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第八回 スタンダード×和食文化[後編] コンニャクも簡単につかめる江戸八角箸伝統の職人技は和食文化の粋の象徴です。

ご飯も料理も汁物も食べられるお箸は世界に誇る和食文化の道具です。三百年以上続く伝統の江戸八角箸は、シンプルながら見た目にも美しく、どんなものでも簡単につかめてしまう、職人の伝統技が光る逸品です。

江戸八角箸はその名の通り、八角形となっています。持ちやすいだけでなく、すべりやすいものやこまかいものもつかみやすい優れものです。東京・月島で300年以上続き、今尚「漆芸中島(うるしげいなかじま)」の十一代目、中島泰英さんにお話を伺いました。

300年以上の伝統、江戸八角箸とは?

紫檀や黒檀を用いますが、今ある分でおしまいです。

 江戸八角箸の起源は江戸時代にさかのぼります。天下泰平の世の中、武士たちが生計の足しにするべく、竹箸をつくったのが始まりとされています。その後、素材は木に代わり、今は黒檀や紫檀などを用いてつくっています。四角の角を丁寧にカンナで削って八角にするため、持ちやすく、先端まで八角の角があり、豆やこんにゃく、豆腐、蕎麦などもつまみやすいつくりになっています。

「紫檀、黒檀、青黒檀なんかの真ん中のいいところだけを使っていますからね、使いやすいし長持ちしますよ。ただね、もう輸入禁止になってしまっているから、今ある材料がなくなったらつくれなくなっちゃうんですよ。だから後継者もいないし、自分で終わりですよ」と中島さん。

江戸八角箸は丁寧にカンナで削ってつくります。

四角い木材を削って八角にします。

実際に江戸八角箸をつくるところを見せてもらいました。
黒檀などの材料は、四角い棒のような状態になっています。

これを一本ずつ見て、傷がついていたり、曲がっているものは取り除きます。まっすぐでいい状態のものだけを溝のついた台にはめこみ、角が表に出るようにして、角を「立ちカンナ」と呼ばれる特別なカンナで丁寧に削っていきます。

見ていると、シュッシュッと簡単に削っているようですが、硬い黒檀などをスムーズに削るには長年の経験が必要だそう。「いい材料だとシュッ!っといい音がするんですが、ちょっと木目が曲がっていたりクセがあるといい音がしない。音でわかりますよ」と中島さん。
こうして角を削った後、何種類ものヤスリをかけて仕上げをします。

「ヤスリをかけるところは勘弁してよ。ここが職人の腕の見せ所、神経を使うところなんだ。企業秘密だよ」と中島さんは笑顔を見せていました。

こうして仕上げられた江戸八角箸は、素朴ながら上品な輝きを放ちます。実際手に取ると、しっくり馴染むことに驚きます。一般に売られている箸より若干長めになっており、その絶妙なバランスも持ちやすさ、使いやすさの秘密のようです。

「そこにコンニャクがあるからつかんでみてよ」と中島さんに薦められ、やってみると、コンニャクの角をちょっとつまんだだけで持ち上がることにびっくり。
「なんでこんな風につかめるのですか?」と聞くと、「わかんないよ。でも使いやすいだろ」。

理屈よりも伝統の技で優れたものをつくり続けているのです。
そして、江戸八角箸を買って長年使った人がメンテナンスを依頼してくることもあるといいます。「そういうときは、きちんと削り直してまたしっかり使えるようにしてあげます。八角箸は一生物ですよ」と中島さんは胸を張っていました。

江戸八角箸は貴重な素材を手作業で仕上げているだけに、他の箸と比べると高価です。しかし、この持ちやすさ、使いやすさはそれだけの価値がありますし、中島さんが言うように一生物です。結婚祝いなどに利用する人も多いようです。大切に使うことで、箸使いや食事の仕方も丁寧になる効果もあるといいます。そうした意味でも、やはり箸は和食文化に欠かせない大切な道具だといえるでしょう。

プロフィール

漆芸中島 第十一代目・職人 伝統工芸士 中島泰英(なかじま・やすひで)

1943年東京都生まれ。希少な銘木を使った、江戸八角箸の製造で知られている。
中学卒業後、築地にある山形屋で漆芸を学ぶ。
18際で家業の「漆芸中島」に戻り、以後漆塗りの椀や江戸八角箸、漆塗り家具などの製造に従事する。
81年、一級漆器製造技能士取得。86年には東京都知事賞を、96年には優秀技能賞を授賞した。
分業を前提とする伝統工芸だが中島は蒔絵や螺鈿細工までもひとりで行なっている。現在は箸作りがメインとなっているが、漆椀や和家具の制作・修復も可能。漆芸で多数授賞。

店舗情報

漆芸中島

東京都中央区佃1-4-12
TEL 03-3531-6868
営業時間/10:00~18:00
定休日/不定休
●江戸八角箸は素材や長さによって値段が異なり、2700円〜2万7000円程度。箸のほか漆の椀なども製造販売している。

撮影/宮地 工

松田龍太郎

スタンダード×和食文化[後編] 監修

監修者編集後記

お箸は日本人が一番よく使う道具です。古くから日本人の手先が器用なのは、お箸を使うからだといわれております。
あらゆるジャンルにて、日本人のきめ細やかな器用さが際立つことが多いのですが、箸を使うことで、すべての道具を器用に使いこなす基本になっている。
そうした象徴の箸作りを生業にする漆芸中島の手業は、まさに日本人の原点、スタンダードといえるでしょう。

松田 龍太郎

1977年生まれ。青森県弘前市出身 慶応義塾大学環境情報学部卒業後、日本放送協会に入局。報道カメラマンとして、全国各地の事件事故、災害など日々のニュースの現場をはじめ、紀行番組の撮影に従事。
その後、2007年企画・プロデュ−ス業に転身。2010年より株式会社オアゾ代表を務める。
積極的に女性クリエイターを活用し、特に食にまつわる事業・店舗開発、PRコンテンツ制作を得意とする。