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光文社厳選!和食情報ナビ

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第十回 癒し×和食文化[後編] 和菓子は進化しています。発想や形式も自由。コーヒーとも合います。

和菓子は茶の湯と共に進化を遂げて来ました。そして今、伝統を守りつつ、ストーリーを持たせた新しい和菓子が登場しています。

左:内田さん、右:杉山さん
左:内田さん、右:杉山さん

同じ和菓子の本に魅せられ菓子作りを学んだふたり。アーティスト肌の杉山早陽子さんと、職人肌の内田美奈子さんは、違う道を歩みながらも、「和菓子」というポイントでつながり、いつしか心を添わせるように。2006年創作和菓子ユニット「日菓」を結成。2012年には、工房をオープンしました。販売は月に一度ですが、イベントや展覧会などで作品を発表します。「新時代の和菓子」づくりに力を注ぐお二人にお話をうかがいました。

「日菓」の和菓子づくり

「日菓」の和菓子づくり

 ふたりが目指すのは、伝統文化としての「和菓子」をベースにしながらも、今の時代に則し、自分たちを表現できる「和菓子」づくり。製造方法や素材、季節感や風物詩を盛り込むといった和菓子本来の製作趣旨は踏襲していますが、デザインや発想はあくまでもオリジナルです。「見た人がくすっと笑ってくださったり、写真やデザインを観るように、そこから何かを感じ取っていただければと思っていますと」内田さん。一方、杉山さんは、「花は咲いて散る、和菓子もいくら美しくつくっても食べればなくなる。そのはかなさに、美が集約しているのだと思います。一瞬でもいい、そこにある美や面白さを観ていただきたいですね」と話します。おふたりがつくる「和菓子」は、日々の生活に潜む「面白み」や「せつなさ」などが表現され、観る人の気持ちを揺るがす作品。「和菓子を単なる伝統にしたくない。和菓子で今を表現したい」という想いがあふれています。

「和菓子づくりのストーリー」

 新作は別々に発案することもあれば、ちょっとした話の中から生みだすこともあるそうで、その後相談しながら、形にしていきます。たとえば、「日菓」の作品に「もてた人」という和菓子があります。学生服(学ラン)を模ったお菓子なのですが、よく見ると第2ボタンがありません。卒業式の日、想いを寄せる男子に「第2ボタンをください」と思い切って手をさしだす女子。はたして彼は第2ボタンを外して渡してくれるのか。そんな高校時代のほの甘くせつないエピソードを、この和菓子の先に想い描いてしまいます。ほかにも、涙でにじんだボールを葛で繊細に表現した「甲子園のなみだ」など、見るとそのシーンが心に浮かぶ作品がたくさんあります。
これまでは、和菓子では表現されなかった「心に残る一瞬」を、作品として形にする。誰もが「そんな時もあった」とふりかえることができるような、物語のある作品が「日菓」の真骨頂。ふたりの繊細な感性が伝わるから、手に取る人は、「食べるのがもったいない」、「ほかの作品も見たい」と思ってしまうのです。

「日菓」の和菓子たち

「三時」:見た通り、おやつの時間です

3時を示す時計のシルエットを模った羊羹。江戸時代に八つ刻(2時~4時)に間食したことからくる「おやつ」を表現しています。きれいに時計の時間を見せるため、スパッとシャープな線を出せる羊羹を用いました。ほのかな甘さが際立つ羊羹は、三時のコーヒータイムだけでなくいつでも食べたくなるすっきりした味わいです。

「空の穴」:曇りの日でも幸せになれます

空一面が雲で覆われる曇りの日。それでもときどきそこにぽっかりと空いている穴を見つけられたら、その日は一日幸せな気持ちでいられます。そんな雲の穴をやわらかなフォルムで表したお菓子です。外側はもっちりとして滑らかなういろう生地、なかには上品な味わいの白小豆の餡がはいっています。

「鬼の頭」:京都の大崎山の鬼を和菓子に

大山崎に伝わる「鬼の話」をもとに発想したきんとんです。大山崎周辺は筍の産地でもあるので、もじゃもじゃとした鬼の頭に筍を模った角を付けました。怖いというイメージの鬼がなんだか可愛く思えるほのぼのとした作品。ふんわり優しく口どけるきんとん。お茶だけでなくコーヒーにもよく合います。

歴史と伝統を重んじる和菓子の世界ですが、決してそれだけではありません。
時代とともに進化を続けているのです。ご紹介した「日菓」の和菓子は、
伝統を守りつつも、新しい発想とストーリーを盛り込むことで、さらに美味しさと楽しさを広げています。
お茶はもちろん、コーヒーにも合う、色々な意味で自由で楽しい和菓子です。

プロフィール


内田美奈子さん(写真上)は埼玉県出身。大学で写真と現代美術を専攻し東京の出版社に就職。そこで一冊の和菓子の本に出合い和菓子職人を目指して京都の和菓子店に。杉山早陽子(写真下)さんは三重県出身。京都の大学で英語を専攻、同じ本に影響を受けて老舗の和菓子店に就職した。その後、ふたりは出合い、2006年に「日菓」を結成。全国で作品を発表する傍ら、2012年12月京都市北区に念願だった工房を構える。「月一日菓店」を催し和菓子販売も行う。著書に『日菓のしごと 京の和菓子帖』(青幻舎刊)がある。

店舗情報

日菓

京都府京都市北区紫野東藤ノ森町11-1
和菓子工房だが、「月一日菓店」として店頭販売や受注販売も行う。
「月一日菓店」開催日はHPで確認を。

撮影/大道雪代 構成/中井 忍

松田龍太郎

癒やし×和食文化[後編]  監修

監修者編集後記

共通の一冊で出合い導かれた、日菓のお二人。
そのキーワードが「和菓子」。
和菓子を通じて、今を表現する。
食べ物がメディアとなり、表現のひとつの手段として成りたつさまこそ、僕は和菓子という表面的な伝統継承ではなく、その心意気、捉え方、視点を受け継ぐ「伝承」であると、お二人の話を聞いて思いました。
こうしたアクションが増えていくことにより日本、和食というものがスタイルとしてより洗練されていくことを願います。

松田 龍太郎

1977年生まれ。青森県弘前市出身 慶応義塾大学環境情報学部卒業後、日本放送協会に入局。報道カメラマンとして、全国各地の事件事故、災害など日々のニュースの現場をはじめ、紀行番組の撮影に従事。
その後、2007年企画・プロデュ−ス業に転身。2010年より株式会社オアゾ代表を務める。
積極的に女性クリエイターを活用し、特に食にまつわる事業・店舗開発、PRコンテンツ制作を得意とする。