは、食材の食べごろの時季の事。出始めの時季を「走り」、最も多く出回る時季を「盛り」、終わりの時季を「名残り」と言うが、一般的に「旬」と呼ばれるのは「盛り」のこと。

出会いもの(であいもの)

季節の走り・旬・名残の味を合わせ、互いに美味を引き出すようにされた組み合わせのこと。春の筍(タケノコ)に若芽(ワカメ)などのほか、秋の落ち鱧(ハモ)と出始めの松茸(マツタケ)など、「走り」と「名残り」の組み合わせもある。

煮付けと煮しめ、旨煮(につけとにしめ、うまに)

「煮付け」は、野菜や魚肉などを、調味した汁が十分しみ込むまで良く煮る調理法。一方で、「煮しめ」とは、野菜や乾物などを濃い味で煮たもの。煮汁を切って器に盛る。日持ちがよく、味が深く浸透する煮物なので、折り詰、重詰や弁当などに適している。いっぺんに煮上げないで、時間をかけて煮ては冷ましを繰り返しながら汁を詰めていくと出来が良い。または肉や野菜類を砂糖・酒・醤油・みりんなどで濃いめの味に仕上げたものを「旨煮」という。

灰汁(あく)

野菜や魚、肉を煮込んだときに出る雑味成分のこと。野菜では根芋、筍(タケノコ)、わらび、ずいきなどに顕著。筍は米ヌカ、根芋やずいきは焼きみょうばん、他の野菜は水または酢水・塩水に浸けて抜くことが多い。

出汁(だし)

和食料理における「出汁」とは、旨味成分を含む汁状の調味料の事で、塩・醤油・味噌に加えて基本的な味の一つとなっている。鰹節を削った削り節から抽出する「かつお出汁」が代表的だが、その他にも「昆布出汁」や鰹と昆布をかけあわせる「鰹昆布出汁」「煮干し出汁」「あら出汁」「八方出汁」「精進出汁」「鶏骨出汁」「椎茸出汁」など、様々な種類があり、食材によって使い分ける事ができる。

一番出汁と二番出汁(いちばんだしとにばんだし)

一番出汁とは、昆布と削り鰹でとった最初の出汁のこと。香り高く色も澄んだ上品なだしで、すまし汁、椀盛りなどに最適。一方で、二番出汁は、一番出汁で使った昆布、削りがつおを再び水から入れて煮立てて漉し取り、旨味を強く引き出した出汁のこと。煮ものや椀盛りの実を温めたりするときに使う濃厚な出汁。

あたる・あたり

「あたる」は材料をすり鉢ですりつぶすこと。二種類以上の材料を合わせ混ぜることもある。一方で「あたり」とは、いわゆる勘所のことを「あたり」と呼ぶ。料理の味付けや、寸法や重さを見極める時に「あたりをつける」などといって用いる。ちなみに江戸前の鮨屋ではお勘定の事を「あたり」と呼ぶこともある。

隠し包丁(かくしぼうちょう)

隠し包丁とは、表面から見えない部分に入れる包丁の切り目のこと。「忍び包丁」ともいわれ、魚の焼物や煮物、野菜では大根の厚切りや丸のままのカブなどによく用いられる。隠し包丁を入れると火の通りがよくなって、味がよくしみ、食べやすくもなる。

一汁三菜(いちじゅうさんさい)

和食料理の基本で汁に小鉢(お新香)、焼き物、煮物の三菜を合わせる事を指す。一方、会席料理では、向付(お造り)、椀盛(お椀)、焼き物の三菜。この後、預け鉢(炊き合わせ)、吸い物、八寸(酒の肴)、香物(お新香)、湯桶(お茶漬けなど)と続く。

コラム 旬ばなし

地域によって異なるが、煮物に用いられる魚介は、春は鮴(メバル)、初夏は若鮎(ワカアユ)や鯉(コイ)、夏から秋にかけては鰈(カレイ)、穴子(アナゴ)、金目(キンメ)、冬はクエなどが代表。

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焼

焼 鰤(ブリ)の照り焼き

焼

焼物は旬の魚や野菜を用いるが、素焼き、塩焼き、照り焼き、柚庵焼きなど、さまざまな調理法によってその味わいは実に多彩。また、たとえば魚の塩焼きであれば、泳いでいるように見せるために躍り串を入れ(串を打ち、魚が波打つような形にすること)たり、頭やヒレに化粧塩を施すなど、見た目が美しくなるような技も使われる。

代表的な料理

鰤(ブリ)の照り焼き

「照り焼き」は、砂糖やみりんを含んだタレを食材に塗りながら焼く調理法で、冬の鰤の照り焼きが代表的。何度も塗りながら焼くことで照りが出るようにするため照り焼きという。材料に七分通り火を通してから、タレをかける、またはハケでタレを塗りながら照りを出して行く。照り焼きは「つけ焼き」の一種だが、つけ焼きよりも甘味を強くして照りを出す焼き方である。

鰆(サワラ)の柚庵焼き

「柚庵焼き」は醤油、酒、みりんを等分したつけ地に柚子の輪切りを入れ、この地に魚介や肉類の切り身を漬け込み寝かせてから焼く焼き方のこと。肉類にも向いているが、鰆(サワラ)や太刀魚(タチウオ)などの白身魚にも適している。柚子の香りが材料に移った頃、汁気を切って焼く。焼き上がったら皮目を上にして、盛りつける。鰤(ブリ)や梶木(カジキ)などを使用する場合は、白身魚より長時間漬けた方が良い。「ゆうあん」の文字は柚庵のほかに幽庵、幽安とも書き、茶人の北村祐庵の考案とされている。

筍(タケノコ)の香味焼き

「香味焼き」とは、季節の香物を使って、魚介や野菜に香りを移しながら焼く調理法。魚介であれば材料は淡白な白身魚や海老(エビ)、烏賊(イカ)が向いている。春の焼き物として代表的なのは、筍(タケノコ)の香味焼きで、これは山椒の若芽である木の芽の香りを楽しむ料理。醤油、酒、みりんなどで作った調味液に木の芽を叩いてから入れ、灰汁抜きをし、下処理を施した筍に香りを移しながら焼いて仕上げる。

和食の用語

照り(てり)

「照り」とは酒、味醂などの糖分や葛などを使い料理にツヤをつけること。照りをつける、照りを出すという。

香味焼き(こうみやき)

「香味焼き」とは、季節の香物を使って、魚介や野菜に香りを移しながら焼く調理法。柚庵焼きの他、焼きダレに粉山椒を入れる山椒焼き、胡麻の風味を利かせた利休焼きなど、様々な香味焼きがある。

化粧塩(けしょうじお)

「化粧塩」とは、魚を美しく焼き上げるためにふられる塩のこと。あらかじめ塩をしておいた魚に焼く直前にもう一度軽く塩をふること。この化粧塩の効果で、皮がパリッと焼きあがる。また、鯛(タイ)や鯵(アジ)、鮎(アユ)など、姿のまま塩焼きするときに、特に焦げやすい尾びれやひれの部分に多めの塩をふることで、きれいに焼き上がる。

包み焼き(つつみやき)

魚介や肉類、野菜・きのこなどを包んで蒸し焼きにしたもの。竹の皮や葉蘭で包んで焼くが現在ではアルミホイルで包んで焼くことが多い。紙で包んで焼く「奉書焼き」なども。材料の風味を逃さない調理法。魚や野菜、肉を塩で包んで焼く「塩釜焼き」などもある。

焼き付け(やきつけ)

完成した料理に焼き目を入れる事。「焼き目」と同義語。焼き目がアクセントになって完成度があがり、食欲をそそる仕立てとなる。味醂を塗ってもうひと焼きするほかが、現在では料理用のバーナーで焦げ目をつけることも。

コラム 旬ばなし

季節の焼き物として代表的なものは、春は鰆(サワラ)や笹鰈(ササガレイ)夏は太刀魚(タチウオ)や鱧(ハモ)秋は梭魚(カマス)真魚鰹(マナガツオ)、さに冬にかけては甘鯛(アマダイ)やノドグロ、クエなども豊富。野菜でいえば春は筍(タケノコ)夏~秋は茄子(ナス)や松茸(マツタケ)などあるが、野菜の焼き物の場合はどちらかというと秋、冬が中心となる。

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蒸

蒸 松茸(マツタケ)の土瓶蒸し

蒸

日本料理における蒸し物は、茶碗蒸し、酒蒸し、土瓶蒸し、蕪蒸し、糝薯(しんじょう。魚のすり身をまとめたもの)など、多岐にわたる。蒸すことによって旬の素材の旨味を逃さず、やさしい味わいに仕上げることができる。また、茶碗蒸しなどを除くと、基本的には味をつけずに蒸すため、味を入れた餡をかけるなど、日本料理の技が生かされることが多い。一般的には秋から冬にかけての料理。

代表的な料理

松茸(マツタケ)の土瓶蒸し

「土瓶蒸し」は、土瓶で作る蒸し物のことで、松茸の土瓶蒸しが代表的。季節の食材と出汁を入れ蒸し上げる。まずは素材の香りと味がとけこんだ吸い地を味わい、それから土瓶の中の素材を食す。吸い口にすだちなど季節のものを選び、香りを楽しむこともこの料理の大切なポイント。

白身魚のかぶら蒸し

「かぶら蒸し」とはすりおろした蕪(カブ)を鯛(タイ)などの白身魚の切り身の上にのせて蒸した料理。滑らかな口当たりが堪能できるので、メダイなどの白身の魚が向いている。下湯でした百合根(ユリネ)と共にすりおろしたカブ、淡雪仕立てにした卵白、一番出汁を用いて調味し、真っ白に仕上げる。身体が芯からあたたまる冬の料理。京都では京野菜の聖護院蕪を用いて作る。

鯛(タイ)の桜蒸し

「桜蒸し」とは真鯛(マダイ)が春の旬を迎える4月の桜が散った頃、桜の葉で鯛(タイ)の身を挟んで蒸し、桜の葉の香りを楽しむ料理。はじめに塩を打ち、浮き出た水気は拭き取ってから、もう一度化粧塩を施し、桜の葉に包んで蒸し器にかける。この時期の鯛は、桜の季節に美味しくなる事や、この頃のメスの身体が美しい桜色になることから、「桜鯛」と呼ばれる。皮や身はもちろん、肝や白子など、捨てるところがないほど隅々まで味がのっており、この時期の鯛は最も盛りの時期と言われる。

和食の用語

薬味(やくみ)と吸い口(すいくち)

和食における薬味とは、素麺に添えるショウガやみょうが、青じそなど、淡白なものに風味をつけるなど、料理の味を引き立てるだけでなく、食欲を高める効果をもった食材のこと。一方で、薬味と似た働きをするものに「吸い口」がある。これは、みそ汁や吸い物などの汁ものに添える香物のことで、木の芽やゆず、すだち、ショウガ、山椒、七味唐辛子などがあり、香りを楽しみながら、食欲を増進させる効果がある。

淡雪仕立て(あわゆきじたて)

卵白を泡立てて仕立てる料理の呼び名。真っ白くふわふわとしていて、とけるような舌触りが雪に似ていることから、このように呼ばれる。

蒸し煮(むしに)

煮崩れしやすい材料、直火かけることができない材料、固すぎて火が通りにくい材料などを蒸し器を通して料理する手法。器に煮汁と材料を入れて蒸し器にかけるやり方と、材料だけ蒸して、それを煮る手法と二通りある。

結び(むすび)

「縁を結ぶ」とうい語から縁起よいものとされる点、見た目が品よくなる点などから料理によく使われる。一般的には細長い材料を結んだものだが、紅白かまぼこなどを細く切り、それを結んで飾ることもある。結び方は「千代結び」「文結び」「一重結び」「二重結び」「相生結び」「淡路結び」など。結び三つ葉、結び昆布などを作り、蒸し物や煮物にあしらうことが多い。

湯葉蒸し(ゆばむし)

穴子(アナゴ)や鰻(ウナギ)と共に筍(タケノコ)や干し椎茸などを汲み上げ湯葉でくるみ、蒸した料理。出汁をといた餡をかけて食す事が多く、湯葉や餡のなめらかな口当たりがポイント。日本料理では、湯葉を使う料理の名前を東寺とつけるので、湯葉蒸しはまたの名を東寺蒸しと呼ぶ。そのほか、山芋を使った養老蒸し(ようろうむし)や蓮根を使った蓮蒸し(はすむし)など様々な蒸しものがある。

コラム 旬ばなし

蒸し物は温かい料理であるため、基本的には冬が中心。蕪蒸し、湯葉蒸し、養老蒸し(山芋をつなぎに用いる蒸し物)などがある。また、春には桜蒸し(道明寺粉を用いる蒸し物)や鯛の兜蒸し、秋には丹波蒸し(栗を用いる蒸し物)、蓮蒸し(蓮根を用いる蒸し物)などもある。

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揚

揚 小柱(コバシラ)と三つ葉のかき揚げ

揚

揚げ物は素材の水分を適度に抜くことで旨味を凝縮させる料理。日本料理の揚げ物には、何も衣をつけずに揚げる素揚げ、小麦粉の衣をつけてあげる天ぷら、片栗粉の衣をつけてあげる立田揚げのほか、あられや煎餅などを衣にして揚げる豊年揚げ、霞揚げ、湯葉などで食材を巻いて揚げる東寺揚げなど多彩な種類がある。また、揚げ物をタレに着ける揚げ浸しなどのバリエーションもある。

代表的な料理

小柱(コバシラ)と三つ葉のかき揚げ

「かき揚げ」とは小さく切った食材をかき混ぜて衣でまとめ、油で揚げる料理。江戸前の天ぷらでは、小柱(コバシラ。青柳の柱)や芝海老(シバエビ)に三つ葉を添えたものがかき揚げの代表で、職人の腕の見せ所と言われる。季節に合わせて様々な素材の組み合わせが考えられるが、「小柱と三つ葉」以外にも「烏賊(イカ)と玉ねぎ」など淡白な魚介に季節の野菜や青い野菜を一点加え組み合わせるのが良い。赤身の魚や山芋類などクセの強いものはかき揚げに向かない。

白魚(シラウオ)の天ぷら

「天ぷら」は衣を薄くつけてカラッと仕上げ、汁や塩で魚介や野菜類の旬を楽しむ江戸前の料理。寿司よりもさらに作りたてであることが重要で、揚げてから時間が経つと空気に触れる事で酸化してしまい、劣化してしまう。衣の粘り具合や油の温度、種の火の通り具合など、シンプルでありながら職人の腕が試される。早春の一時しか出回らない白魚(シラウオ)も天ぷらに適している。ちなみにあられを細かく撹拌し、衣として用いた「かすみ揚げ」なども白魚(シラウオ)に適している。最近では柿の種を撹拌して衣にする料理人も多い。

茄子(ナス)の揚げ浸し

「揚げ浸し」とは、茄子(ナス)などの野菜を衣は何もつけずに素揚げし、出汁に醤油、塩で調味した液を吸わせて仕上げる。茄子(ナス)で作る場合は、皮の部分に2~3mmで切り込みを入れると味がしみ込みやすくなり、さらに茄子(ナス)は縦半分に細く切ることで、茄子(ナス)の色止めに効果がありきれいに仕上がる。水にさっとつけて灰汁を抜いてから調理すると尚良い。

和食の用語

江戸前(えどまえ)

江戸前とは、徳川末期の19世紀(1810年頃)から使われた言葉。隅田川から羽田辺までを江戸前の海と考えた。東京湾で取れた新鮮な魚の意であるが、漁獲量減少で、現在は東京風の料理を指す言葉に。天ぷらでは魚介を使うのが江戸前の基本で、かつては野菜を揚げた天ぷらは「精進揚げ」と呼ばれたが、現在では江戸前天ぷらを掲げる店でも野菜を出すようになっている。

種と衣(たねところも)

種とは、すしや天ぷら、吸い物に使う材料のこと。種を逆さまに読んで、「ねた」と呼ぶことも。一方、衣とは、揚げ物、和え物、菓子などで、材料を覆ったり、包んだりまぶしたりするものを指す。

素揚げと揚げ浸し(すあげとあげびたし)

素揚げとは、材料をそのまま揚げること。衣や下味をつけずに揚げることで材料の色や形、味が生かされる。ししとうやピーマンなどは色を生かすためによく素揚げにする。一方「揚げ浸し」とは、茄子などの野菜を素揚げし、出汁に醤油、塩で調味した液を吸わせて仕上げる調理法のこと。

色止め(いろどめ)

色止めとは、材料が変色するのを防ぐために用いられる方法。特に切ると色が悪くなる野菜には欠かせない処理。リンゴは塩水に、ごぼうやなすは水に、れんこんやうどは酢水にさらす。青菜をゆでるときに塩を少量加え、茹で上がったらすぐに水にさらすのも色止めをして色鮮やかに仕上げるため。

磯辺(いそべ)

「磯辺」は海苔(のり)を使った料理。磯辺揚げ、磯辺焼き、磯辺和え、磯部巻きなど。また、磯の魚介を用いる料理にも磯辺の名称を用いる場合もあるが、これは単に「磯」と呼ぶ事が多い。「磯造り」など。

五色(ごしょく)

和食料理の五色は「しょうおうしゃくびゃくこく」青(緑)・黄・赤・白・黒(茶)の色。これは盛りつけ配色の基本色でもある。それとは別に献立としての五色は、材料を上記の色に染め付けるか、元々上記の色を持つ五種の材料を料理したもので、五色揚げ、五色蕎麦、五色素麺、五色膾(なます)などがある。

コラム 旬ばなし

天ぷらは春から夏にかけての時季が最もタネ(素材)が充実する。春は魚介では白魚、桜海老、鮎、雌鯒(メゴチ)、銀宝(ギンポウ)、小柱、野菜系ではたらの芽やふきのとうなどの山菜、筍(タケノコ)、空豆など。夏は魚介では鱚(キス)、穴子、車海老、アオリイカ、野菜ではミョウガやインゲンなど。また、秋は沙魚(ハゼ)や松茸など、冬は牡蠣(カキ)や墨烏賊(スミイカ)、人参、春菊など。

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漬

漬 牛肉の味噌漬け

漬

「漬ける」という調理法は、①食材を発酵させる、②余分な水分を抜く、③食材に味を入れる、などの目的がある。いずれも食材の旨味を凝縮し、味わいを深めるための調理法。たとえば、野菜の糠漬けのように食材を発酵させて旨味に変化させるもの、牛肉の味噌漬けのように食材の余分な水分を抜いて味を凝縮させるもの、キュウリの浅漬けや鮪(マグロ)の即席ヅケのように味をつけるものなどがある。

代表的な料理

牛肉の味噌漬け

「味噌漬け」は肉や魚などを酒粕や味噌を合わせた味噌床に揉み漬け、寝かせて作る保存食の料理のこと。食材が長持ちするだけでなく、余分な水分が抜けて旨味が凝縮する効果がある。牛肉の場合は叩いてから漬け込んだ方がより味が沁みて良い。牛肉の味噌漬けは、江戸時代に、近江(現在の滋賀県)の牛肉を「養生薬」の名目で将軍家に献上するために作られた。

銀鱈(ギンダラ)の粕漬け

「粕漬け」は酒粕地に魚の切り身を漬け込んだもので関東に多く、銀鱈などが代表。「西京(味噌)漬け」は、米麹からできた西京味噌に魚の切り身を漬け込んだもので、関西に多く、真魚鰹(マナガツオ)などが代表的。陸魚(ムツ)、甘鯛(アマダイ)、鰆(サワラ)などの白身魚も向いている。味噌漬けそのものの歴史は、平安時代に既に存在したと言われるが、当初は高級品で上流社会だけが口にできる貴重な料理だったが、茶の湯が流行した東山時代の頃には、一般家庭にも広まっていったといわれる。

糠漬け(ぬかづけ)

「糠漬け」(ぬかづけ)とは、塩を加えた糠で材料を漬けて重しをし作る漬け物の手法のこと。大根を漬けるたくあんなどがその代表。一方で、「糠味噌漬け」(ぬかみそづけ)とは、糠を炒り、塩を混ぜ水をさして、野菜を加えて乳酸菌の熟成を待ち、熟成した糠床に野菜を漬ける手法もある。関西では「どぶ漬け」と呼ぶ。

和食の用語

発酵(はっこう)と熟成(じゅくせい)

発酵(はっこう)とは、目に見えない微生物の働きによって食物が分解され、人間にとってプラスになる成分に変化すること。海外にもヨーグルトやチーズといった発酵食品があるが、日本は特に発酵食品が多く、醤油や味噌、酒、みりんといったように、発酵の力が日本の食文化を支えている。熟成(じゅくせい)との違いは、微生物が介在するかどうかで、熟成は自身が持っている酵素で分解を行う一方、発酵は麹菌などといった外からの微生物の酵素で分解する。

麹(こうじ)

麹(こうじ)とは、穀物などに含まれる麹菌を培養したもの。様々な発酵食品の原料として使われる。主な特徴は、多量に含むジアスターゼの作用によって、澱粉を糖分に変えるというもの。味噌、醤油、酒の醸造に欠かせない原料であり、漬け物などにも使用されている。代表的なものが「米麹」であり、精米を蒸して黄麹菌等を得る。麹菌の酵素(アミラーゼやプロテアーゼなど)により培養条件を変えたりして目的にあう米麹を生産する。

酒粕と味醂粕(さけかすとみりんかす)

米と米麹と水を原料に醸造し、その過程で原料が柔らく発酵した固形物のもろみを搾った液体が酒で、残ったものが酒粕(さけかす)。酒粕は、いくつかの種類に分けられ、ぎゅっと搾ったままの平たい形を切り揃えたのが「板粕」。板粕と同じものを、ばらした粒状のものが「バラ粕」。酒粕に水や焼酎を打って数ヶ月寝かせて熟成させたものが「練り粕」で、さらに旨み成分が増え、味が濃くなり、なら漬や、わさび漬け、かす漬けなどに利用される。一方で、みりんのもろみから絞ったものを味醂粕(みりんかす)といい、もち米を含んでいて甘味があるのでお菓子として食べられる事もある。別名「こぼれ梅」。

風味

香りや味わいのこと。食材そのものが持っている香りや味わいそのもの、あるいは調理することで食材本来の持ち味を引き出し、さらに食材に火を入れたり、味を加えたり、組み合わせることなどによって香りと味わいが一体となった料理の美味しさの要素のこと。

五味と旨味

食物のうまい味。うまい度合いやおいしさのこと。または鰹節・昆布・椎茸などでとった出汁の味のことを指し、明治41年、昆布の出汁からグルタミン酸を抽出してこの味の主成分である事が発見された。もともと味覚は、甘味、酸味、塩味,苦みの4つとされていたが、それに5つめの味覚として名付けられた。

浅漬け

胡瓜、大根、茄子などの野菜を調味液に短時間漬けた漬物のこと。即席漬け、一夜漬け、お新香(おしんこ)などとも呼ばれる。また、調理法として酢漬けや糠漬けなどの漬物を短時間で引き上げたものを浅漬けと言う場合もある。

コラム 旬ばなし

野菜の糠漬けの場合、夏の胡瓜(キュウリ)や茄子(ナス)、秋から冬の蕪(カブ)や大根が代表的。また西京漬けや粕漬けは旬の魚介を用いるが、粕漬けが主流の関東では秋から冬にかけての銀鱈(ギンダラ)や鮭、春の鯛など、西京漬けが多い関西では春から夏にかけての真魚鰹(マナガツオ)などが代表的。

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乾

乾 魳(カマス)の干物の干物

乾

「乾燥させる(干す)」という調理法は素材の水分を抜くことで長く保存できるようにするほか、旨味が凝縮する効果もある。特に天日干しだと旨味成分が増えるものが多い。魚の干物のほか、切り干し大根や干し椎茸、干し柿、高野豆腐など、野菜や果物、加工品などにも広く使われる調理法で、天日干しや風干のように自然乾燥させるほか、灰干し(魚を灰につけて水分を抜く調理法)や、味醂干しのようにタレを漬けて乾燥させるものもある。なお、一般的には魚を干したものを干物、野菜などを干したものを乾物と呼ぶ。

代表的な料理

魳(カマス)の干物

干物は通年で回っているが、乾燥した風が吹く秋が最も美味しい季節。鯵(アジ)の開きが代表的だが、魳(カマス)や柳鰈(ヤナギガレイ)、キチジ(キンキ)などが干物の最上とされる。この時季の魳は脂も程よくのり、天日干しにすることで旨味が高まり、味が深い。

甘鯛(アマダイ)の干物

甘鯛は主に西日本で水揚げされる高級魚。「尼鯛」とも書き、またの名を「グジ」と呼ばれる。開いて天日干しにするのが一般的で、特に若狭湾で獲れた甘鯛を一塩(軽く塩をふること)で一夜干しにする「若狭ぐじ」が有名。

くさやの干物

くさやは新島、大島、八丈島などの伊豆諸島で新鮮な青むろ、むろあじ、トビウオなどから作られる肴の干物の一種で、見た目は普通の干物と変わらないが、独特の臭気と風味を持ち主に関東地方では酒の肴として重宝される。江戸時代、伊豆諸島では天領として塩年貢が課せられており、魚を塩干魚にする際も、塩は貴重品であったため、同じものを繰り返し使っていたため、魚の成分が解け出た塩水は微生物の作用を受け独特の臭気を放つようになったといわれる。これを「くさや汁」と呼び、島によって異なるが、100年以上繰り返し使用されているものが多い。

和食の用語

開き(ひらき)

開き(ひらき)とは、魚のおろし方のこと。一般的な魚のおろし方は腹から開く「腹開き」(はらびらき)だが、魚の干物を作る際は背の方から包丁を入れ、腹をつけて開く「背開き」(せびらき)を用いる。

天日干し(てんぴぼし)

天日干し(てんぴぼし)とは、日光を使って水分を飛ばす目的で行なわれる干し方の一種の方法。もっとも自然な保存食の作り方だが、現代では干物を大量生産する際には乾燥時間の短縮などの目的で機械による乾燥が使われるため、天日干しがされないことも多い。

風干し(かぜぼし)

風干し(かざぼし)とは、日光のあたらない陰で、水分を飛ばす目的で風にあて行われる干し方の方法。一方、「一夜干し」(いちやぼし)は、塩をふった魚を一晩風に当てて干したもののことを呼ぶ。

味醂干し(みりんぼし)

味醂干し(みりんぼし)とは、開いた魚を醤油や砂糖、みりんなどを合わせたタレに漬け込んで味付けし、乾燥させた干し方のこと。

丸干しと煮干し(まるぼしとにぼし)

魚を開かず、丸のままの姿で天日干しや機械乾燥などで乾燥させた食材のこと。鰯(イワシ)や秋刀魚(サンマ)およびそれらの稚魚、烏賊(イカ)、小鯵(コアジ)、鰈(カレイ)、梭魚(カマス)など比較的小型の魚が適し、乾燥によって保存性や食味を増減するために多く使われている加工法でもある。内蔵に含まれる栄養分をほぼそのまま摂取することができる。

コラム 旬ばなし

初夏の鮎の一夜干し、夏の鱚(キス)の風乾し、夏から秋の鯵の開き、秋から冬の甘鯛の一夜干し(「若狭ぐじ」が有名)、金目鯛(キンメダイ)やキチジ(キンキ)の開きなどが代表的だが、秋の魳(カマス)が干物の最上とする向きも多い。

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松田龍太郎

和食のいろは 監修

松田龍太郎

1977年生まれ。青森県弘前市出身 慶応義塾大学環境情報学部卒業後、日本放送協会に入局。
報道カメラマンとして、全国各地の事件事故、災害など日々のニュースの現場をはじめ、紀行番組の撮影に従事。
その後、2007年企画・プロデュ−ス業に転身。2010年より株式会社オアゾ代表を務める。
積極的に女性クリエイターを活用し、特に食にまつわる事業・店舗開発、PRコンテンツ制作を得意とする。