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新連載 ハインツベック的「和食材」の新しい楽しみ方ジュゼッペ和食の冒険

【一保堂茶舗 東京丸の内店】にて、日本茶のレクチャーを受けるジュゼッペ・モラーロ氏。代表的な茶葉を前にそれぞれの美味しい淹れ方を習いながら、テイスティング。

当たり前のように日々口にしている和の食材や調味料。「和食」が世界から注目されている今、改めてその魅力を検証してみましょう。でも、ただ勉強するだけではつまらないので、ここではちょっと視線を変えて捉えてみました。丸の内のリストランテ【ハインツベック】で腕を振るう新進気鋭のシェフ、ジュゼッペ・モラーロ氏に、イタリア料理的視点から和食の魅力を探っていただきます。

ジュゼッペ・モラーロ
ジュゼッペ・モラーロ
『ハインツベック』エグゼクティブシェフ。1986年、伊・カンパーニャ州ナポリ生まれ。幼い頃から父が経営する店の厨房に出入りし、自然に料理人を目指す。
ハインツ・ベック氏(写真左)プロデュースの『Gusto by Heinz Beck』(ポルトガル・アルガルベ)、『Café Les Paillotes』(イタリア・ペスカーラ)、『La Pergola』(イタリア・ローマ)を経て、2014年、東京の『ハインツベック』オープンに伴い来日。同店は「ガンベロロッソ・イタリアンレストランガイド・インターナショナル版2017」で最高評価のトレ・フォルケッティ(3フォーク)を獲得。

ジュゼッペと一緒に日本茶の世界をおさらいしてみよう!

好みの茶葉を選び、正しい温度の湯で美味しい日本茶を淹れ、豊かな時間を過ごす――もちろん既に実践している方も多いと思いますが、
ジュゼッペの印象も聞きながら、今一度、お茶の特徴を種類別に整理してみました。

露天園 ろてんえん
覆いをしない畑で陽差しをたっぷり浴びて育つ茶葉は、
お茶独特の渋みと甘みが調和したすっきりとした味わいになります。
煎茶
煎茶

「後味にかすかな酸味を感じる。昆布の代わりに煎茶を使い、鰹節合わせて出汁を取るとその酸味が生かせると思うね」

渋みと甘みがほどよく後味爽やか。
3客分(約210㏄)約10gの茶葉に約80℃の湯を注ぎ待つこと約1分。
二煎目は待たずに。

ジュゼッペ・モラーロ
(番茶)
柳

「クセがなくて飲みやすいね。とても軽やか」

煎茶の大きく成長した葉(柳)を使うため、あっさりと軽い風味が特徴。熱湯を注いで30秒ほど待つのが目安。

ジュゼッペ・モラーロ
ほうじ茶(番茶)
ほうじ茶

「渋みや苦みが少ないから、料理と合わせて飲んでもよさそう」

焙煎された茶葉の香ばしい香りも魅力。タンニンやカフェインの含有量は少なめで飲みやすく食事中に飲むお茶としても人気です。

ジュゼッペ・モラーロ
覆下園 おおいしたえん
覆いをして(新芽の成長期4〜5月の約20日間)直射日光を遮り渋みへの成分変化を抑えて、甘みのあるまったりとした味わいに。
抹茶
抹茶

「舌の上にジャムを塗られたみたいに複雑な味わいが一気に感じられるね」

葉を微粉末状に挽くため、葉の旨みをそのまま味わうことができるのが特徴。お湯と抹茶の量の加減でいろいろな濃さを楽しめます。

ジュゼッペ・モラーロ
玉露
玉露

「低めの温度でタンニン(渋み)を出さないように抽出して茄子のピューレに混ぜ、焼いた魚の下に敷いたらよさそう!」

独特の旨み、余韻の長い甘みは、3客分(60〜90cc)で約10gの茶葉に約60℃のお湯を注いで1分半〜2分。じっくり引き出します。

ジュゼッペ・モラーロ
いり番茶
いり番茶

「スモーキーな香りと個性的な味わいが衝撃的! 羊料理のソースに使ったら後味がすっきりして大正解だったよ」

「京番茶」とも呼ばれ、京都では普段使いのお茶として親しまれています。独特のスモーキーな香りとさっぱりとした味わいが特徴。

ジュゼッペ・モラーロ

*茶葉やお湯の量は【一保堂茶舗】での目安です。湯の温度は必ず熱湯を茶碗に注ぐなど“湯冷まし”して下げてください。

ちょっとオタクなお茶の豆知識
産地と種類についてお茶
お茶の産地は全国にありますが、農林水産統計の平成28年・荒茶(摘んだ茶葉を加熱、揉捻、乾燥させた精製前の茶)生産量を見ると、ベスト3は、①静岡県②鹿児島県③三重県。それぞれの県の代表的なお茶を挙げると、「静岡」→静岡茶、川根茶、掛川茶、「鹿児島」→知覧茶、「三重」→伊勢茶など。ほかにも足柄茶(神奈川)、宇治茶(京都)、八女茶(福岡)、嬉野茶(佐賀)、美濃白川茶(岐阜)など、それぞれの土地に適した栽培方法とその茶葉の特長を生かす製法があり、その土地の味を楽しむことができます。国産紅茶の人気も高まっているようです。
保存の際に気をつけるべきことは?
茶葉の大敵は酸素・湿気・光・強い香りなど。密閉性の高い銅、ブリキ、錫などの金属製の茶筒はお勧めです。使うほどに手に馴染んで、経年変化も楽しむことができます。
あのことわざ、慣用句の由来は?
〝お茶を濁す〟=茶道をあまり知らない人が濁ったお茶を淹れて抹茶に見せかけた→その場しのぎで話をそらすこと。〝お茶の子さいさい〟=「お茶の子」はお茶に添えて出される軽いお菓子のこと。簡単に食べられてお腹に負担がかからない→簡単に片付けられる物事。「さいさい」は、囃子言葉。
念のため……八十八夜はご存じですね?
童謡『茶摘み』の歌詞でも知られる八十八夜は、立春から数えて88日目。茶摘みの時期は産地や気候等で異なりますがこの日に摘まれたお茶は縁起がいいとか。
『♪ちゃっきり節』は静岡の伝統民謡ですか?
実は、静岡鉄道(当時は静岡電気鉄道)が、昭和2年に狐ヶ崎遊園地の開園記念と沿線の観光や物産を広く紹介するために作ったコマーシャルソング(静鉄グループHPより)。作詞は当時、既に高名な詩人であった北原白秋、作曲は町田嘉章。現在では静岡の民謡として親しまれています。ちなみに30番まであります。
今回の見学先はこちらです
一保堂茶舗 東京丸の内店

「茶 一つを保つ」伝統の安定した味を楽しめる老舗専門店

一保堂茶舗 東京丸の内店
東京都千代田区丸の内3-1-1 丸の内仲通り国際ビル1F
☎03-6212-0202 ●11:00〜19:00(喫茶室は18:30L.O.)年末年始休
享保2年(1717年)、京都寺町通りに拓いた「近江屋」を前身とする老舗の日本茶専門店。茶筌や急須を使って淹れるお茶から、手軽に楽しめるティーバッグまで幅広く販売。2010年にオープンした東京・丸の内店では、喫茶室でゆっくりお茶が味わえるほか、テイクアウトサービスも。定期的に開催されるお茶の教室も人気です。店内のカウンターでテイスティングもできます。
番茶、煎茶、玉露、抹茶

右から、番茶、煎茶、玉露、抹茶。【一保堂茶舗】では、お茶の色、香り、味わい等を確かめつつ、お茶の美味しい淹れ方を習うことができる淹れ方教室も人気。英語のパンフレットも用意されています。お茶の個性を知ることで、飲みたい場面がイメージできて、好みのお茶が見つかるはずです。

茶の原料となるチャ(植物としての茶)は、ツバキ科ツバキ属の永年性常緑樹(学名:カメリア・シネンシス)です。大きく中国種とアッサム種に分かれ、中国種は主に緑茶の原料に、アッサム種は主に紅茶の原料になります。

そして、その生葉の酵素の働き(=発酵)を加熱して止めるタイミングで3つに分類されます。①不発酵茶→できるだけ早く加熱。日本の緑茶はこれ。②半発酵茶→酵素を少し働かせてから加熱。代表は烏龍茶。③発酵茶→酵素をしっかり働かせてから加熱。紅茶。微生物で発酵を促す「後発酵茶」というのもあり代表はプーアール茶。日本の碁石茶、阿波番茶もこちら。 不発酵茶グループの緑茶ですが、産地や製法の違いで味わいは実にさまざま。【一保堂茶舗】で扱うのは、宇治川、木津川の間で栽培される茶葉で作ったお茶が中心です。

近年注目されつつあるのが、ワインのテロワールのように年度や畑によって異なる出来の違いを味わい、楽しむというもの。 その一方で、職人の高い技術によって茶葉を選び、適切なブレンドをし、毎年変わらない安定した味を保つという【一保堂茶舗】のような専門店の存在は、これからのお茶の楽しみ方の多様性を考える上での礎となるはず。丹精込めて作られた日本茶はシェフの心も掴んだようです。

ジュゼッペと取材スタッフの方談Time 故郷のナポリと比べてみると面白い

日本茶の種類と味わいを学んだジュゼッペですが、では、イタリア人シェフの
味覚的にはどのように感じたのか。イタリアでお茶に代わるもの
といえば? 取材後に担当ライターおよび編集者とフリートーク。

直火式の小型エスプレッソメーカー
〝マキネッタ〟は、日本なら急須のような存在?

ライターS(以下、S)ジュゼッペさんの故郷のナポリではお茶は飲みますか?

ジュゼッペ(以下、G)ナポリには最高に美味しいエスプレッソがあるからね。ナポリでお茶といえば、庭に生えているハーブを摘み取って生のまま使うフレッシュなハーブティーだから、日本茶のようなものはないね。ティーバッグの緑茶はあるけど、今日飲んだものとは別物? っていうくらいのクオリティだと思う。

編集者K(以下、K)最近、抹茶がヨーロッパで注目されているようですが、抹茶のデザートを見たことあります?

G抹茶は粉末なので使いやすいのと色が綺麗だから、確かに最近はよく使われているね。でも、日本で抹茶を飲んでみて、イメージが180度変わった。

S日本ではどちらで? 日本料理店?

G凄いよ〜京都の『吉兆 嵐山本店』と、六本木の『龍吟』で。どお、この2軒なら文句なしでしょ?(笑)

Sおお、素晴らしい(笑)。苦くありませんでしたか?

G苦みはあるけど、そのほかの味わいも同時に感じられるので美味しかった。今回飲んだものも含めて、同じ抹茶でも味わいが違うことにも驚きました。泡立てるのも興味深い。

業務用のエスプレッソマシンは、使えば使うほど
エスプレッソが美味しくなる!

Kなるほど。ところで、ナポリのエスプレッソってそんなに美味しいの?

Gナポリのエスプレッソは特別。別格!イタリアで一番美味しいって言われているんだ! ナポリは湿気が少ないので豆がいい状態で保存できるし、豆の挽き具合へのこだわりにも並々ならぬものがある。硬水も美味しいエスプレッソの必須条件。

S一日どれくらい飲むもの?

G朝飲んで、10時、ランチの後、15時、17時……まあ、7〜8杯ってとこかな。

Kそんなに! 家でも? 直火式の小型のエスプレッソメーカーがあるよね。

G“マキネッタ”ね。まあ、使うけれどナポリの街には、本当〜に至る所にバールがあるから、バールにさっと立ち寄って飲むことのほうが圧倒的に多い。

K一杯いくらくらい?

G80円くらいかな。人気のバールでは一日平均2000杯くらい出るって聞いたことがある。

Sわあ、凄い。砂糖は入れるもの?

Gだいたい7割が砂糖入れる派らしい。

Sジュゼッペはどっち?

Gもちろん入れる派! たっぷり入れる。それから、バールのエスプレッソマシンは使えば使うほど美味しくなるんだよ。

ナポリのエスプレッソは抽出量少なめらしい。
砂糖をたっぷり入れてよ〜くかき混ぜる。

Sピカピカに磨いて大切に使われるエスプレッソマシン……格好いい! ところで、日本茶とエスプレッソの共通点はあるのかしら。まったく違うもののように感じられるけど……。

G旨みとコクのバランスを大切にしていて、後味というか余韻を楽しむところは似ていると思う。ただ、砂糖を入れて自分で苦みを調整するエスプレッソに対して、苦みそのものを味わうのが日本茶。そこが面白いよね。

Kもし、店で日本茶を出すとしたら?

Gう〜ん、抹茶を出す店は多いけど、僕なら玉露かな。最初
に甘みを感じて最後は苦みで締める……そんなイメージ。
すっきりするし、一杯のお茶の味わいにストーリーが感じら
れるのもいいね。ああ〜美味しい玉露が飲みたい!

K、Sナポリのエスプレッソ飲みたい!

BUONO

和の食材で新しいイタリア料理

緑茶とウニ――お鮨屋さんで味わう2つを使って
オシャレなアンティパストが生まれました

アンティパスト

*このメニューは8月末〜10月末まで、丸の内の【ハインツベック】で実際に食べることができます。
◎ハインツベック/東京都千代田区丸の内1-1-3 日本生命丸の内ガーデンタワー1F・M2F
11:00~15:00(L.O.13:30)、17:30~23:00(L.O.20:00)日休

アンティパスト
抹茶のグラニータの作り方。1.抹茶を水に入れてよく混ぜ合わせます。「パコジェット」(液体や食材を冷凍・粉砕してグラニータを作る機械)の専用容器に漉し器を使って入れてセット。2.あっという間にこの状態に。3.2を液体窒素の中に投入。4.かき混ぜると……このような細かい球状に。抹茶の複雑な旨みが凝縮され、舌触りも滑らかな繊細なグラニータが出来上がります。ウニ、アーモンド、カプリーノと共に器に美しく盛り付けます。
北海道産バフンウニと【一保堂茶舗】の
抹茶を使ったアンティパスト
〝抹茶のグラニータ、ウニ、アーモンドと
カプリーノチーズ添え〟

「ウニ」と「抹茶」という、和食に使われる食材を使いつつモダンなイタリア料理に仕上げた一皿。ウニの甘さを、抹茶と薄くスライスした生のアーモンドの2種類の苦み、
カプリーノチーズ(ローマ近郊で作られる山羊乳の硬質チーズ)の塩分が際立たせます。
最後にライムのスプレーをひとかけ。爽やかな香りで仕上げました。「日本でしか完成しえない一品。コースの2皿目に出したいね。抹茶のほろ苦い後味が完璧」。
*8月のメニューに登場します!

ライムスプレー
ハインツ・ベックシェフのオリジナルのライムスプレー。アルコール分が多いのであっという間に気化して香りだけが残る優れもの。
ジュゼッペ和食の冒険
ジュゼッペ・モラーロ

「僕の師匠のハインツ・ベックは、以前から日本の食材や調味料を熱心に研究していて、料理にも取り入れている。ローマの『ラ・ペルゴラ』では、日本から日本茶の専門家を招いてテイスティングの会を催したこともあるくらい。日本の食材を食べて感じた感動を料理でお返ししたいのです。“カンパチのホワイトバルサミコのマリネ、ザクロの粉雪添え”という美しい一皿もそのひとつだね。2014年に日本に来てから日本茶を飲む機会はあったけど、今回、茶葉のことや美味しい淹れ方を学んでみて、味わいの多様さにホントびっくり! その奥深さがわかってもっともっと知りたくなった。
料理のイメージも浮かんで、まずピンときたのが超スモーキーな〈いり番茶〉。イタリアでは魚の生臭さを消すために柑橘系果物を使うのが一般的だけど、茶葉で魚を昆布締めみたいに挟んでみては? と、ひらめいてトライ。残念ながら魚にはちょっと強すぎた……でも、羊料理のソースに使ったら大成功。コクとキレのあるいいソースができた。
心を込めて丁寧に淹れた一杯のお茶でもてなす。知識はもちろん必要だけど、淹れる人の思いが大事。それは僕の料理に対する姿勢と同じ。……っていう締めくくりはカッコ良すぎ?(笑)」

撮影/牧田健太郎 取材・文・イラスト/齊藤素子 構成/川原田朝雄

HERS 2017年8月号より