和食STYLE

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第3回 あなたの味覚は大丈夫?30代から始める味育 「『同じ』で作る“おいしさ”のセオリー」

 カラフルなトマトやジャガイモ。初めて見る新しい品種の外国野菜。特に都心で暮らしていると、見たことのない食材に出逢うこともしばしば。「食べてみたいけど、どうやったらおいしく料理できるんだろう?」と分からず、諦めてしまってはいないでしょうか。
実は、どんな変わった色のジャガイモや、ふだん使っている男爵でも、変わらずにおいしく仕上げる"おいしさ"のセオリーというのがあります。今回はその中でも「同じ」で作る"おいしさ"のセオリーにチャレンジ!
 みんなが大好きなあの中華料理でひも解きます。

レシピは同じなのに、おいしさは違うのはなぜ?

 料理上手の友人が作る料理がおいしく、自分でも試してみたくなる。今日の料理教室で教わったレシピで自分でも作ってみたい!と張り切って、食材を揃え、レシピどおりに作ってみる。でも、何か味が違う気がする・・・そんな経験は誰にでもあることでしょう。
 なぜ、同じ食材とレシピなのに、味が異なった印象になるのでしょう。味を整える「調味」には、「おいしさ」を演出するコツがいくつか存在します。その一つが「同じ」によってつくる「おいしさ」です。
 シェフや料理人が下ごしらえを丁寧に、時間をかけて行うのはなぜか。その重要な要素の一つに「形を揃える」ということがあります。用いる食材を食べやすく、そして調理する際の熱の入り方にまで考慮し、食材を切っていく。「大きさ」や「形」を「同じ」にすることで、おいしい料理になることを知っているからこそ、大切にする作業なのです。ですから、「乱切り」と「乱暴に切る」ことは、おいしさを作る上では大きな違いとなります。今回は、その「切り方」を「同じ」にすることの大切さを同じ食材を用いて同じ料理を作ることで実感してみましょう。

青椒肉絲の食材

同じ形で作る青椒肉絲

 今回チャレンジするのは"同じ形"で作る"おいしい"のセオリー。
 写真は、中華料理の代表格、青椒肉絲(チンジャオロース)の一般的な食材です。
 青椒肉絲を思い浮かべてみてください。牛肉にたけのこ、ピーマン、ネギと、すべて同じ長さと細切りで切られていませんか?
 チンジャオロースの"おいしさ"の秘訣は、この食材の切り方に隠されています。

 料理に用いられる食材の形を揃えることで、異なる食材の食感を揃えることができます。これが口の中で重ね合わせることで、心地良い食感を生み出し、「ミルフィーユ効果」といわれるおいしさを演出することができます。

違う形で切った青椒肉絲(左)同じ形で切った青椒肉絲(右)

 写真は、同じ形で食材を切って作った青椒肉絲(右)と、バラバラに食材を乱切りして作った青椒肉絲(左)です。実際に作って食べてみると、使っている食材と量はまったく同じにもかかわらず、味わいの印象は異なって感じるから不思議です。右の、同じ形で切り揃えた青椒肉絲の方が噛み心地がよく、食材の味をまんべんなく感じることができます。
 こちらがおいしく感じる理由は、「同じ形」で切り揃えることによって、口の中で咀しゃくしやすく、味わいに集中することができる点にあります。そして、リズム感さえ感じられる食感の中に、肉のうまみ、筍の食感、ピーマンの淡い苦みと異なる味わいが重なり合い、複雑さを演出することができます。これが、口の中に広がる「おいしさ」となるのです。

 一方で、食材を乱切りして作ると、形が異なることで人間の本能的な反応から、「形や素材が何か」というほうに意識が向いてしまい、味わいに対する意識が薄れてしまいます。これがおいしさを半減させてしまうのです。(もちろん、食材や料理によっては、乱切りもおいしさを作る一つの手法になりえます)
 「食べやすくする」「味の広がりを感じる」ことで、同じ材料でもおいしさは異なった印象をもたらすことができるのです。

違う形で切り揃えた青椒肉絲の食材(左)同じ形で切り揃えた青椒肉絲の食材(右)

他にもまだある“おいしさ”のセオリー

 "同じ形"以外にも、露地栽培の野菜であれば、"同じ産地"として、収穫期を揃えることができます。「旬」を揃えることで、季節の恵みが食材そのものに現れるというもの。

 市場で購入した新鮮な地場野菜の、トマトやキュウリを、シンプルにカットして和えるだけのサラダがおいしいのは、もちろん鮮度というポイントもありますが、同じ場所、同じ時期に採れたからこそ生まれるハーモニーなんですね。

 その他にも、"同じ種類"で揃えると、「食感」を合わせることができます。例えば、茄子やトマトなど「果菜類(かさいるい)」で揃えれば、みずみずしい食感が。「根菜類」「豆類」であれば、ほくほくした食感となり、スープにすれば出汁として煮込まれしみだす旨味を味わうことができます。

いかがでしたでしょうか?改めて確認してみると、レシピに隠されていた"おいしさ"のセオリー。少し意識してみるだけで、ふだんの食事がぐっとおいしいものになるのではないでしょうか。

同じ湘南産地で揃えた野菜(左)同じ豆類で揃えた食材(右)

フードスタイリング:中山晴奈  撮影:新田理恵

コンテンツナビゲーター 菅 慎太郎(かん しんたろう) 口福ラボ代表1977年埼玉県生まれ。味覚コンサルタント&コピーライター。「おいしさ」の表現を企画する口福ラボを主宰し、味香り戦略研究所では「味覚参謀(フェロー)」としてマーケット分析、商品開発を手がける。一般社団法人日本味育協会講師

監修者編集後記 料理のレシピ通りに作ったのに、味が決まらなかったり 自分好みのものに仕上がらなかったりすることありませんか? 今回は食材の切り方を始め、味を整える「調味」を 料理作りという視点から紐解いた内容になりました。 美味しさのセオリーを学び、それを季節ごとに感じ取ったり、 試してみたりする楽しさを知ることによって生まれる 食の奥行きを感じていただけると嬉しいです。 特に食欲の秋です。一番食材の美味しさを味わえる季節が到来しておりますので、ぜひ今回の記事を参考にいろいろとトライしてみてください。 松田 龍太郎 1977年生まれ。青森県弘前市出身 慶応義塾大学環境情報学部卒業後、日本放送協会に入局。報道カメラマンとして、全国各地の事件事故、災害など日々のニュースの現場をはじめ、紀行番組の撮影に従事。
その後、2007年企画・プロデュース業に転身。2010年より株式会社オアゾ代表を務める。
積極的に女性クリエイターを活用し、特に食にまつわる事業・店舗開発、PRコンテンツ制作を得意とする。
http://www.oiseau.co.jp