和食STYLE

story

NIPPONの「和食遺産」を巡る旅 郷土料理編 大分の「りゅうきゅう」

榊ゆりこさん、日本一の温泉県で豊後水道の海の幸にトロける

各地域に伝わる郷土料理を探す旅のシリーズ5回目は、温泉王国&郷土料理の宝庫である大分県に出かけました。
日本有数の漁場・豊後水道に面し、全国的に知られる高級魚も味わえる恵まれた土地だけに、魚を使った伝統料理も充実しています。大分県全域で愛されるシンプルな漁師料理を堪能しました。

別府温泉
日本一の湧出量を誇る別府温泉。町のあちこちから湯けむりが上がる風景や、湯色の異なる8カ所の温泉噴出口を巡る地獄めぐりも人気スポット。

程よくタレが染み込んだ時季の刺身を熱々ごはんに、お茶漬けに

新鮮な魚を使うからメチャクチャ美味!幸せ〜♡

大分を代表する食材といえば、佐賀関で水揚げされる関あじ、関さばといったブランド魚が有名ですが、太平洋と瀬戸内海の境界に位置する豊後水道は潮流が速く、身が引き締まった美味しい魚が獲れることで知られています。そんな海の幸に恵まれた土地ならではの郷土料理が“りゅうきゅう”です。漁師町で育ち、大分市内で料理教室を主宰している園田寿さんによれば、「漁師の家では明け方に漁を終えて戻ってくるので、朝ごはんには必ず獲ってきたばかりの刺身が食卓に並びます。量も大量なので、残った刺身を醬油や酒、みりんを合わせたタレに漬け込んで、胡麻や生姜、ネギなどをのせて食べるようになったのが“りゅうきゅう”の始まり」とのこと。
名前の由来は、琉球から伝わったという説、ごまを使う利休和えから名付けられたともいわれています。もともとは、保存目的で刺身を「ヅケ」にした漁師料理でしたが、現在では、魚の新鮮さを生かして、漬け込まずに、軽く味を染み込ませたり、直前にタレをかけて味わうスタイルも増えています。じっくり漬け込んだ“りゅうきゅう”は、トロッとなめらかな食感で、刺身とはひと味異なる味わいが楽しめます。
タレがしっかり染み込んでいるので、炊きたてのごはんにのせて丼にしたり、お湯や出汁をかけてお茶漬けにしても美味。シンプルだけどアレンジのきく大分を代表する郷土の味です。

りゅうきゅう
りゅうきゅう

もともとは、大量に獲れた魚や残った刺身を保存するためにタレに漬け込み、丼飯にのせて豪快に食べた漁師のまかない料理。

鶴見漁港
佐伯市の鶴見漁港では、活魚で出荷する場合は獲った魚を1週間ほど生け簀で泳がせ、脂が身に回って美味しい状態になってから出荷するそう。

 材料は豊後水道の新鮮な魚

関あじ、関さば

(上)大分が誇る高級魚の関あじ、関さば。佐賀関沖の豊予海峡で、佐賀関漁協の組合員によって一本釣りされた真鰺、真鯖だけに与えられるブランドで、釣った後の品質管理も徹底している。(右)佐伯の鶴見漁港に水揚げされた1本釣りの天然ブリ。

天然ブリ
基本の漬けダレ
基本の漬けダレ

「サラッと食べられる〝りゅうきゅう茶漬け〟もおすすめ」と、園田寿さん。ブラウス¥12,000デニム¥23,000(ともにアン レクレ)ピアス(私物)

地域によって独自の呼び名、味があるのが“りゅうきゅう”の奥深さ

 とにかく簡単、美味しい! アレンジも自在

魚料理や郷土料理教室も開催している園田寿さんに“りゅうきゅう”のアレンジ例を紹介していただきました。

「使う魚は決まっているのですか?」

その日獲れたものを使うので決まっていませんが、佐伯周辺では鰺や鯖、旧蒲江町ではブリ、保戸島はマグロ、杵築ではタイを使うことが多いです。

「地域によって料理名も変わるそうですが、タレも違うのですか?」

ごま油を入れるところもあるし、分量や漬ける時間もさまざまです。

「パックのお刺身もおもてなし料理になりそう! 最高の時短料理ですね」

漁村女性グループめばる
巻き網漁では県内有数の漁獲量を誇る鶴見港の「漁村女性グループめばる」のメンバーの方々と。みるみる美しい姿造りが完成していく熟練の魚捌きは感動もの。
地域別りゅうきゅう分布図
りゅうきゅうは大分全域で食べられていて、鯛しばり漁が盛んだった杵築では鯛、保戸島では鮪、佐伯市の旧蒲江町ではブリがよく使われる。

りゅうきゅう分布図

漁村から生まれたもうひとつの郷土料理「ごまだし」は
「りゅうきゅう」のタレにも使える万能調味料

佐伯市の郷土料理といえば、〝ごまだしうどん〟も有名。白身魚のエソや鰺などを焼いて身をほぐし、
胡麻と醬油、みりんを加えて加熱し、ペースト状にしたのが〝ごまだし〟。
うどんにのせて食べるのが一般的で漁師町のインスタント調味料として重宝されてきました。
「鶴見港の漁村グループめばる」が作る〝ごまだし〟は魚が多く、とくに美味しいと評判。

  • 鰺、エソ各、鯛のごまだし右から鰺、エソ各¥780、鯛のごまだし¥1,080。インターネットから購入可能。
  • ごまだしうどん茹でたうどんにのせて、お湯をかければ美味しいごまだしうどんの出来上がり。
  • 魚料理教室リーダーの桑原政子さんは料理研究家・園田寿さんのお母様。学校や若いママたち向けに魚料理教室も開催。

大分各地に伝わる多彩な郷土料理を食べ比べるのもお楽しみ

昔懐かしい置物や看板が飾られた店内はレトロな雰囲気。お酒の品揃えも充実。ブラウス¥15,000(アン レクレ)

温暖な気候と豊かな自然に恵まれた大分県は古くから「豊の国」と呼ばれ、山海の幸や川、里の幸を使ったさまざまな郷土料理、家庭料理が各地域に伝えられています。
ごはん系だけでも「りゅうきゅう丼」をはじめ、鶏めし、日田近郊の「ひたん寿司」、臼杵地方の「黄飯」、県南の「ひじきめし」、宇佐市の「かちえびちらし寿司」や「あみめし」、竹田市の「とうきびめし」など多種多彩。
温泉巡りをしながら、ご当地料理を味わうのも大分の旅の魅力です。

こつこつ庵0

こつこつ庵

関あじ、関さばをはじめ大分の代表的な郷土料理が楽しめる

創業44年、大分県庁の近くに店を構える郷土料理の人気店。
レトロな雰囲気の店内では豊後水道の海の幸をはじめ、「りゅうきゅう」や「だんご汁」「とり天」など大分の名物料理をひと通り堪能できます。
壁一面にズラリと並ぶお酒は九州の焼酎を中心に約300種類を品揃え。郷土料理のコースもあります。

大分市府内町3-8-19 ☎097-537-8888
営業/11:30〜14:30、17:00〜22:30 休日/日曜

琉球(りゅうきゅう)

カンパチ、鯛(各¥600)、関あじ、関さば(各¥1,000)の4種類から選べて、プラス¥200で丼にも。

琉球(りゅうきゅう)

きらすまめし

シメ鯖とおからを和えた臼杵市の郷土料理。きらす=おから、まめし=まぶすという意味。¥500

きらすまめし

椎茸豆腐

椎茸を刻んだ味噌を揚げた豆腐にのせて焼いた、大分名物の椎茸を使った素朴な料理。¥600

椎茸豆腐

だんご汁

小麦粉を手で延ばして平麺状にした団子と、里芋、人参、椎茸、地鶏を味噌仕立てにした汁。¥600

だんご汁

とり天

鶏肉消費量日本一の大分県民のソウルフード。練り辛子を溶いた酢醬油につけていただきます。¥600

とり天

やせうま

団子汁と同じように、麺状に手延べした小麦粉団子を茹で、きな粉と砂糖をまぶしたおやつ。¥500

やせうま

撮影/渡辺晃行 モデル/榊ゆりこ スタイリスト/鈴木仁美 ヘア・メーク/高梨 舞 取材・構成/秋山美英

STORY 2015年8月号より