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ハインツベック的「和食材」の新しい楽しみ方ジュゼッペ和食の冒険

ハインツベック的「和食材」の新しい楽しみ方ジュゼッペ和食の冒険

バール……ではなく江戸味噌カウンターにて味噌をテイスティングするジュゼッペシェフ。
「江戸味噌はとても洗練された味わいですね」(ジュゼッペ)。

いま、もてはやされている発酵食品のひとつなのに、味噌はそれほど取り上げられませんよね? ラーメンだって、醤油や豚骨、塩に比べると味噌味は人気が低いのも事実。
ましてや伝統食の味噌汁も、毎日食べる人はかなり減りました。「塩分が多いんでしょ?」とか「田舎くさいよね」と言われがちな味噌を、今回、ジュゼッペは洗練させてくれます!

ジュゼッペ・モラーロ
ジュゼッペ・モラーロ
『ハインツ ベック』エグゼクティブシェフ。1986年、伊・カンパーニャ州ナポリ生まれ。幼い頃から父が経営する店の厨房に出入りし、自然に料理人を目指す。
ハインツ・ベック氏(写真左)プロデュースの『Gusto by Heinz Beck』(ポルトガル・アルガルベ)『Café Les Paillotes』(イタリア・ペスカーラ)『La Pergola』(イタリア・ローマ)を経て、2014年、東京の『ハインツ ベック』オープンに伴い来日。同店は「ガンベロロッソ・イタリアンレストランガイド・インターナショナル版2017」で最高評価のトレ・フォルケッティ(3フォーク)を獲得。

「江戸味噌」は江戸で生まれた味噌。あらゆる料理に使われていました。当時、味噌は家で造るのが普通でしたが、味噌造りのスペースを確保するのが難しい江戸の住宅事情から、味噌屋で味噌を買うことが一般的に。江戸には170軒もの味噌屋があったそうで、人々は毎日使う分だけ購入しました。
蒸した大豆に米麹をたっぷりと使い、塩は少なめ、保存性は低いけれどフレッシュで贅沢な味わいは、まさに江戸っ子好み。醤油が普及していなかった時代、味噌が江戸の味だったのです。
戦前まで東京の中心的な味噌でしたが、ほかの味噌の倍近い米を使うことから戦時下、贅沢品とされ製造禁止に。その後、忘れられていた江戸味噌が、古い文献をもとに一昨年復刻に成功。
昭和17年以来、実に73年ぶりの復活です。江戸味噌製造の大きな特徴はふたつ。①「留釜」という大豆の蒸し方。②高温の状態で味噌を熟成させる「熱仕込み」。どちらも雑菌の繁殖を抑えつつ、低塩で米の多い味噌を造る江戸の伝統技法です。江戸で愛された味噌は現代の東京で新鮮に感じられます。

今回の見学先はこちらです

東京江戸味噌 広尾本店

復刻させた江戸味噌を普及させ新たな味噌文化を発信

東京江戸味噌 広尾本店

東京都渋谷区広尾5-1-30 ☎03-3447-4130
営業:11:00〜17:00 土・日・祝日休

❶4種類の味噌はすべて量り売り。ラベルの数字は2桁ずつ左から麹歩合、熟成期間(月)を表し、アルファベットはS=Steam(蒸し)、B=Boil(茹で)を表しています。❷「ここは何のお店?」と思わず覗き込む人も多いという、清潔感のあるモダンなデザインのショップ。❸右からショップスタッフの難波ひとみさん、(株)日出味噌醸造元・代表取締役社長 河村浩之さんと奥様。❹江戸時代の味噌店の看板を再現。モダンな雰囲気。

【東京江戸味噌】
ラインナップを試食しました
カツオ節試食は、日本橋「八木長本店」のカツオ節をたっぷり使った出汁に溶いて。
香り、味わい、色の違いを確認できます。
江戸味噌
江戸味噌

「とても旨みが強い。優しく洗練された味わい。使いやすいかも……」

ほどよい塩加減と甘さ、味噌臭さのないフレッシュな味わい。ジャンルを問わずさまざまな料理に使える味噌。麹歩合:11歩、塩分:9%、熟成期間:2週間、100g/¥400

ジュゼッペ・モラーロ
江戸甘味噌
江戸甘味噌

「味噌の特徴のひとつである甘みがしっかりと感じられますね」

米麹が江戸味噌の約2倍で塩分は約半分。江戸味噌の中でも甘味噌に相当、こってりした甘さが特徴。麹歩合:20歩、塩分:5%、熟成期間:2週間、100g/¥400

ジュゼッペ・モラーロ
仙台味噌
仙台味噌

「僕の知っている味噌に近い。はっきりとした熟成感と風味がいいね」

江戸の藩邸廃止の際、仙台藩邸内の醸造所が独立。戦前は江戸味噌と人気を二分。長期熟成型の味噌。麹歩合:7歩、塩分:14%、熟成期間:6〜8カ月、100g/¥200

ジュゼッペ・モラーロ
田舎味噌
田舎味噌

「味は濃いけれどシャープで後味に軽やかさを感じる」

江戸味噌と並ぶ江戸の中心的味噌のひとつ。関東周辺で造られていたことが名前の由来。麦味噌。麹歩合:9歩、塩分:12%、熟成期間:12カ月、100g/¥300

ジュゼッペ・モラーロ

イタリアにはこういう発酵食品はないけれど、味噌は意外とわかりやすい食材ね

豆

イタリア人は豆をよく食べますが、
特にトスカーナの人は「豆食い」と
言われるほど豆好き。

ライターS(以下、S)味噌のことは以前からご存じでしたか?

ジュゼッペ(以下、G)もちろん。ハインツ・ベックシェフから聞いて知っていたし、スペインのフュージョン料理の店で味噌を使った料理を見たことはあるけれど、味噌そのものを見て、味わったのは日本に来てから。

Sそれは味噌汁ですか?

G最初はそうですね。日本食の店でも鮨屋でも最後に味噌汁が出てくるのにはちょっと驚きましたね。

編集K(以下、K)食事の最後に飲むと胃が落ち着く感じがするんですよね。日本の朝食の定番的な一品でもあります。

G日本人は毎日のように味噌汁をはじめ、何かしら味噌を使った料理を食べているんですね。それも驚きでした。日本人にとっての味噌汁は、イタリア人にとってのエスプレッソみたいなものなのかな……。

ちょっとオタクな味噌の豆知識
江戸の蕎麦屋では蕎麦つゆは味噌で作られていた!
醤油が庶民に浸透する江戸時代末期頃までは、蕎麦つゆは味噌で作られていました。味噌を水で溶いて布で漉し、それに酒とカツオ節を加えて煮て布で漉したもの。現在のつゆに近い味わいとか。そして、最初に漉した味噌の滓は焼き味噌にして供されました。蕎麦屋の定番的なつまみとして焼き味噌がある理由。
「味噌」にまつわる慣用句
料理に欠かせない味噌は慣用句も多数。「手前味噌」は自慢の意。家庭で味噌を造るのが普通だったことがわかります。「味噌がつく」は失敗して評価を下げるの意。古くは火傷の特効薬だった味噌。「味噌をつける」→火傷をした→不注意やミス。「下駄に焼き味噌」は似ているが全く違うものの意。
昔の人は知っていた……味噌と健康について
「味噌汁は朝の毒消し」。朝食の味噌汁は体にいいということわざです。大豆は発酵することでアミノ酸(必須アミノ酸8種類すべて含む)やビタミン類が多量に生成され、大豆に含まれる良質なタンパク質もより消化吸収しやすくなります。味噌はがんや生活習慣病のリスクを下げる、老化防止……等々、味噌と健康についての研究も進んでいます。
味噌

マサさん(『ラ・ペルゴラ』でジュゼッペと一緒だった菱田雅己さん。現在『ハインツ ベック』のスーシェフ。以下、M)今回のテーマが味噌と聞いてまず、まかないで味噌を使ってみたのですが、スタッフの出身地はさまざまなので、それぞれ自分のところの味噌が一番! といって譲らない(笑)。だから厨房には白味噌、赤味噌、八丁味噌……いろんな味噌が揃いました。総じて、ジュゼッペは苦手みたいでしたけれどもね。

Gそう……ちょっと苦手かな。いろいろあって味もぜんぜん違うので戸惑いましたが、独特の甘みがポイントだね。一昨年開催された「ミラノ万博」の日本館で味噌が紹介されて話題になっていましたよ。

Mその後、“味噌カルボナーラ”なるものを出していた店もありましたっけ。チーズと味噌の甘みは合いますけどね。

K“味噌カルボナーラ”……ちょっと気になります。イタリアには味噌のような発酵食品はありますか? 味噌は大豆ですが、イタリアでは豆をよく食べますよね。

G保存のためのオイル漬け、酢漬けはありますが発酵食品は一般的ではありませんね。確かにヒヨコ豆、レンズ豆など豆類はボイルしたり、粉にして焼いたり、よく食べますがそれぞれの豆にそれぞれの料理法がある。大豆のように1種類の豆をさまざまに加工するということは考えられません。

Sイタリアにも魚醤がありますよね。先日、鶏のローストのガルムソース添えというのを食べました。ガルムは魚醤?

Gああ、コッラトゥーラですね! カタクチイワシを塩漬けして造る調味料。パスタや肉料理以外の料理に使います。南イタリアの調味料ですが、僕はあまり使いません。ガルムはその元祖だと思います。

K日本人は自慢のような話をする前にまず「手前味噌ですが」と言うのですが、イタリアにはそういう言葉はある?

Gそもそもイタリア人はとっても謙虚だから(笑)、自慢話なんてしないので、そういう言葉もありません。

Mじゃあ謙虚に、今日もみんなの自慢の味噌を使ったまかないにしますか(笑)。

Gそれはちょっと……。

チアシードを纏ったフォアグラ、ほどよく焦がした玉ネギ、ニンジンとレモンバーベナ、仙台味噌のスープ
河村さんご夫妻
【東京江戸味噌】の河村さんご夫妻も試食しました。「まず仄かに味噌が香り、フォアグラにも味噌の旨みをしっかりと感じます。日本人にはない発想とプロの技で仕上げられた見事な一皿に感激しました」。
和の食材で新しいイタリア料理

庶民的なイメージだった味噌
高級食材を華やかに引き立てます

チアシードを纏ったフォアグラ、
ほどよく焦がした玉ネギ、
ニンジンとレモンバーベナ、
仙台味噌のスープ

味噌の旨みや甘み、仄かな塩分が、濃厚なフォアグラの美味しさを引き立てます。揚げたチアシードのサクッとした食感も心地よく、ニンジンやレモンバーベナの甘みや爽やかな香り、ほどよく焦がした玉ネギの香ばしさも絶妙のアクセントに。味噌は見えないけれど「味噌を感じる」美しい一皿です。

*このメニューは10月11日まで、丸の内の【ハインツ ベック】で実際に食べることができます(3日前までの予約が必要)。
◎ハインツ ベック/東京都千代田区丸の内1-1-3 日本生命丸の内ガーデンタワーM2F(入口は1F)11:00〜15:00(L.O.13:30)、17:30〜23:00(L.O.20:00)日休

ジュゼッペ和食の冒険
ジュゼッペ・モラーロ

「“日本の食材をリスペクトしなさい。でも、飲み込まれてはいけない。ハインツ ベックのスタイルを崩してはいけない”。これはシェフ、ハインツ・ベックから常に言われていること。
今回も味噌味ではなく、味噌を隠して“味噌を感じる”料理を目指しました。江戸味噌はとても洗練された味わいで甘みがはっきり感じられたので使いやすかったですね。この都会的な味噌が江戸時代の味噌の復刻という事実にはとても驚きました。
味噌とチーズが好相性なのはよく知られているので敢えて使わず、選んだ食材がフォアグラ。ブランデーで溶いて、和食とはひと味違う味噌漬けに。ニンジンジュースの自然な甘さで味噌の甘みを補い、たっぷりのチアシードでサクッとした食感を、レモンバーベナでフレッシュ感をプラス。
新しい料理を考えるとき、最初に全体像をイメージするのではなく、料理しながら足りないものをみつけて、それをどんなふうに取り入れるかを考えていくやり方。塩は使わず、味噌の塩分のみ。味噌は見えないけれど、さまざまな瞬間に、ふっと味噌を感じるはずです」

撮影/福知彰子 取材・文・イラスト/齊藤素子 構成/川原田朝雄

HERS 2017年10月号より