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テオドル・C・ベスタ―氏テオドル・C・ベスタ―氏 ©2016 松竹

ハーバード大学社会文化人類学教授

テオドル・C・ベスタ―氏

映画冒頭、築地を長年研究してきたテオドル氏のこんな言葉から始まる。「世界中の魚市場に行ったけれど、築地のような場所は見たことがない」「とにかく強烈だ。その強烈さは情熱から来るのか、これほどの長い歴史と豊かな伝統を誇る場所はない」彼の言葉は、このあと繰り広げられる「築地ワンダーランド」の世界へと導いていく。

映画では、まだ夜が明けないうちから場内をたくさんのターレット(運搬車)が行き交い、せわしなく働く仲卸の姿が捉えられるが、「築地の人々は本当に働き者だ。でも毎日の仕事を楽しんでいるように見える。朝はとても早いし、寒いし、濡れる。うまくいく日もあればそうでない日もある。でも職場としてはエキサイティングだ。一般の人よりも刺激的な毎日を過ごしている。心から仕事を楽しんでいる。美味しい食事の数々は築地の人々によって支えられている。彼らは質の高い海産物を確保し、東京、そして世界へ供給している。築地は“日本の古き良き労働観” を今も失わず体現し続けている場所であると思う。“全力を尽くせ” という仕事に対する情熱と志が築地を特別な場所にしている」映画では、そんな情熱的な築地の姿を、人々を通して描き出していく。

築地ならではの、迫力ある鮪の競りの様子を、彼はこのように表現している。「まるでポーカーをしている人々を見ているような気がする。すごく欲しい魚があったとする。それに対して騒いだりしてはいけない」と、黙ったまま指ひとつで競り落とすジェスチャーをして見せる。
「情報は毎日変わる。何が起きているのか誰が魚を釣ったのか、毎日ニュースを気仙沼から仕入れなければならない。同時に地中海からも仕入れなければならない。今日はどんな勝負をしよう?今日は何を狙おう?ルーティンワークではない。自ら積極的に考えて素早く判断しなければならない。それを仕事の醍醐味として楽しんでいる」と、築地の情熱を支える仲卸を語る。

後半には著書『築地』について触れている場面があり、場内を歩きながら15 年に及んだ取材を振り返る。顔馴染みの仲卸たちと挨拶を交わしているが、研究についてこんな風にも振り返っている。「友人にも恵まれたくさんの人が(研究を)助けてくれた。魚やビジネス、築地の歴史について学ぶ塾のような(中略)すばらしい体験だった」と。

活気あふれる朝の時間が終わり、静まり返った場内が見られるのも印象的だ。独特の建築についても、言及している。「 歩いていると閑散とした市場にいるのは猫だけ。 猫の足音だけが聞こえる」「築地市場の建築も息を呑むような美しさだ。世界的に見ても一流で当時の最先端をいく近代建築のひとつだった」初めて拾得物掲示板を発見したときのエピソードも面白い。
「小銭入れや現金を落としてもこの市場では誰もくすねることなく届ける。人々がいかに誠実なのかとても興味深い」と、驚きと感動を言葉にしている。

山本益博氏山本益博氏 ©2016 松竹

料理評論家

山本益博氏

浅草の老舗寿司店の先代に連れられて、40年以上前に初めて築地を訪れたという山本益博氏は、築地についてこう語るのが印象的だ。「世界一ではなく、世界唯一です。ベスト1 というと2 位、3 位があるけれど、オンリーワンです。築地に匹敵する魚市場は世界中どこにもないと断言できます」「日本人は魚に対するリスペクトが基本的にある。生で魚を食べることがいかに大事かというベースの上に築地は成り立っている。商品知識があるだけでなく、食べ頃まで全部熟知しているプロがいる世界唯一の場所」

仲卸の役割について、「魚というのは釣るプロフェッショナルがいて、運んでくるプロフェッショナルがいて、見分けるプロフェッショナルがいて、初めて調理するプロフェッショナルが存在する。仲卸が、“いいお店にはこういうものを卸してあげよう” とか、“これはお渡ししてはいけない” とか、選別してくれるから私たちは本当に美味しい魚をいただくことができる」と、説明する。

さらに、東京と関西の違いについても話している。「関西はデパートのようなもので、向こうは総合職。煮炊きが両方できなければならない。煮炊きは“割烹”という字で示されるように、割は包丁、烹は鍋を意味し、煮炊きするという総合芸術に対し、東京はブティック。お寿司屋さんは何十年もお寿司だけ、天ぷら屋さんは天ぷらだけと、ひとつのものを深めていく専門職です。総合職のほうは料理人と言い、専門職は職人と言う。その職人を育て上げた食文化の礎が築地であり、ひとつのものを極めていくためには最高のものが揃っていなければ納得しない職人さんがたくさんいる」

犬養裕美子氏犬養裕美子氏 ©2016 松竹

レストランジャーナリスト

犬養裕美子氏

築地について、「魚の集積所でありつつ、魚を含めた情報がすべて集まってくる場所。歩いていると四季を感じられる。それが日本料理の一番の特徴でもあるし、築地の中にいち早く入ってくる」と語る。

日本の魚の取り扱いのこまやかさについて、「今までは輸送技術という流通の部分で魚の値段が付いたりしたけど、今度は一歩手前で魚を傷めないやり方で引き上げる。そして獲った魚に対して神経を抜き活き締めをする。そうやってどんどん手をかけてあげることで、私たちの口に入る前にいろいろな人の手を介在して美味しくなってくる」という。築地の仲卸の技のひとつ、神経抜きもその一例だ。『熟成』とは「昔は保存なのか熟成なのかわからないところで同時に進んでいる状態だったけれど、今はあえて意図して、意識の高い人たちや関心のある人たちの間で行われている」だと解説している。

服部幸應氏服部幸應氏 ©2016 松竹

服部栄養専門学校 校長

服部幸應氏

仲卸の役割について、「仲卸が選ぶ能力を持っているというのは培ってきた知恵であり、人に負けないという意地がある」という服部氏。未公開インタビューの中ではこんな言葉も。「築地が果たしてきたのは質の高さを保とうということ。あれだけお店の数が多いということは競い合いなのです。これがすごい」「老舗という言葉があるけど、本来は仕事を似せると書く。伝承しているということなのです」

岩村暢子氏岩村暢子氏 ©2016 松竹

食と現代家族研究家

岩村暢子氏

映画後半では、魚離れが進み、街の魚屋たちが将来を危惧する場面や、子供たちの味覚の変化についても触れられる場面がある。また、岩村氏は子供たちの味覚の変化についてこう話す。
「医科歯科大学の調査で甘い、酸っぱい、しょっぱい、苦いという4 つの大きな味覚について一つでも感じ取ることができない子供さんが3 割以上になったという結果が出ました。1960 年を食のインスタント元年と言うのですが、食べることに手間暇をかけるのなら別のことに時間をかけなさいと。それを生活の高度化と言って、私たちはそれを推進してきたわけです。その中で育ってきた人たちが今親世代の大半を占めておりますから、今“食べることをおろそかにしてレジャーばかりしているね” と言うけれど、もしかしたら戦後の方策の思った通りになっているかもしれないと、私は懸念を持っております」未来につなげていきたい魚食文化と、食育についても考えさせられるメッセージだ。

料理人やジャーリストたちが外部から築地をどう見ているのか、興味深い“生の言葉” を二回にわたってピックアップしましたが、次回はいよいよ内部で働く人々の証言から、モチベーションや意気込みなどを紹介し、「築地ワンダーランド」の核心部分に迫ります。

TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)
『TSUKIJI WONDERLAND( 築地ワンダーランド)』

好評発売中
ブルーレイ(2枚組):6,300 円+税
DVD(2枚組):5,400 円+税
発売・販売元:松竹
©2016 松竹
映画公式サイト http://tsukiji-wonderland.jp

【海外映画祭状況】

  • サンセバスチャン国際映画祭 キュリナリー・シネマ部門正式出品 クロージング作品(2016.9)
  • シアトル国際映画祭 キュリナリー・シネマ部門正式出品(2016.5)
  • モントリオール世界映画祭 ドキュメンタリー部門正式出品(2016.8-9)
  • レインダンス国際映画祭(英ロンドン)ドキュメンタリー部門正式出品(2016.9-10)
  • ベイルート国際映画祭(レバノン) Culinary/Environment 部門正式出品(2016.10)
  • 高雄映画祭(台湾)Food Feast 部門正式出品(2016.10)
  • ハワイ国際映画祭 Eat. Drink. Film. 部門正式出品(2016.11)
  • トロントリール アジア国際映画祭 ドキュメンタリー部門正式出品(2016.11)