和食STYLE

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第4回 あなたの味覚は大丈夫?30代から始める味育 「『違う』で作る“おいしさ”のセオリー」

 前回お届けしたのは、「同じで作るおいしさのセオリー」。同一のものを使用することによって生まれるおいしさについてお伝えしましたが、今回は「"違う"で作るおいしさのセオリー」についてのお話。
 異なるモノを組み合わせることによって、複雑な味わいが生まれ、旨味の深さも感動も大きくなります。例えば、パスタに使うトマトソース。1つの種類のトマトより、いくつかの種類をミックスしたほうがおいしく感じられるのはご存知でしたか?それは味の面でも「複雑さ」をもたらし、日本人の和食がもつ特有の「おいしさのセオリー」が隠されているのです。

洋食の出汁文化!?イタリアを代表する「トマト」ソース

 トマトは、南米アンデス山脈の地帯を原産地とするナス科の植物です。いまでは露地だけでなくハウス栽培も盛んで、品種によって酸味と甘味に特徴があり、また大きさも様々です。近年、栽培方法が進化し、甘いトマトや多収量が可能なトマト、赤以外の色のついたトマトなど、さらに品種が増えつつあります。最近では、百貨店やスーパーへ行くと、サイズも形、色も様々な、充実したトマトコーナーを目にされている方も多いのではないでしょうか。
 日本ではサラダなど生野菜として食されることが多いですが、ヨーロッパでは、果肉をつぶしてソースにし、日本人の出汁のように用いられています。その理由は、トマトに豊富に含まれるグルタミン酸とアスパラギン酸が旨味の成分であるということです。イタリアでは、夏が終わる頃、トマトを大量にソースにし、殺菌した瓶に詰めて冬を迎えます。日本で言う味噌や醤油のような存在でトマトソースが使われているというのも、なんだか親近感が沸きますね。

「違う」種類で複雑さをつくる「ミルフィーユ」効果

 それでは、実際に数種類のトマトを組み合わせてトマトソースを作ってみましょう。前段でお伝えしたとおり、トマトには「加熱用」「生食用」があります。皮が厚く中身がつまっていて、スープにするとおいしいトマト。
 一方、皮が薄く中身がみずみずしくてそのまま食べるほうがおいしいトマト。
 世界中で人気のトマトには、用途に応じて様々な品種が開発されているんですね。

 写真のトマトソースには、アイコとフルーツトマトを使用。糖度が特徴のこの2種類を組み合わせることによって、タマネギやニンニクといった他の食材はほんの少量使用するだけで、日本人好みのトマトソースができました。

 ところで、スーパーなどでこれらの様々なトマトが販売されていますが、品種名だけではよく使い方がわからないですよね。こちらに代表的なトマトをご紹介します。ぜひ、お買い求めの際には参考にされてみてください。

「アイコ」と「アメーラ」で作ったうまみたっぷり、とっても甘いトマトソース

トマトの代表的な種類とおすすめの使い方

☆桃太郎トマト
スーパーなど多く販売されている大玉トマト。外形が傷みにくいため、ストック用のトマトとして便利です。

☆シシリアンルージュ
酸味と糖度がそれぞれあり、バランスがよく生食でも加熱でもおいしい。最近店頭で見かける事が多くなってきました。

☆アイコ
生食が多い日本人の食べ方に合うよう、酸味が少ない甘味が特徴のミニトマトです。さっと洗ってすぐにサラダにできるので、手軽に用いることができます。

☆サンマルツァーノ
世界中で人気の長楕円型のトマトでネバリとコクがあります。ソースなどの加熱調理にすると、抜群に旨味がキマり、お店のようなソースを作ることができます。

☆にたきこま
日本で開発された、加熱用中型トマトです。世帯人数がおひとりさま、お二人様など少人数で利用するには、中型のトマトはサイズ感がよく、重宝します。加熱調理に向いていて、こちらもおいしいソースができあがります。

☆アメーラルビンズ
高糖度のフルーツトマトで、小さくて粒感があり、それでいて弾ける食感と甘味が特徴です。サラダだけでなく、そのままでも充分おいしく、塩無しにスナック感覚で食べることができます。

和の出汁の基本「昆布と鰹の合わせだし」

「複雑さ」というおいしさの原点は「合わせ出汁」

 さて、イタリアの出汁「トマトソース」についてご紹介しましたが、対するわたしたち日本の出汁といえば、代表的なのが「昆布」や「鰹」。
 特に関西で定着しているのは「昆布出汁」関東で定着しているのは「鰹出汁」と文化圏によってなじみのある出汁の違いはありますが、和食料理屋さんへ行くと「合わせ出汁」の文字を時々見かけるのではないでしょうか?
 これも「"違い"で作るおいしさのセオリー」のひとつ。「合わせ出汁」とは、「昆布と鰹の合わせ」を指しますが、昆布が持っている「グルタミン酸」と鰹が持っている「イノシン酸がかけあわされることによって、なんと旨味は7倍になるとも言われています。単一で味わうよりも、相乗効果を発揮する「合わせ出汁」にはちゃんとした調理科学の根拠があったんですね。

 身近なコンビニエンスストアの「おでん」のお出汁も、こうした「合わせ出汁」を用いることによって、手軽に美味しいお出汁を味わう工夫をされているそうです。
 昆布と鰹以外にも、鶏や貝類、キノコなどなど、日本の食材は旨味たっぷりの出汁の宝庫。鍋やスープなど、煮込み料理も増えてくるこれからの季節。様々な異なる食材を組み合わせて「"違い"で作るおいしさのセオリー」実践してみてくださいね。

和の出汁が持つ様々な栄養素

フードスタイリング:中山晴奈  撮影:新田理恵

コンテンツナビゲーター 菅 慎太郎(かん しんたろう) 口福ラボ代表1977年埼玉県生まれ。味覚コンサルタント&コピーライター。「おいしさ」の表現を企画する口福ラボを主宰し、味香り戦略研究所では「味覚参謀(フェロー)」としてマーケット分析、商品開発を手がける。一般社団法人日本味育協会講師

監修者編集後記 どうしても、それぞれの個性や味をひきたてようとして逆に味がぼやけることがあると思います。「違う」で作る、おいしさのワケ。異質のもの同士を合わせることで、喧嘩せず、調和が生まれ、お互いの良さを引き出し、引き立てあうことができる。この和食スタイルが、西洋にはない味わいを提供している。次回第5回目、最終回となります。
調味、調理。食事のバランスを程よく整えるのが、和食スタイルの真髄です。
松田 龍太郎 1977年生まれ。青森県弘前市出身 慶応義塾大学環境情報学部卒業後、日本放送協会に入局。報道カメラマンとして、全国各地の事件事故、災害など日々のニュースの現場をはじめ、紀行番組の撮影に従事。
その後、2007年企画・プロデュース業に転身。2010年より株式会社オアゾ代表を務める。
積極的に女性クリエイターを活用し、特に食にまつわる事業・店舗開発、PRコンテンツ制作を得意とする。
http://www.oiseau.co.jp