site_logo

光文社厳選!和食情報ナビ

hers

ハインツベック的「和食材」の新しい楽しみ方ジュゼッペ和食の冒険

ハインツベック的「和食材」の新しい楽しみ方ジュゼッペ和食の冒険

ずらりと並んだ「五代庵」の梅干。しばし眺めた後で味見……と、思いきやまずは香りから。「……香りにもそれぞれ特徴がありますね。どれもとてもいい香りです」
(ジュゼッペ)

暑い夏を健やかに乗り切ろう……ということで今回は梅干を取り上げます。5月に日本人女性と入籍したばかりのジュゼッペ。今回は義祖父手作りの梅干との出合いがなければ挫折していたかも……。
そして、個性の強い梅干をまろやかに仕上げるために役立ったのは故郷・ナポリの実祖父から学んだ野菜の知識でした。やっぱり、おじいちゃんって凄い!

ジュゼッペ・モラーロ
ジュゼッペ・モラーロ
『ハインツ ベック』エグゼクティブシェフ。1986年、伊・カンパーニャ州ナポリ生まれ。幼い頃から父が経営する店の厨房に出入りし、自然に料理人を目指す。
ハインツ・ベック氏(写真左)プロデュースの『Gusto by Heinz Beck』(ポルトガル・アルガルベ)、『La Pergola』(イタリア・ローマ)などを経て、2014年、東京の『ハインツ ベック』オープンに伴い来日。同店は「ガンベロロッソ・イタリアンレストランガイド・インターナショナル版2017」で最高評価のトレ・フォルケッティ(3フォーク)を獲得。

梅は原産地の中国から遣隋使によって日本に伝えられたといわれています。干した梅の実を燻製にして解熱や咳止めなどに用いられた“烏梅(うばい)”と共に苗も持ち込まれたとか。
梅干は、平安時代には作られていたと考えられています。6月頃にほどよく熟した梅を収穫して塩漬けにした後(ここで梅酢が出る)、梅雨明けして晴天が続きそうな頃に3日間天日干しして夜は梅酢に戻し、その後の3晩は夜露にさらし昼間は梅酢に戻す(土用干しと呼ばれる)というのが昔ながらの家庭での梅干の作り方。この状態の梅干を“白干梅”と呼びます。
梅の生産地として名高い和歌山県のみなべ町は“南高梅”発祥の地。「紀州みなべの南高梅」として商標登録されています。一年を通して温暖な気候、梅雨の時季にはしっかり雨が降り、水はけのよい土壌などの環境が梅の栽培に向き、ここで栽培される白梅“南高梅”で作った梅干は最高級品とされています。最近は減塩調味を施したもの、昆布や鰹節、蜂蜜などを加えた調味梅干も人気です。

今回の見学先はこちらです

五代庵 GINZA
店長の新家昌春さんが手にしているのは「難が去り縁起がよい」とされる申年に、神事を行った農園で収穫した梅を漬け込んだ白干梅。特に昨年、丙申年に作られた「丙申年の梅 五福」は特別。1粒¥3,240(税込)。
  • 五代庵 GINZA
  • 五代庵 GINZA

1834年創業の老舗
紀州梅専門店で味わう最高級の梅干

五代庵 GINZA

東京都中央区銀座8-2-10 誠和シルバービル1F
☎03-3571-5858
営業:月〜金11:00〜22:00、土〜18:00、日・祝日休

梅の生産量日本一の和歌山県、その主産地のひとつ、みなべ町に天保5年に創業、今年で183年目を迎える㈱東農園の直営店。家庭用から贈答用までさまざまなパッケージの7種類の梅干のほか、梅塩や梅びしお、白梅酢等の調味料類、ゼリー等の菓子類、梅干こんぶ茶、梅酒などバリエーション豊かな梅製品が並びます。 http://www.godaiume.co.jp/

五代庵の梅干ラインナップを試食しました

こんぶ梅
こんぶ梅

「想像していた以上に、昆布の旨みだけでなく香りも強く感じた」

塩味は残しつつ、昆布の旨みと風味が塩味と酸味を包み込みまろやか。昆布の香りもあり。

ジュゼッペ・モラーロ
紀州五代梅
紀州五代梅

「白干梅より少しマイルド。人気商品だけあってバランスがとてもいい」

本みりん、蜂蜜を使用。旨みを含んだまろやかな甘みと塩味、酸味のバランスのよさが特徴。

ジュゼッペ・モラーロ
白干梅
白干梅

「塩味は強いけれど、味がシンプルなので果実感も強く感じられる」

塩味が一番強い。塩以外何も加えないので南高梅本来の味をダイレクトに堪能できる。

ジュゼッペ・モラーロ
しそ漬梅
しそ漬梅

「しその香りがとてもいいし色も美しいね。さっぱりとした味わい」

しその香りと味わいで爽やかさをプラス。梅干の酸味とのバランスもよいうす塩味の梅干。

ジュゼッペ・モラーロ
はちみつ梅うす塩味
はちみつ梅うす塩味

「これが一番マイルド。優しい甘みが塩味と酸味を包んで美味しい」

7種の中で最も塩分が少ない(6%)。塩分は抑えつつ酸味、甘み、旨みのバランスはよい。

ジュゼッペ・モラーロ
黒糖黒酢仕込み
黒糖黒酢仕込み

「塩分よりも、深くて穏やかな甘みと複雑な酸味を感じる。面白い」

ミネラル豊富な黒糖、蜂蜜、米黒酢、リンゴ酢を使用。栄養素も豊かな甘酸っぱい梅干。

ジュゼッペ・モラーロ
黒潮かつお梅
黒潮かつお梅

「これを使うと和食になってしまうかな……鰹の旨みが際立っている」

梅は紀州五代梅を使用。そこに鰹の旨みをプラスした梅干は、白いご飯との相性が抜群。

ジュゼッペ・モラーロ

ドライトマトにも酸味や甘みはあるけれど、それにしても梅干は……

「An apple a day keeps the doctor away.」
欧米ではリンゴで健康維持!

ライターS(以下、S)日本の梅干、いかがでしたか?

ジュゼッペ(以下、G)こんなにしょっぱくて酸っぱいもの、初めて食べました。最初はビックリしたけれど、よ〜く味わうと……複雑に混ざり合った酸味、塩味、甘み、そして旨みが感じられるし、果実感も感じられて美味しかった。でも、一粒食べるのはちょっと躊躇しちゃいます(笑)。みんなは一粒丸ごと、食べるんですか? 平気なの?

編集者K(以下、K *無類の梅干好き)僕は平気、何粒でもいけます。

S私は小さめの粒ならなんとか……日本では昔から、お弁当のご飯にのせたり、おにぎりの具にすることも多いんです。梅干には殺菌効果がありますから。

Kイタリアには同じようなものはありますか? そもそも梅の実は食べる?

G僕の知る限りでは梅の木を見たことはないし、食べたこともないですね。「干す」ということではドライトマトが似ているかな。太陽の光をたっぷり浴びて、旨みを凝縮させるのは同じでしょう。でも、ドライトマトは塩や調味料は用いない。トマトだけの味だからね。梅の実はプラムに似ているよね。

ちょっとオタクな梅の豆知識
昔から梅干が健康にいいとされる理由は?hers1709_ph16
梅干には食中毒の原因となる「黄色ブドウ球菌」の増殖を防ぐ強い殺菌力があります。口内の殺菌にも作用し口臭予防にも。また、豊富に含まれるクエン酸が疲労の原因の乳酸を分解するので、疲労回復の効果もあり、クエン酸はアルカリ性なので血液の酸性化(ドロドロになる)を抑えて中性化。最近、胃潰瘍や胃癌の原因となるピロリ菌を抑制する力があることも判明。
ほかにもあります、
梅干の利用法
①梅干のクエン酸が青魚の臭みを消すので、青魚を煮るときに梅干を入れるとよいとされています。イワシ等の小魚なら骨も柔らかくなり丸ごと食べられます。②「頭痛にはこめかみに梅干を貼る」は一部正解。梅干の香り成分「ベンズアルデヒド」には鎮痛効果があり、貼らずに嗅ぐだけで効果あり。
「梅干と鰻を一緒に
食べてはいけない」
というのは本当?
梅干の酸味と鰻の脂が混ざり消化不良を起こすのがその理由とされていたようですが、特に根拠はないようです。最近では逆に、梅干の酸味が胃酸の分泌を促して鰻の脂の消化を助けるよい組み合わせとされています。梅干効果で胃がもたれず、高価な鰻の食べすぎを止めるために広まった……という説も。

マサさん(『ラ・ペルゴラ』でジュゼッペと一緒だった菱田雅己さん。現在『ハインツベック』のスーシェフ 以下、M)ローマにいた頃、梅干が食べたくなって、ジュゼッペが言うように、梅に似ているプラムならできるかもしれないと思って作ってみたんですよ。

Sええ! どうなりました?

M粒が大きすぎて時間がかかったうえに味にぜんぜんパンチがなくて、日本の梅干のようにはなりませんでしたね。

G日本人は梅干が大好きなんだね。

K昔から「一日一粒の梅干で医者いらず」って言われるくらい梅干は体にいいし。

Gイタリアでは「一日一個のリンゴで医者いらず」。ナポリではおじいちゃんが育てたリンゴを毎日食べていたから今も健康! リンゴが採れない時季にはリンゴのジャムを食べていたよ。

Sおじいさんが育てたリンゴだなんて素敵ですね。おじいさんは野菜の栽培もなさっていたんですか?

Gそう、おじいちゃんは、僕の“野菜の先生”でもあるんだよ。

M今回作ったフィノッキオの使い方に関しても、ジュゼッペにはおじいさん譲りの持論があるんですよ。

Gフィノッキオにはオスとメスがあってふっくらした部分はオスで甘みが強くて味がまろやかになるのでピューレに、青みの強い香りが特徴の茎の部分はメスでサラダに適している。こんなふうに教わったから、それを信じてる。実際、その通りだとわかったしね。

Kおじいさんは偉大ですね。

Gそういえば今回、途方に暮れていた僕を助けてくれたのも妻のおじいちゃんだったし。梅酒も美味しかったなあ。でも、やっぱり一粒食べるのはきついよ。う〜思い出すと顔がしわくちゃになる!

和の食材で新しいイタリア料理

主役のエビを梅干の香りで優しく包み込んだ逸品

hers1709_ph17
ボタンエビのグリル梅風味 
フィノッキオのピューレ添え

梅干の酸味、塩味、香りをほんのりまとった北海道礼文島のボタンエビ(産地は時季によって異なる)。国産オレンジ果汁をクローブ、シナモン、スターアニスと煮込み乾燥させたシートとフィノッキオのピューレの自然な甘み、梅干の塩味や酸味が好バランスの繊細な一品。

※このメニューは9月11日まで、丸の内の【ハインツ ベック】で実際に食べることができます(3日前までの予約が必要)。
◎ハインツ ベック/東京都千代田区丸の内1-1-3
日本生命丸の内ガーデンタワーM2F(入口は1F) 
11:00〜15:00(L.O.13:30)、17:30〜23:00(L.O.20:00)日休

ジュゼッペ和食の冒険
ジュゼッペ・モラーロ

「梅干がテーマと聞いて、食べたことがなかった僕は早速、スーパーで購入。食べてみてビックリ。もの凄くしょっぱくて酸っぱくてあまり美味しくない! もう、パニック。料理を作ることができるだろうか……と。困惑している僕を見かねて、妻が彼女の85歳のおじいちゃんの家に連れて行ってくれました。そこで、彼が漬けた10年ものの梅干を食べてまたビックリ!
しょっぱくて酸っぱいけれど旨みがある……美味しい! 丁寧に漬けた梅干は旨みも香りもあって美味しいんだ。『五代庵』の梅干もどれも上品で美味しかった。1個食べるのはきついけど(笑)。梅干を食べたことがあるローマのハインツ・ベックシェフにも相談して、2人で選んだ食材がボタンエビ。
直接塩を使わずに“梅干シート”で優しく染み込ませた。それでもまだ酸味と塩分が際立ちすぎるので、オレンジとフィノッキオを使って自然な甘みをプラス。『はちみつ梅』を使えば簡単に甘さも加えられたけれど、そこは僕のプロ魂で使わずに工夫してみた。
酸味、塩味、甘み……さまざまな味わいが皿の上で融合して、食べた後に軽やかさが残る。それが『ハインツ ベック』の料理の真骨頂。最初は手こずった梅干だけど、僕の味覚と料理の幅を広げてくれたと思う」

撮影/牧田健太郎 取材・文・イラスト/齊藤素子 構成/川原田朝雄

HERS 2017年9月号より