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第九回 癒し×和食文化[前編] 甘味は古来、憧れの味。茶道とともに進化した和菓子は大切な文化

日常の癒しの甘味、お茶受けとしても愛されている和菓子は、室町時代から広まった茶の湯とともに進化してきました。そこには日本ならではの文化と技、季節感が盛り込まれています。

和菓子は京都と江戸が競い合って進化してきました。特に京都は茶の湯文化とともに和菓子文化の中心でもあります。和菓子のルーツやそこで表現する季節感などについて、有職菓子御調進所「老松」のご主人、そして茶人の大田達さんに伺いました。

和菓子の歴史

室町時代以降、京都と江戸が競って進化しました。

 古代の菓子は、天然の果物や木の実など「果子」でした。その後、穀物でつくった餅・団子や甘葛煎を煮詰めた甘味が生まれたと伝えられます。時代が進み遣唐使が大陸に渡るようになると、「唐菓子」が日本に渡来し、粉をこねて油で揚げるなどの製法が伝わりましたが、その多くは祭神用だったようです。その後、茶が伝わって喫茶の習慣が発達します。
 室町時代以降は茶の湯が広まり、抹茶を飲むための菓子がつくられます。江戸時代には、京都を中心とした「京菓子」と江戸を中心とした「上菓子」が競い合うことで菓子の製造技術は大きく発展し、現代の和菓子とそれほど変わらない優れた菓子が生み出されたのです。

茶とともに発展をとげた和菓子

「茶店」から「茶会」へ。和菓子文化が昇華しました。

菓子とお茶の密接な関係が始まったのは、茶店が起源ではないかと思われます。紀貫之が土佐国から京都へ帰ってきたときに、大山崎の茶店でお茶と揚げ菓子(唐菓子)を食したという記載があります。茶店ができると人が集まる。だから神社などの参道には茶店ができたのです。女性が茶をふるまう店が起源とされる京都の花街、上七軒や祇園甲部の紋が団子なのは、元は茶店だったということの表れでしょう。

 一方で、「喫茶往来」(室町時代)などにも記されるように、茶会の中でお茶を点て、羊羹や饅頭とともに楽しむ茶の湯の文化が生まれます。千利休は、道具、料理、茶室などさまざまな部分に工夫を凝らし、侘びの美と心を体現する場としての「茶会」を提唱しました。その中で、菓子も客をもてなすもののひとつとして、それぞれの「茶事」のテーマに合わせ、和歌や物語、季節の風物などを題材としてつくられ、風雅を極めてきたのです。

季節を表す和菓子

自然の色や様子を職人の感性で表現します。

菓子の銘は和歌からとることが多いと言われます。和歌には季節感が盛り込まれているからです。けれど、和歌が表現する夕日や花など自然の様子を表現するのは非常に難しい。川沿いの柳も春先と夏ではまったく色や風情が違います。

桜も咲き始めと散り際では花の形や葉とのコントラストが変わる。和菓子は、そんな自然の色や様子を細かに表現しなければならないもの。和菓子の色や形にはレシピはありません。それぞれの職人が自分が感じる風物の色や形をそこに表現するのです。

季節の和菓子

春夏秋冬、それぞれの例をご紹介します。

春の菓子:草の春(くさのはる)

陽だまりの土手に蓬の新芽が芽吹く3月初旬、その芽を摘んで茹で、上新粉をこねて蒸したものと混ぜ、餡を包みます。蓬の緑と香りが、豊かな野趣を感じさせてくれるお菓子です。

夏の和菓子:星合(ほしあい)

きれいなブルーのういろう餅で、漉し餡と白餡を合わせたグレーの餡を包み夜の空を表現しています。織姫と牽牛の物語を題材に、金箔を天の川に見立てて散らしたお菓子。7月初旬店に並びます。

秋の和菓子:錦秋(きんしゅう)

きんとんは、唐菓子の「こんとん」から来たものといわれます。餡をそぼろ状にして毬栗や粉雪などに見立てるのです。この菓子は、黄色から赤へと色合いが変わる秋の山を表した11月の菓子です。

冬の和菓子:木枯らし(こがらし)

粒餡を、自然薯とそば粉を用いた皮で包み蒸しあげた蕎麦薯蕷(じょうよ)。寒い冬の茶席では、蒸かして蓋物の器に盛り、あたたかな状態でだされます。蓋を開けた途端にあがる湯気が何よりのもてなしです。

茶の湯とともに発展してきた和菓子は、先人の知恵と工夫、そして四季に恵まれた日本の自然や風景が盛り込まれています。ただの甘味ではなく、見た目に美しく、それぞれに意味を持たせた、奥深い和食文化なのです。

プロフィール

有職菓子御調進所「老松」主人・茶人 大田達(おおた・とおる)

明治42年創業、朝廷に献上する有職菓子や茶席菓子を手がける傍ら、自然素材の風味をそのまま生かした数々の銘菓を生み出してきた「老松」主人。工学博士、同志社大学特別講師、立命館大学国際関係学部非常勤講師も務める。江戸時代の学問所址である「有斐斎弘道館」において、茶文化をはじめとする各種講座を開く。国内はもとより海外でも話題になる茶会を数多く開くなど日本文化の普及に努める。

店舗情報

有職菓子御調進所「老松」

京都市上京区北野上七軒
TEL 075-463-3050
営業時間/8:30~18:00
定休日/不定休
●夏蜜柑を丸ごと使った「夏柑糖」、れんこんの澱粉を寒天で固めた「蓮根餅」なども有名。菓子教室も開催。

撮影/大道雪代 構成/中井 忍

松田龍太郎

癒し×和食文化[前編] 監修

監修者編集後記

季節感や美しさ、ひとつの完成された世界観をもち、その一口にたどりつく、味覚の旅が和菓子の境地です。
その時間をどのように過ごすか、味わうかといった一瞬の演出こそが、茶道にも通じる、「癒し」の境地だと思います。
この遊びの極致こそ、いま日本人が伝承すべき、癒しのエッセンスだと思います。
この週末、ぜひ和菓子を嗜んでみてください。

松田 龍太郎

1977年生まれ。青森県弘前市出身 慶応義塾大学環境情報学部卒業後、日本放送協会に入局。報道カメラマンとして、全国各地の事件事故、災害など日々のニュースの現場をはじめ、紀行番組の撮影に従事。
その後、2007年企画・プロデュ−ス業に転身。2010年より株式会社オアゾ代表を務める。
積極的に女性クリエイターを活用し、特に食にまつわる事業・店舗開発、PRコンテンツ制作を得意とする。